17 救いの手
前回のあらすじ:
魔法少女が発狂したら危険だ! ってことで病院の精神病棟で5点拘束されてしまったよ!
……知らない天井だ。
病院には来たことがあるけど、この部屋は初めてだな……なんて考えながら起きようとして――気付く。僕、手足が縛られている?
「え、ちょ。なんで」
「んぅ……おねー……お姉ちゃん起きた!?」
「鈴音」
どうやら鈴音はずっと一緒にいてくれたらしい。僕の上で寝ていた。
「これどういう状況? 僕何かした?」
「あ、それはお姉ちゃんの精神が不安定だったから、暴れると危険だからって」
「あー……」
まあ、確かに分からなくも……いや分からん。僕みたいなか弱い女の子が何をすると思っているんだ、この病院の人は。
「外してもらう事は出来ない?」
「ええっと……どうなんだろ……ちょっと聞いてくる。衣装:深淵」
あ、ここで魔法少女の能力を使うのか……まあいいけど。
鈴音は魔法少女アビスに変身して、どこかへ消えた。こういう時、瞬間移動できる能力って便利だよね。……待てよ?
「変身したら抜け出せたり……? ちょっとやってみるか。衣装:百合人形」
という訳で、変身。結果は――はい無理ですね。僕が変化するわけでもないし、力が増すわけでもないので抜け出すことは不可能だった。やれやれ。
「解除」
とりあえず変身は解除して、鈴音を待つことにした。
……私もうそろそろキレてもいい頃合いだと思うんだよね。
「落ち着いているなら大丈夫だって」
「ん、外してもらう事って……」
「こっちの方が早い」
「ほわぁ!?」
そう言って鈴音……いやアビスが魔法少女の力を発動させる。
一瞬のふわっとした無重力感を感じた後、ボスッとベッドに着地。どうやら、僕を瞬間移動で少しだけ上に移動させて拘束から抜け出させたみたいだ。
「び、びっくりした……ありがと」
「ん、大丈夫」
と、その時。扉が開いて白衣の男性、医者の方かな? が入ってきた。
「いや、申し訳なかった。この病院も多数の患者を抱えていて、万が一のことを考えると拘束せざるを得なかったんだ」
「アッハイ、大丈夫です……それで、僕はどうなるんですかね」
「ああ、まずはこの問診表を書いて欲しい。もちろん気分が落ち着いてからゆっくりで構わない。その後に私からカウンセリングを行いたいと思う」
「カウンセリング、ですか……」
「嫌だったら断ってもらっても構わないが……」
心配そうな顔でこちらを見てくる先生。うん、多分僕、苦い顔になってるんだろうな……。
だってそうでしょ、前世の記憶があるとか、それもひっくるめて泣いてゲロっちゃったとか普通に話すのは抵抗があるし……それに。
「申し出はありがたいのですが、カウンセリングはちょっと……魔法少女として、話せないこともありますので」
「む、そうか……仕方がないな、分かった。だが、辛くなったら私を頼ってくれ。世の中には君たち魔法少女に感謝し、何とか力になりたいと考える人々もいることを忘れないで欲しい」
「あ、ありがとうございます」
うん、まあ。それは一応、分かっていたつもりだけどね? その他大勢の声が大きすぎるんだよねー。
「まあいずれにせよ、1週間は様子見として入院してもらう事になる。その間は魔法少女としての活動も出来ないだろうし、ゆっくり休んでくれ……身も心も」
「あ、僕支援系なので問題ありません、何かあったらここから支援しますので」
「……っ、頼むから無理はしないでゆっくり休んでくれ」
あ、今度はお医者さんの方が苦い顔になった。なるほど、入院は僕を休ませるための措置でもあったという事か。
本当に心配してくれているんだな、と少しうれしくなってくる。
「はい、ありがとう、ございます」
でも、最後のお礼の言葉が少し震えて、目に涙がたまってしまったのは失敗したと思った。先生がこれを見逃すはずはないだろうし。
僕、この程度で泣きそうになるほど弱かったかなぁ……?
はい、不幸続きだった主人公ちゃんが久々に赤の他人に優しくしてもらえて泣きそうになっちゃいましたね。かわいい。
もうそろそろ不幸の連続が終わります。