二話
あ……ありのまま今起こったことを話すぜ!
昨夜買っておいた特上お刺身盛り合わせを楽しみにして寝て、朝起きたら灰色一色の空間にいて訳の分からん奴がいて、いつの間にか雄大な自然のど真ん中で座っていた……
な……何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった……
……いや、ほんとに何が起こってんだ!? 罰ですか? 罰でも下ってるんですか!?
どこだよここ!? 上高地か!? 栗駒高原か!? んなわけあるかい! なんだよあの山は!
「ふふん、驚け驚け! 今までの分もっと驚け!!」
すべての元凶たるコイツは、満足げな表情でこっちを見てくる始末……
「ちなみにあの山はね、3000年くらい前かな? エテルっていうドラゴンが作り直したんだよ?」
「……作り直した?」
何を言ってんだ? もう一度言うね、何を言ってんだ!?
ドヤ顔決めてまるで自分の手柄のように話してくる。
「おい! ここはどこだ!?」
「だから言ったじゃない、私たちの世界だって。……もしかしてまだ足りないのかな あ! エテルを呼べばいいじゃん!」
後半何かをぶつくさ言っていたが、それどころではない……、私たちの世界?
つまりあれか? 異世界転移ってやつか?
いやいやいや! 冗談じゃないぞ!? なんで!? イセカイなんで!?
「せーのっ! えいっ!」
「っ!?」
混乱していたら、また眩しい光が視界に入ってきて目を瞑ってしまった。恐らくほぼ確実に絶対に嫌だけど異世界に来てしまった俺にこれ以上何を―――
「……え?」
『……うむ?』
「やあ、エテル! 久しぶり!」
『む、嗚呼……アセラか。久しいな……、こういうことは前もって相談してもらいたいのだが……』
「ごめんごめん」
……俺は何も見てない。そう、目を開けたら恐竜がいたなんて見えてないから!?
何も見てないから家に帰してくれ!!
『して、此度は何ゆえ……む? その男はどうした?』
「ああ、前に言ってた人……かな?」
『……見たところ、吾のように何も聞かされず連れてきたのではないか? まったく、何をやっているのだ。少しはその癖を直したらどうだ?』
「うっ……仕方ないじゃん、なんだか盛り上がったんだもん」
「そのようなことで何度痛い目にあわされたか……しかし、此度はとびきりの説教が待っているであろうな。こっぴどく怒られてくるがよい」
「言わないで! まだ忘れていたいんだから!!」
『ふん、まぁお主のことは置いておこう……そこの者、聞こえるか?』
「っ!?」
聞こえてません! ええ、聞こえてませんとも!!
恐竜がこれの元凶と話してて、急にこっちに話しかけるなんて絶対にぜーーったいにありえないから!!
『……アセラ、此度はさすがにフェリスにも告げさせてもらうぞ。さすがにこの者が可愛そうではないか』
「うん……」
『そこの者、此度はすまないな……この愚か者に代わって謝罪しよう』
「……えーっと、もうしばらく……お待ちいただけますか?」
『うむ、いくらでも待たせてもらおう……その前に、この愚か者には反省が必要だな』
「え? あ、あれ!?」
『吾らはしばし離れるが、安心して待つがよい。この辺りに其方を襲うような輩はおらんからな』
突風が吹いたと思ったら、いつの間にか恐竜と元凶がいなくなっていた……改めて周りを見渡すが、やはり大自然のど真ん中だ。……はは、こんなとこで一人放置かよ。
まぁ、一人の方が落ち着いて考えられるかもな。
「さて……と、どうしたもんかねー」
もう、寝ころびながら考えよう。心臓がバクバクで疲れたし、寝間着だけどもう知らね。もう一生分驚いたと思う。
確かに証拠をどうこうとは言ったが、まさか何の説明もなしにこんなことになるとは。
若干パニクっていてあれだったが、どう見てもさっきのヤツは恐竜じゃないよな? 翼あったし。
……つまり異世界ではど定番のドラゴンってやつだったと? おほほほほ……やってらんねーよ。
あのアセラってやつは俺に何を求めてるんだろうね? 言ってみれば俺、モブよモブ、その辺にいる普通のサラリーマン。お給金もらって食って寝て、遊んでるだけよ?
こういうの、物語だと定番は魔王討伐とかか? 最近読んでるネット小説だと、魔力が足りないから呼び込んで元の世界の魔力を分けてもらうとか、神々の余興のために拉致られるとかか?
どんな理由かは戻ってきたら聞くとして……とりあえず深呼吸しよう。まだ、心臓がバクバクだ。
◇◆◇
そよ風に吹かれてどれ位たっただろうか? 何とか心拍数も落ち着いてきた……しかし、いつまでここにいたらいいんだ? 当然だが、帰り方なんて知らない。
落ち着いてきたから、定番のステータス開け、みたいなことしたけど出なかったし。そろそろやることがなくなってヤバいんだけど……うん?
「なんだあれ?」
視界の先に光の何かが浮かび上がってきた、アニメとかでおなじみの魔法陣みたいで奇麗だな。
いいな……異世界に来てんだから、ああいうやつ使って何かしてみたいよな……って、光から元凶が出てきた……ボロボロで。あとさっきのデッカイやつと……お? 元凶がもう一人出てきた……ぞ?
どういうことだってばよ?
『すまない、長々と待たせてしまったようだ』
それよりも、うん……改めて見ると……ドラゴンですね。正真正銘ドラゴンですね……どうやって喋ってるんですかね?
嗚呼、お母様、お父様……見知らぬ土地、どころか異世界で命を散らすことをお許しください。
私は今日、ドラゴンの生贄になるかもしれません。
「死ぬんだったらお刺身盛り合わせ食べときゃよかったな……」
『死ぬ? ……待て、其方何を言っておる?』
「そう……貴方の思っていることは勘違い……それに、私はアセラじゃない」
「見た目はそっくりだからね~私た―――はい、黙ります!」
元凶のそっくりさんが元凶を睨んで黙らせてる……あと、勘違い?
俺、声に出して……
「貴方は……声を発してはいない……私が読み取っているだけ」
「デスヨネー……」
「私は……このバカのやったことの謝罪に来た」
「……謝罪?」
「そう……謝罪。名乗っていなかった……私は、フェリス……このバカの妹。バカな姉が迷惑をかけた……謝罪を」
フェリスと名乗ったそっくりさんは、静かに頭を下げてきた。
……いや、ほんとに瓜二つだな……双子か? でも髪色は白いし、さっきチラッと見た感じでは目の色は黒……なのか? 服はアセラと一緒のものだろうけど……よくわからん。
『吾からも謝罪しよう……この愚か者を止めることができなかったからな』
「エテルは悪くない……悪いのはこのバカだから。もし……謝罪だけで足りないなら……何でもする」
なんか、ドラゴンの方も謝罪するとか言ってるんだけど……俺、何かされた?
フェリスと名乗った人物の言う通り、悪いのはそこでボロボロになってふくれっ面になってる元凶だと思うけど。
「ねぇ、さっきからげんきょうげんきょうって言ってるけど、私はアセラって名まむぐっ!」
「ちょっと黙ってて……、それで……どう? まだ足りない?」
「ああー……足りる足りない以前に、どうしてここへ連れてこられたのか、とか、その辺の話が聞きたいんだが?」
そう……謝罪とかなんとか言われても、状況がよくわからないからそれに値するかすら判断ができない訳である。目が覚めたら灰色一色だったのが、いきなり大自然のど真ん中とか……うん、改めて思い返すとよく生きてたな、俺……
「説明……そういえば、何も言わずに連れてきたって……さっき言ってたよね?」
「は、はい! そう言いました!」
「……わかった、アセラ……最初の場所へ連れて行って」
「わかりました!」
異世界にも軍隊式の敬礼ってあるんだな~、なんて思っていたら目が覚めた時にいたあの空間にいた。なんとなく振り返ると、さっきまであったはずの愛用の布団はなくなっている……
一応同じ場所……なのか? 俺は判別なんてできないから、アチラの言うことでしか判断できないし……まぁ、大丈夫なんだと信じよう。
「あぁ、貴方の物は元の場所へ戻してあるから安心して?」
「その言葉……一応信じて大丈夫なんだな? まぁ信じる外ないわけだが……」
元凶……いや、アセラだったか? 彼女の言うことが本当でなくても信じるしかないよな?
にしても……何故にドラゴンまで一緒なのか?
元凶たるアセラ、妹と名乗ったフェリスまでは分かる、このドラゴンは仲が良いように見えたけど部外者になるのでは?
『アセラ……何ゆえ吾まで転移させたのだ?』
「私とフェリスだけだと、なんか不安だからさ……いざっていうときにいてくれたら嬉しいかな~って」
『なるほど……ではこのままでは好ましくないな』
ドラゴンの方も疑問があったようで、普通に聞いていた……って、え? なんか光ったと思ったら、人か出てきたんだが?
「これなら違和感もあるまい?」
「うん、いいんじゃない?」
「大きいと……邪魔だったし……良いと思う」
「フェリス……余計な言葉は内にしまっておいてくれないか……」
「ん? エテルには……思たことを言っていたい」
「……もうよい、吾は離れて待っているぞ?」
……いきなり美丈夫があらわれたと思ったら、なんか苦労人の片鱗を見た気がする。とぼとぼって効果音が聞こえるような足取りで少し離れていったな、大丈夫か?
「アセラ……最初からお願い」
「……わかった。ごめんね、何もなしにつれて行って」
今までのことは全部夢なんじゃないかって思いたい自分がいれば、現実だから受け入れようって思う自分がいるのもまた事実……
「それじゃ、話し合おうか?」
お手柔らかにお願いしたいね。
思い付きとノリと勢いで投稿しているのでストックがありません
思い出したらまた来てください