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第二話:夫婦ごっこ

第二章・二話の間者視点です。

【夫婦ごっこを見守る間者】


 カレスト公爵領に向かう馬車の中、護衛部隊のリーダーであるカイエンは、任務の重要性を自らに言い聞かせていた。

 

 ――ラグナル王弟殿下の安全が第一。その次に、周囲に王族と悟られないことが重要だ。


 馬車が到着し、殿下が悠然と馬車を降り立った。その後ろを控えるアデル・カレスト公爵の姿に、間者たちの視線が集中する。

 

 ――ふむ、控えめながらも美しい装い。さすがだな。

 

 しかし、次の瞬間、殿下が「収穫祭にはお忍びで参加しましょう」と提案したことで、護衛一同は無言で目を見合わせた。

 

 ――殿下、お忍びって簡単に言いますが、我々が普段、どれだけ苦労しているかご存知で?


 さらに追い打ちをかけるように、殿下はアデルに商人の妻役を任命する。「お忍びの利便性を考えてのこと」と信じたいが、護衛たちの内心には次のような感想が渦巻いていた。

 

 ――いやいやいや、それ露骨すぎるでしょう。


 こうして、一行は収穫祭会場に到着。

 変装の出来栄えとしては完璧に近かったが、間者たちは心得ていた。殿下の存在感が、どんなに変装しても完全には隠せないことを――。


 市場ではラグナルが商人然とした演技を披露し、アデルも「妻」役を完璧に演じている。しかし、髪飾りを選ぶシーンでは、護衛たちは完全に困惑していた。

 

 ――「アディ、何色がいい?」って、どこの旦那さんですか!?

 

 しかも、その後の「君の瞳と同じ色だね。よく似合う」という殿下の台詞には、護衛の一人が鼻を押さえて小さく咳払いをしたほどだ。

 

 ――これは……殿下が本気で楽しんでいるやつですね。


 髪飾りをアデルに自らつける場面では、護衛たちは必死に目を逸らして耐えた。

 

 ――さすがにその距離感は近すぎませんか、殿下!?


 護衛たちが任務を全うするために、内心のツッコミを必死に抑えていたその時、間者の一人が囁いた。

「これ、私たちが守ってるのって何ですかね……殿下の安全? それとも、この不思議な関係性?」

 護衛一同、心の中で深く同意。


【ラグナル殿下観察日記】


件名:収穫祭護衛任務

報告者:護衛部隊・カイエン


観察内容:

1.殿下が「商人」、カレスト公爵が「妻」という設定で、完全に「夫婦ごっこ」を楽しんでいる様子。

2.髪飾り事件発生。殿下が自ら公爵の髪に飾るという行動を取り、我々護衛一同、精神的ダメージを受ける。


感想:

これ、我々が守っているのは殿下の命ではなく、殿下の恋なのでは?

髪飾りをつける手際の良さは一体どこで身につけたのでしょうか。しかも、カレスト公爵もその演技に完璧に応じるので、もう突っ込みどころが追いつきません。

今後、間者部隊内で「殿下の恋愛指南」を真剣に議題に上げるべきか検討したいと思います。


備考:

次回はもう少し控えめなお忍びをお願いしたい所存です――以上。

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