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3 女騎士は体験したい

 突然だけど、僕は高校二年生だ。

 当然だけど学生の本分は勉強だ。基本的には高校生は勉強から逃れることはできない。

 たとえそれが女騎士を手伝っている高校生であっても、だ。

 

 


 キーンコーンカーンコーン……

 チャイムが鳴ってテスト用紙を先生が回収していく。

 (うおーーー!疲れたーーーー!)

 1週間もあったテスト週間がようやく終わった。思わずぐーーっと伸びをする。

 テスト週間は嫌いだ。勉強は得意でもないし、勉強に時間を割いたことでラブコメ作品を読む時間が減っていく。

 テスト勉強の手を抜きたいけど、あまりにも酷い点を取ると、親からのお小遣いが減ってしまう。

 それは死活問題だ。それだけを回避するためにこのテスト週間近くは死ぬ物狂いで勉強を頑張っている。


 

 テストが終わった、それなら学校には用事なし!

 僕は荷物をまとめてとっとと席を立ち、小走りに校門を飛び出した。

 

 小走りで帰り道を駆け抜ける。なんてったって試験期間に発売したラブコメ作品があるのだ。

 まあテスト週間終わり特有のフラストレーションがたまっていたからっていうのもある。あぁ……テスト週間中ラブコメ作品断ちしたのは辛かった……。

 

 ――いやまあ普段は全然テスト期間中にラブコメ作品読み漁りまくってたけどね!

 でも快く魔物関係の仕事に休みをくれて、(寝床は当然提供したけど)テスト勉強に集中させてくれたドラニカの前でテスト勉強をサボる訳にはいかない。ドラニカの存在は、小心者の僕には監視役としてちょうどよかったのだ。

 

 だからテスト週間中は魔物の囮になる?寄り道も、もちろんラブコメ談義もしていない。

 だからまあ、しばらくはここら一帯めちゃくちゃ寄り道させられるかもしれないけど……。兎にも角にも勉強漬けの毎日からは解放された。

 

 僕は晴れやかな気分で本屋へと続く道を曲がった。

 

「うーーーーあーーーーーーー…………」

「ひいっ!?」


 そこには白い髪をだらりと下げた幽霊がいた。

 か細いうめき声を発しながらガチャッ……ガチャッ……とこちらに向かって歩いてくる。

 まさかとは思うけど、魔物……!?

 ドラニカはどこに行ったんだ……!?



 ――――ぐうううううう


 ……ん?

 緊迫した空気にそぐわない間抜けな音が鳴った。

 その間抜けな音は目の前にいる魔物から聞こえてきた……気がする。

 いや、よく見ればそれは魔物ではなく――――

 

「ドラニカ……なの?」

「ユーキ……助けてくれ……限界なんだ……。」


 魔物かと思っていたのはフラフラになったドラニカだった。

 ドラニカは今にも倒れそう、というかほぼ倒れ始めていた。

 

「危ないっ!」

 

 思わずこちらに倒れてきたドラニカを抱きとめる。まるで主人公みたいだと思う間もなく、僕の細腕に襲いかかるドラニカの体重プラス甲冑の重み!

「おっ…………」

 もい!

 けど僕が見てきた数多のラブコメ作品がそれを言葉にしてはいけないと言っている……。

 

「ユーキ……頼む……。」

 腕の中でドラニカが呟いている。

「ドラニカ大丈夫!?魔物に襲われたの!?」

 慌てて話しかける。まさか僕の見ていないところでとんでもない戦いがあったのか……。


 ――――ぐうううううううううううう

 

 その瞬間、さっきも聞こえた間抜けな音が木霊した。

 発生源はドラニカ……というかドラニカのお腹?


「しくじった……。おなか……へった……。」

 そう言って、ドラニカは気を失った。

 

「ちょちょちょちょ……!」

 慌ててドラニカの顔を覗き込む。

 息はしている……。とりあえず大丈夫そうだ。

 家で何かを食べさせたほうが良い。そんな考えが頭に浮かぶ。

 

 ――――もしかして僕が運ばなきゃいけないやつですか……?



======================


 「はぁ……はぁ……疲れた……。」

 

 どうにかこうにか家にたどり着いた僕は、ドラニカにコンビニで買ったお水とおにぎりを与えていた。

 

 「んく、んく――――くはー!いやー危ない危ない。前とは逆に助けられちまったなー!」


 部屋に倒れこむ僕を尻目に、ドラニカはニコニコしながら一瞬で水とおにぎりを平らげてしまった。


「まさか魔物に倒されるんじゃなくて空腹で倒れるとは……」

「舐めるなよユーキ!あたしは魔物に遅れはとらねえ。遅れを取ったら死んじまうからな!」

「そんな人を僕は助けたんだなー。光栄だなー。」

「おう!そうだなー」


 そう、僕は出会った当初、ドラニカにあった遠慮がなくなってきた。さっきみたいな軽口も言える。

 彼女の雰囲気がそうさせるのだろうか。出会って数週間しか経っていないし、今でも物理的に上から飛んでくる目線も怖いのに……。


 空腹を満たせて満足そうにしていたドラニカが、急にこちらに話しかけてきた。

「お!これってよ、もしかして最近読んだとこにあった、看病ってやつじゃないのか?」

 心なしかドラニカの目がキラキラしている。

「いや、多分違うと思う……。」

 お腹が減って倒れたのを助けるってのは男女逆な気もするし。

「そうなのか……。」

 何故かドラニカは少し落ち込んでいる。

「じゃあよ。ユーキはどうなんだ?」

「え?」

「だから、こういうシーン!ユーキはやったことあるのかよ?」

 そう言って、ドラニカはコイミチの挿絵を見せてきた。

 そこにはベッドで寝ている主人公、佐藤にお粥をあーんしているヒロイン桜が描かれている。


「いやいやいやいや!そんな事やったことないよ!」


 顔をブンブン振って否定した。

 こんな、あーんとか、イチャイチャとかそんな……彼女もできたことないのに!


「ふーん。そうなのか。」

 ドラニカは意外そうだ。僕をなんだと思っているんだ。ただのラブコメオタクだぞ?

「ま、ユーキはがっこう?に通ってるんだし、これからチャンスがあるってことだな!」

 そう言って肩をバシバシ叩いてくる。

「チャンスって……。別にそんなこと思ってないよ。文字通り別世界の話なんだしさ。」

 「照れんなって。アタシもこいつを読んで成長してるんだぜ?」

 

 そう言ってドラニカはコイミチへの読書に戻っていく。

 ……なんか満足しているからつっこまないでおくけど、みんながみんな、自分もこういうことをしてみたいって思いながらラブコメを見ているわけでもない気がする。

 僕もそうだけど、単純に面白いから読んでいるって人も結構いるはずだ。僕はラブコメの先生はできるかもしれないけど、恋愛の先生なんてできないんだ。

 ……その辺もどこかで教えることになるのだろうか。


「お!ここはどうだ?ついさっきだから、ユーキも覚えてるだろ?」

 考え事をしていたらいつの間にかドラニカが読書をやめて僕に本の中身を見せてきた。

 さっきのもそうだけど、ドラニカは本の登場人物が自分と同じ行動をしていると嬉しい、のかな?わざわざ僕に見せてくるのはよくわかんないけど。

 

「ここのシーンだよここのシーン」

 そう言ってドラニカは僕に本を見せてくる――って近い近い近い!

 ドラニカとはある程度仲良くなった自信はあるけど、近くに女性がいるっている状況には慣れてないんだ!

 

「ん?どうした?」

「い、いや……何でもない……」

 誤魔化しながらドラニカが開いているページを見る。

 

 そのシーンは桜が手作り弁当を佐藤に渡しているシーンだった。

「――ここ?」

 ドラニカから弁当なんかもらった覚えはないんだけど……。


「さっきユーキからご飯もらっただろ?」

「それか!――いや、これも多分違うと思うよ……。」

 そもそも立場逆だし。いや、というよりも、

「僕は別に手作りの弁当を渡したわけでもないし……。」

「ん?そうか?アタシは飯をもらったとき嬉しかったぜ?」

 ドラニカはそう言って挿絵を指さした。

 そこに写った僕じゃない方の「佐藤」。主人公の佐藤はヒロインである桜ちゃんからお弁当をもらってだらしない表情をしていた。


 ――――いやいやいやいやいや!

 

「それは単純にお腹が減って倒れてたからでしょ?そりゃ死ぬほど腹減ってた時にご飯もらったら嬉しいって!」

 コイミチにそんな死ぬほど腹減ってるようなシーンはない。

「あと、そのシーンはご飯がもらえたからうれしいってシーンじゃないんだ。ヒロインの桜が作ってきてくれたことに意味があるんだよ。」

「どういうことだ?」

 

 僕に問いかけながら、ドラニカはいつの間にか本を読んでいた場所に戻っていた。

 ご丁寧にコイミチの2巻も手元に置いてある。つまり今からこのシーンについて詳しく教えてほしいってことだ。

 

 テスト前には1巻を読んでいたのに、今は2巻に進んでいる。

 ゆっくりではあるけれど、ドラニカはコイミチを読んでくれている。僕は、なんだかそれが、とてもうれしい。


「よし、じゃあ今日はそのシーンについて解説するね。」

 

 今日教えることは簡単そうだ。

 前と違ってドラニカのラブコメへの感じ方もなんとなーく把握してきたし。

 

 ――ドラニカから言われたラブコメを教えるという願い。

 いまだにその目的はよくわからないけど、僕も楽しいので良しとしよう。


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