10 クソ食らえ
前回のあらすじ:
家に帰ったはいいけど主人公ちゃんは明らかに無理をしている様子。メンタルが心配だね!
「しかしですね、相手が魔法少女となりますと罪が重くなってしまいますので……まだ未来ある子供ですので」
「子供とは言っても、中学3年生よ? この年になってやっていいことと悪い事の区別もつかないと?」
「しかし魔法少女保護法が……」
僕はいま警察に来ていて、被害届を出そうと……したんだけど、警察官の人が渋っている状況だ。僕の隣で言い争っているのはもちろん、メーヴェだ。
魔法少女保護法で、法律上僕たち魔法少女は守られているんだけど。今回のケースは相手がまだ中学生だから、未来ある中学生を潰してしまう事になるので警察官は穏便に済ませたいらしい。
クソ食らえ。 僕を犯しても罪にはならないみたいだね?
「メーヴェ、もういいよ。行こう」
「え、でも」
「このままじゃ埒が明かないから、一旦帰る。もうやだ」
「……わかったわ。失礼しました」
そう言って、僕とメーヴェは並んで僕の家へと向かう。なんだかもう、警察官と言い争う気力すらないよね……。
「何とかしないといけないわね。一度本部長に相談してみるわ」
「ん……、ごめん」
「ありがとう、と言うべきところよ。というかあなた……いえ、何でもないわ」
メーヴェは一度僕の顔を覗き込んで……僕多分、疲れ切った顔をしてるんだろうな。心配かけちゃったかな?
でも何だか、話をする気も起きない。魔法少女になってからトラブル続きだし……帰ったら、休ませてもらってもいいかな?
何もやる気が起きない。
帰ってきてから、自室で休ませてもらっている。ベッドにダイブして寝転がってるけど、なんだか起き上がる気力がない。かといって眠いわけでもないので、ただひたすら無駄な時間を過ごしているだけだ。
ほんとは、何かした方がいいんだと思う。鈴音に心配かけちゃってるし、メーヴェも折角警察署まで同行してもらったのに何も進展しなかった。
申し訳ないとは思ってる。でも――どうすればいいのか分からない。大人は信用できないし。
……さっきから同じことばかり、頭の中でぐるぐるしてるな。
コンコン
「お兄ちゃん?」
「ウェーブ、ちょっといいかしら?」
「ん、いいよ」
鈴音とメーヴェが僕の部屋に入ってくる。そういえばこの2人、まともに話したのは今日が初めてだったっけ? 仲良くしてくれてればいいけど。
「ごめん、折角ついてきてもらったのに何も進まなくて」
「仕方がないわよ、私もまさか警察官に拒否されるとは思ってなかったし。でそのことなんだけど、暁さん……魔法省の作戦本部長と相談したのよ」
「……」
あの人か。まあ、悪い人ではないと思う。
ショッピングモール事件の時も、報酬が出るように取り計らってくれたみたいだし、僕らの見方をしてくれている人だと思って間違いはないと思う。
でも今回の一件で、大人ってだけで少し警戒してしまう。
「大丈夫、あの人はいい人よ。魔法省の方から働きかけてくれることになったわ。それと、引っ越しと転校の提案よ」
「引っ越し……?」
「魔法省の中に、魔法少女寮があってね。私は中学を卒業してから、そこで暮らしているわ。あなたも来ない?」
「私はお姉ちゃんについていくからね」
魔法省から働きかける、か。
まあ魔法省がどれだけの権力を持っているか知らないから何ともだけど、地方の魔法省が働きかけたところで警察は動いてくれるのかね?
引っ越しはまあ、妥当だと思う。今の状態で学校に行くのは、また襲われに行くようなものだし。鈴音がついてきてくれるなら、鈴音を1人この家に残す心配もなし。
問題があるとすれば母親が手続きをしてくれるかどうか、と僕に引っ越し準備をする気力がない事か。
「いいと思う。でも、今は何か……何のやる気も起きない」
「まあ、仕方がないわよ。今日はゆっくり休みなさいな」
優しい。本来は、僕が他の魔法少女に優しくしたかったんだけど。
今は、今だけはそのやさしさに甘えてもいいかな? あ、あれ。なんで涙が……?
はい、現場の警察官に被害届を受け取ってもらえなくて流石にメンタルがやられちゃったみたいですね。