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挿話:物語『コジデレラ』

【このごろ王都に流行るもの】


「ええ!? 王弟様がカレスト公爵にパーティで大胆公開告白!?」

 民は沸いた。熱狂した。そのあまりにも大胆でロマンチックなエピソードに。

 その話は瞬く間に王国中に広まり、民はその内容を語り継いだ。元々の出来事は、王弟ラグナルがカレスト公爵に対して、公の席で気持ちを伝え、周囲が二人の恋の進展を祝う一幕だった。しかし、民の口にかかれば、そこには劇的な要素がどんどん付け加えられていく。


 こうして、王都で一つの物語が編纂される。


『コジデレラ』


 あるところに、嫁に行き遅れた美しい姫がいました。姫はバリバリに領地運営をこなし、男顔負けの政治家でしたが、あまりにシゴデキすぎるため、男性にも自分基準の優秀さを求めてしまい、結婚が遠のきました。人々は彼女を「コジデレラ(拗らせ女)」と呼びました。


 ある日、コジデレラはお城の舞踏会に招待されます。コジデレラは王国と領地の発展のため、他の貴族との社交を、情報交換とブレインストーミング、ついでに政敵の失点の場として活用していました。今日もそのつもりでいると、そこにはスパダリな王弟様がいました。


 王弟様は、コジデレラをダンスに誘います。しかしコジデレラは王弟様に「王都と領地を繋ぐ道をかけるには?」と、彼の知性を試す無理難題を吹っかけます。王弟様は微笑みながら、「王家が初期投資を肩代わりし、その代わり通行税で投資費用を回収しましょう」と答えました。


 その答えに満足したコジデレラは、王弟様と美しいダンスを舞いました。会場中の誰もがそのダンスに目を奪われました。ダンスが終わり、王弟様が二度目のダンスを申し込もうとしますが、コジデレラは「私の心を溶かせる殿方でなければその手は取れませんわ」と断り、会場を後にしました。


 後日、王弟様は、国一番のジュエリー職人に、自分の瞳と同じロイヤルサファイアを使ったネックレスを作らせました。ジュエリー職人は「王弟様の愛が通じるよう、魔法をかけておきました」と言いました。


 王弟様は早速、コジデレラの家に向かい、ロイヤルサファイアのネックレスとともに求婚しました。コジデレラもこれにはすっかり驚き、魔法のような美しさのネックレスに、王弟様の愛を見出し、見る見るうちに心の氷壁を溶かしていきます。王弟様は、「この求婚を受けてくれるなら、次のお城の舞踏会で、そのネックレスを身につけて来て欲しい」とだけ伝え、お城に戻っていきました。


 次のお城の舞踏会で、コジデレラは堂々と、ロイヤルサファイアのネックレスをつけて現れました。それを見た誰もが、王弟様からの贈り物だと確信しました。王弟様は、コジデレラがネックレスを身につけているのを見て、駆け寄ります。コジデレラの前で膝をつき頭を下げ、「お慕いしております、コジデレラ」と告げました。コジデレラは、「そこまで言われるなら仕方ありませんわね。受けて差し上げます」と、拗らせ女らしく返事をしました。


 その後二人は王国のため、領地のために奮闘しつつ、幸せに暮らしましたとさ。


【モチーフにされた二人】


「私こんなに拗らせてないわよ!」

 アデルのツッコミが部屋に響き渡る。その反応を見たラグナルは、楽しそうに笑うのを止められない。

「当たらずとも遠からず、じゃないか?」

 ラグナルの揶揄いに、アデルは不満気な視線を送った。

 アデルが手にする、コジデレラの物語が編纂された本は、ラグナルが入手したものだ。

「何で私のことはこんなに誇張されてるのに、ラグナルは割とそのままなのよ」

 アデルは口を尖らせる。

「それだけ君が民から親しまれて愛されてるということだよ。誇らしい限りだ」

 ラグナルにそう言われると、アデルは悪い気がしない。アデルは自分の単純さを自覚しつつ、この単純な自分が、なぜか拗らせと受け止められていることに腑に落ちない思いも抱えた。

「もう……制作者には文句言いたいところだけど、民が楽しんでるなら、仕方ないわね」

 その言い草がコジデレラの最後のセリフを彷彿とさせ、ラグナルは「やっぱり当たらずとも遠からず、だ」と内心で揶揄うのを止められない。

「誰がどれだけアデルを語ろうとも、本物のアデルの魅力には敵わない」

 ラグナルは隣に座るアデルを抱き寄せる。ラグナルが纏うスフィリナの香りが微かに漂い、アデルは胸を高鳴らせた。

「拗らせ女がお好きとは、王弟様も良いご趣味されていますわね」

 その胸の高鳴りを誤魔化すかのように、アデルは可愛げのないことを言ってしまう。

「僕はアデルの拗らせを見る度に可愛くて仕方ないんだよ」


 ――そう言ってくれるとわかっているから、安心して拗らせられるのよ。


 ラグナルのキスを受け、アデルは自分の心に広がる安堵感を噛み締める。あの物語の中の拗らせ女も、こんな風に愛されているのだろうか、などと柄にもないことを考えながら。

やたらバズワードやネットスラングを使いたがる王国民たち。

ちなみに国一番のジュエリー職人とは、スピンオフ短編主人公のヴィオラ・スミスのことです。

これにて幕間ノ章は終わりで、来週からは第六章です。

お楽しみいただけていましたら、評価・感想・リアクション頂けますと励みになります。


追記:

並行連載開始しました。

婚約破棄令嬢は隣国王子と求愛ゲーム中 〜いつか王子様が迎えに来てくれるなんて性に合いません!〜

https://ncode.syosetu.com/n3518kc/


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