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7 女騎士は僕と三角関係を考える

 僕の部屋のちゃぶ台がお亡くなりになり、ドラニカの手によって蘇生されてから一夜が明けた。

 ドラニカは気合が入ったのか、寝る時間とご飯を食べる時間以外は、昨日からずっとコイミチ4巻を読み続けている。

 ちなみにそのご飯は僕が作っている。料理を作るのは楽しいし、ドラニカはうまいうまいといっぱい食べてくれるから嬉しい限りだ。

 

 そして肝心のコイミチ4巻の内容についてだけれど……。

 ドラニカは4巻を読み進めていくうちに、菫のことを許してしまっていた。許す、というより気にしなくなったといった方がいいのか……。

 

 理由としては、桜と菫が仲良くなってしまったのが大きい。

 コイミチ4巻は菫が佐藤と桜に割り込んでくるのが始まりなのだが、桜は菫のことを「すっごく可愛い、人形みたいな女の子」とべた褒めし、

「私と友達になってください!」

 と大胆告白。2人は一緒にご飯を食べるほどの仲にまで発展してしまうのだ。

 最初の方は怪訝な顔や()()()()()()な態度を崩さなかった菫も、桜の態度に毒気を抜かれてしまい、友人として仲良くなっていくこととなる。

 ――なお、告白された佐藤は放置されていた。

 

 桜が菫に友達になりたいと告白するシーンを見たドラニカは、

「ユーキ!見てみろよスミレの顔!こいつサクラにケンカ売ろうとしてたのに、完全にスカされちまってやがる……!この唖然とした顔……!クッ………!クククッ………!………ッ……!!!」

 と挿絵を指さしつつ床に転がりながら爆笑していた。

 息ができなくなるほど面白いのか、無言でバタバタしている。よほど痛快だったらしい。

 笑い疲れて何とか喋ることができるようになった後、

「桜が許すんだったらアタシから言うことは何もねえな!」

 とすっきりしていた。本人の中で納得できたようで一安心だ。

 こうしてドラニカは4巻を読み終わり、今はその流れで感想会に移行している。


「スミレが出てきたときはびっくりしたけどよー。これがこっちの世界の流行りなのか?」

 ドラニカが聞いてくる。

「こういうのは三角関係っていうんだけど……、ラブコメ作品の中では王道といってもいいかな。」

 そう言いながら僕はカバンからルーズリーフを1枚出す。

 ちゃぶ台の上に広げて桜、佐藤、菫と書いてそれぞれ丸を付けて、間に線を書く。

 ルーズリーフにきれいな三角形の完成だ。

「なるほど、さんかく……。」

 ドラニカはまじまじと見つめている。ちょっと面白い。小学校の先生とかこんなふうに思ってたのかな。

「この三角関係って構図はラブコメではよくあるよ。同じ人が好きって知ってから仲良くなるパターンは珍しい気がするけどね。」

 僕は答える。 

「普通の三角関係だったら、男を取り合って喧嘩になったりギスギスしたりってことのほうが多いと思うよ。」

「そうなのか……。ま、まあそうだよな……。」

 ドラニカはそう言いつつも愕然としている。

 顔が好きって理由が納得いかなかったんだ。三角関係なのに、好きな人を取り合っている者同士の仲が良いのは驚きが大きかったみたいだ。

 

「とんでもねえぜ……。アタシの世界では仲の良い男女に対して、別の女がすり寄るってことは恐ろしいことって聞いたぜ。」

「まあ、こっちの世界でもそうだと思うよ……。」

 僕は頷く。そこらかしこで三角関係まみれの昼ドラになっているなんて考えたくない。学校が嫌いになりそうだ。

「アタシは通ってなかったが、そんなに学校ってのは男女入り乱れた感じなのか……?まさかユーキも……?」

「いやいやいやいやいやいや」

 何故か不安そうなドラニカに、僕は顔をブンブンとふる。

「あくまでもラブコメの話!現実ではそんな事ない……と思う。」

「そう……なのか?」

 ドラニカは不安そうにこっちを見ている。何を不安に思う事があるのだろうか。

「三角関係みたいなことがあったとしても先に告白されてたら諦めるのが普通だし……。」

「なんだよユーキ、やっぱ詳しいじゃねえかー。」

「いや、僕は……。」

 ドラニカが僕をどう思っているのかはわからないけど、僕は学校では女の子と話すことなんてほとんどない。友達なんて以ての外だ。

 じゃあ男友達がいるのかと言ったらそういうわけでもないし……。現実の恋愛なんてわかんないからふわっとしたことしか言えない。

「ぼ、僕の話は別にどうでもいいんだよ……。学校の恋愛って話なら、惚れた別れたって噂を聞くのはよくあるし、どこかに三角関係でややこしくなっていることもある……と思うよ?」

「こっちの世界はすげえなあ……。」

「そう……かな?ドラニカの世界はもっとこう、きっちりとしてるの?」

「きっちりしてるってより、ドロドロしてるっていうか……。」

「えぇ……。」

 僕が困惑を隠せないでいると、ドラニカは腕を組んだ。

「うーんそうだな……。人の男を奪った女が、元々付き合っている女からの恨みを買って、家族もろとも住んでいた場所を追い出されたりしたぜ。」

「えっ。」

「他の女にうつつを抜かした結果、権力者の怒りを買ってアタシがいる騎士団に配属されたやつもいたなー。これがまあ声だけがでかいヤローで――」

「マジですか……。」

 思わず敬語になる。

 現実は小説よりも奇なり……。いや、異世界の話だから現実なのかよくわからんけど、まさに異世界恋愛小説で見るような事が起きてるんだな……。

「ま、そんなことは別にいいんだよ。」

 僕としては気になる話だったけど、ドラニカにとってはどうでもいい話みたいだ。サラッと流される。

 

「サクラはすげえよなあ。同じ男を好きな女ができても仲良くできるなんてよ。アタシならケンカだケンカ。」

 付き合ってもないのだから喧嘩するのはやばくないかと思ったが黙っておく。

「……なんというか桜みたいに恋と友情は別って考えるキャラも居るというか、それが桜の魅力だと僕は思うんだよね。」

 ライバルすら友達に変えてしまう。

 そんな平和な雰囲気を保つ桜だからこそ主人公の佐藤は惹かれていったんだし、菫も仲良くなったんだと思う。

「なるほどな!うんうん。やっぱサクラだからこそスミレと仲良くなることができたって訳だな。」

 ドラニカは腕を組みながらうんうんと頷いている。

 さっきのこともそうだけど、桜のことをすごく評価してるな……。もしかしたら推しになっているのかもしれない。

 

「サクラがすごいのはわかったけどよー。学校での恋愛っていうのは……なんていうか、自由なんだな。」

 そう言うとドラニカは僕が書いたルーズリーフを魔法で浮かした。

 すげえ!指先に物を浮かすのは、魔法が使えるなら1度はやってみたい事だ。

 思わず前のめりになる僕を置いといてドラニカは続ける。

「三角関係はともかくとして、そんなふうに恋愛を軽く捉えるってのはアタシの周りではなかったなあ……。」

 ドラニカは遠い目で明後日の方向を見つめている。

「学校の恋愛とかは、将来まで考えていないってのは言い過ぎだけど、結構そういう人もいるとは思うよ。今好きだからっていうか……。」

「なるほど……。」

「菫の顔が好きって理由も、学校ではよくあることなんじゃないかな?」

 クラスでよく固まっている男子たちがあの子が可愛いとか話しているのもしょっちゅうだし、サッカー部のイケメンキャプテンについて女子たちがキャッキャしながら喋っている事もあった。

「学校ってのは楽しそうだなー!」

「いやまあ、実際はどうだろう……。勉強もあるし、僕みたいな陰キャには別にそんな浮ついた話はないしなあ……。」

 現実を見せつけるつもりはないけど思わず否定してしまう。

「いん……?――なんかよくわかんねえけど、たしかに勉強ってのは大変そうだな……。アタシは体を動かすの専門だしなー。」

 ドラニカは肩をぐるぐる回す。

 騎士団の団長って勉強苦手でもできるんだ……。

「でもよ、アタシは騎士になることが普通って感じだったからなー。これくらいの年の時なんて剣振りまくってたぜ。」

 そういってドラニカは素振りのマネをする。僕から見てもその動きはとても綺麗で滑らかだった。

「すごい……。」

「だろ?騎士になるための学校みたいなとこがあってよ。そこでしこたま剣を振るったわけよ。まあ、だから、なんだ。コイミチ見てたら羨ましいっていうかよ。そんな気分になっただけだ。」

「そっか……。でもドラニカはすごいよ。」

 僕なら数日で音を上げてしまいそうだ。

「そもそもドラニカがそんなに強かったおかげで僕は命を救われたわけだし……。騎士団の団長にもなれたってことは、剣を振ってたことにも意味があった…ってことなんじゃ……ない…かな……?」

 ラブコメについて語っていたときの勢いが嘘のようにモゴモゴとしてしまう。

 喋りながら何言ってるのか分からなくなってきた……。ドラニカはそんな事当然気づいているはずなのに……。


「おう、ありがとよ。」

 ドラニカは僕に笑いかけた。

「アタシはこっちの学校にはどうしても通えねえからな。騎士になるために頑張ったことは後悔してないけど、やっぱこっちの学校に通ってるやつを羨ましいって思っちまうんだろうさ。」

 ま、前みたいに忍び込めはするけどな!と笑うドラニカ。

 でも、僕には普段の笑顔より元気がないような気がした。

 

 ……どうにかドラニカに学校の雰囲気だけでも感じてもらえないだろうか。

 弁当を食べるために学校へ来たドラニカは、すごく楽しそうだった。あたりをぐるぐる見回してたし。

 でも、ドラニカは僕にしか見えないように魔法を使っていた。だからドラニカの方を見る人はいないし、話しかける人もいない。

 当然だ。学校でドラニカが見つかった瞬間不審者騒ぎになってしまうし、数人に見つかるだけでも噂になってしまうだろう。魔法無しで学校に行くのは難しい。

 

 ――――いや、待てよ……!

 

「任せて!」

 僕は思わず立ち上がった!

「へ?」

 ドラニカは急に立ち上がった僕にポカンとしている。

 そうだ!もう少しすれば……。

 僕は自分のアイデアに小さくガッツポーズした。

 これならドラニカに喜んでもらえる気がする……!!

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