最終挿話:昨今の王国議会風景2 〜推し活紳士たちの熱き暗躍〜
【議員たちの思惑】
暖炉に黄金の炎が燃え盛る、二月末。
王国議会の広間には、静けさが漂っていた。高い天井と重厚な木製の机、整然と並ぶ議員たち――その空間には、王国の未来を議論する神聖な場にふさわしい緊張感が満ちている。
今日の議題は、郵便業務の一元化を目指す新たな提案だった。従来の書簡は、各家独自の発送部隊に依存していた。これを統一し、新しい行政体制として、郵便機関を設立するという大規模な改革案だった。
王国の議会では珍しいほどの熱気が、既に場を満たしていた。
尚、現在妊娠後期のアデルは欠席し、事前可否だけ申し出ている。
「本日の議題に入る前に、南北特定商品関税免除協定の成果を確認したいと思います」
議長のその言葉に、議員たちは頷いた。
「この政策は、王国全体の経済を活性化させる大きな転機となりました。特に北部と南部の交流が劇的に進みました。その成果を受けて、この協定を拡大した国内特定商品関税免除協定により、王国の結束が以前にも増して強化されました。」
その振り返りに、議場全体から賛同の声が上がる。だが、その賛同の裏側には、ある内心が渦巻いていた。
――ばーか! あれは経済政策じゃなくて、ラグナル宰相が酒好きのカレスト公爵を思って作った愛の政策に決まってるだろ!
多くの議員たちの心の中は、すでに熱狂で満ちていた。表面上は真面目な顔を装いながらも、それぞれの胸中では全く異なる物語が展開されている。
【議題:郵便機関設立案】
「王国の団結を進める次なる打ち手として、情報伝達の効率化を目的とした、郵便機関の設立案について議論を進めます」
議長の言葉に、全員が真剣な表情を作り、書類を手に取った。
政策の要点は明確だった。現在の書簡発送方法は、機密を守るために十分に機能している。しかし配達速度に問題がある。特に地方領主からは、王都への報告が遅れることへの不満が度々挙げられていた。
これに対し、提案されたのは、郵便業務を一元管理・実行するための行政機関の設立だ。この機関が設立されることにより、王国全土を網羅する効率的な郵便システムが構築される。
「この案が実現すれば、国内の情報伝達が劇的に向上します」
「地方と中央の情報格差を埋める一助となるでしょう」
次々と挙げられる理路整然とした意見に、議場は早くも賛同の空気が漂っていた。しかし、その裏には――
――ばーか! この政策が通れば、ラグナル宰相とカレスト公爵の手紙がもっと早く届くからに決まってるだろ!
――仕事柄、中央に滞在することも多いラグナル様に、少しでもアデル様との愛の交流を促進するためにも、絶対可決せねばならない!
賛成派議員たちは心の中で叫びながらも、冷静に議論を続けていた。
【懸念の声と徹底的な論破】
「だが、機密保持に問題が出る可能性は否めません」
反対派の議員が口火を切ると、一瞬だけ場がざわめいた。しかし、それに対して賛成派たちはすかさず反論を開始する。
「機密保持のために、情報管理の専門人材を育成すればいいだろう」
「中央と地方の郵便監査機関を設立することで、問題を未然に防げます」
さらに、具体的な数値や実例を挙げながら、反対派の懸念を次々と論破していく。
その裏では――
――おいおい、何言ってんだ! ラグナル宰相がそんな初歩的な問題を見逃すわけがないだろ!
――この政策は、ラグナル様とアデル様を繋ぐための愛の架け橋なんだぞ! 反対などあり得ん!
彼らの心の中で燃え上がる情熱が、議論の場をさらに熱くしていった。
【政策決定の瞬間】
議論は白熱しながらも、次第に賛成派たちの圧倒的な熱量により、反対派は次々と沈黙していった。そして、ついに議長が採決を求めた。
「郵便機関設立案に賛成の方は挙手を」
議場内の全員がほぼ同時に手を挙げた。
「――満場一致で賛成となりました。最終的な承認は国王が行います」
議長が結果を読み上げると、議場は拍手に包まれた。紳士たちもまた、礼儀正しく拍手を送っている。その胸中では勝利の雄叫びを上げていた。
――やったぞ! ラグナル様とアデル様の愛の手紙が、これからはもっと早く届く!
その静かなる熱狂を冷静に見つめていたのが、ダモデス公爵だった。
「ふむ……この政策が通るのは実にありがたいが……」
彼は拍手を送りながらも、首を傾げた。
「なぜこんなにも皆が熱心なのだ?」
通常、王国全土への影響が大きい議題は、利害関係の対立が起きやすい。ゆえに議会での賛成獲得には時間がかかる。
しかし、この郵便機関設立案については、なぜか議員のほぼ全員が熱狂的に支持していた。
「最近、周囲の物分かりが妙に良いのはなぜだ……?」
冷静に分析を試みるダモデスの視線の先で、推し活紳士たちは満足げに議場を後にしていく。彼らの背中は何も語らない。
「……まあ、良い政策ならそれで良いか」
ダモデスは首をひねりながらも、肩をすくめて議場を後にした。
こうして郵便機関設立案は、王国全体のための革新的な政策として採用された。情報格差が縮まり、国の発展に寄与していくことになる。
しかし、その裏には、推し活紳士たちの密かな情熱が存在していたことを知る者は誰もいない。
――ラグナル宰相、カレスト公爵の愛と希望の未来を見届けられる日が楽しみですぞ!
彼らは心の中で快哉を叫びながら、今日も王国紳士として振る舞い続けるのであった。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
これにて本編完結です。
そして番外編が始まってますのでもう少しお付き合いください。




