13.1 メーヴェの提案
「ウェーブは魔法少女寮に軟禁すべきだと思います。学校へも行かせたくないですね」
「極端な話……と一概に切って捨てられないのが、彼女の置かれている状況よね」
私は今魔法省の執務室で、暁さん(作戦本部長、うちの県の魔法省で一番偉い人)と話していた。
魔法少女ウェーブ。彼の『調整』と『共鳴』があれば、私達は今までよりもずっと楽に、ローリスクで戦える。私達魔法少女が人類の魔物に対する希望であるならば、魔法少女ウェーブは魔法少女の希望といったところか。
「ひとまず魔法少女寮に入ってくれるみたいだから、そこは安心ね。学校はまだ義務教育だし、そうも言っていられないと思うけど」
「彼女、前の学校で2回連続で襲われてるんですけど? それでもこっちの学校には行かなければいけないと?」
「言いたいことはわかるけど、護衛つけたり特別扱いしてもそれはそれで問題が起きそうじゃない?」
「不登校という事でいいのでは」
「……大人としては、あまり彼女を束縛したくはないのだけれど」
そう、私が駆けつけたからなんとかなったとは言っても、ウェーブは学校で襲われた前例がある。
もちろん、新しい学校で必ず襲われるというわけではないけれど……それでも心配だし、あまり表には出していないけど彼女の精神状態はよろしくないーーと、妹の鈴音ちゃんが言っていたので、それも含めて寮の中で大人しくしておいてほしいと思う。
「ひとまず本人の意志を確認すべきね。こっちの学校に早く通いたいって言うなら通わせないといけないし、行きたくないって言うなら寮の中で大人しくしてもらいましょう」
「一人での外出もさせないようにしたほうがいいと思います」
「そうね、でも流石に強制はできないからお願いって形になるけれど」
まあ、魔法省としてはそうでしょうね。彼女にも人権があるし、自由に出歩きたいというのであれば私達がそれを禁止することはできない。
私としては監禁してでも閉じ込めておきたいくらいなのだけれど……流石にできないわよね。
「それじゃあ、明日迎えに行ったときに聞いてみますね」
「ええ……そうね」
というわけで翌日。彼女の、ウェーブの自宅まで私達は来ていた。
暁さんの運転する、魔法省の保有する商用車で来ている。彼女一人ならともかく、妹さんや荷物もあるから。
そして、車の中で。私は昨日話していた内容をぶつけてみた。
「ウェーブ、これからの事なんだけど」
「ん? うん」
「軟禁してもいいかしら」
「……魔法少女寮に? いいよ、閉じ込めてもらって」
「ちょ、お姉ちゃん?」
ウェーブ本人はあっさり承諾し、隣りに座っていた妹さんが困惑している。まあ、当然ね。
「大丈夫、ちゃんと相手は選ぶから」
「いや、ちょ」
いや、相手は選ぶって。まるで私になら軟禁されてもいいみたいに……まさかね?
「冗談だよ。僕の現状だと外に出られないから、実質的に軟禁状態になるだろうね」
「……まあ、うん。そうね」
確かに、それは事実だと思うけど。
なぜだか私には、彼女が私になら何されてもいい、と言っているような気がした。
「それならちょっとお願いがあるんだけど」
「何かしら?」
「鈴音が外に出るときに、誰か護衛を付けてほしい。似てるから襲われかねないからね」
「流石に襲われはしないと思うけれど……誤認される可能性は否定できないわね。わかった、そのようにしましょう」
たしかに、ウェーブ……本名は鈴、だったかしら? と鈴音ちゃんは姉妹なだけあって、よく似ている。
オッドアイの瞳の色とかちょっとだけ鈴音ちゃんの方が小さかったりとか、細かい違いはあるけれど――映像で見ただけの人なら、間違えてもおかしくはないと思う。
「鈴音に万が一何かあれば、僕は膝から崩れ落ちる自信があるからね」
「どんな反応をしていいのか分かりません」
困惑する鈴音ちゃん。まあ、それだけ愛されてるってことで幸せなことだと思うわよ?
鈴音ちゃんだけは絶対に守りたい主人公ちゃんなのでした。