10 僕は女騎士と文化祭に行く 後編
文化祭に行くことが決まった後、僕はドラニカに6巻までコイミチを読んでもらっていた。
ドラニカに聞いては見たけど、ドラニカは文化祭みたいな祭りというか、行事みたいなことは経験したことがないらしい。
そのため文化祭がどんな感じか知ってもらおうと思い、文化祭回である6巻まで読んでもらおうと思っていた。
――まあその結果、ドラニカは文化祭という行事をいたく気に入ってしまい、文化祭当日を迎えるまで、学校に乗り込もうとするドラニカをひたすら止めることになってしまったんだけれども、それはそれ。ドラニカが文化祭を楽しめる要素が増えたのならそれはとてもいいことだ。
ただ、ワクワクしているドラニカにはとても言えなかったが、文化祭という行事を僕は特に好きなわけでもなかった。
コイミチだったり、ラブコメ作品の文化祭というのは非常に重要だ。ヒロインとの仲を深めるのはもちろん、登場人物の家族が登場したり、トラブルが起きて話が盛り上がったりと、様々なイベントが発生する。
だが、僕にとってはそうでもない。一緒に回る友達やクラスメイトなんていないし、当然彼女もいない。
まあ学校が休みになるのは嬉しいけれど、クラスの展示の手伝いはちょっとめんどくさいしサボるわけにもいかない。勉強の代わりにバイトのシフトが入っているみたいなもんだ。
……そう去年は思っていたけれど、今年は違う。前を走るドラニカを見て、僕はそう思ったんだ。
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色々とあったがともかく校舎の中に入った僕とドラニカは、まず最初にお化け屋敷へ来ていた。
我慢できなかったドラニカが早めに昼飯を食べたため、今はちょうどお昼時。お化け屋敷は人気で待機列ができるのも珍しくないが、みんなが昼ご飯を食べに行っている時間はまだ空いている。コイミチでも主人公とヒロインたちが行っていた場所だし、ドラニカも興味があったため、最初に遊ぶ場所に決めたのだ。
入り口で係員の子から懐中電灯をもらう。教室を改造されていはいるが、中は真っ暗だし、迷路になっているみたいだ。
「ドラニカー。本当に大丈夫?うちのお化け屋敷って結構怖いらしいよ?」
「なーーに言ってんだユーキ。お化けってことはつまり怪物ってことだろ?」
ドラニカは得意げに胸を張った。
「アタシが全部ぶっ飛ばせば解決!だろ?」
…………ドラニカは本当にコイミチを読んでいたのだろうか?
僕はさすがに恥ずかしいので声を潜めながらドラニカに伝えた。
「いや、お化けに攻撃しちゃ駄目だよ?あとここ学校だから。普通に魔法も暴力もNG。」
ドラニカの得意げな顔がピシッと固まった。
「ユーキ!ユーキ!!こいつらぶっ飛ばしちゃダメなんだよな!?魔法使っちゃダメなんだよな!?」
「駄目って言ったら駄目!!そんなことしたら大騒ぎになっちゃうから!!」
お化け屋敷に入る前とは一転してドラニカは震えながらお化け……に扮した高校生から逃げている。
このお化け屋敷はお化けに驚かされながら迷路を進んでゴールを目指すというコンセプトらしい。
ドラニカはいつもの調子が出ないのか、僕が来ているTシャツの裾をつかんでいる。かわいい。
僕もそれなりのビビりだけど今日は妙に落ちつけている。近くに自分よりもビビっている人がいるからだろうか。
ドラニカはあたりを見まわしながら迷路を進んでいく。
「なんでこいつらこんなに怖え顔してんだよぉ……。」
「うーんまあ、たしかに怖いけど……。僕は魔物の方がよっぽど怖いな……。」
「あいつらは見慣れてるからいいんだよ!うええ……ユーキ~先行かないでくれよ?」
「大丈夫だって……。」
日本のお化けって異世界人から見ても怖いもんなんだなあ。
そう思った瞬間、曲がり角からなまはげの仮面をつけた生徒が飛び出してきた。
「おわっ!!!」
「ヒィッ!!!!!!!!!!!!!!!」
ドラニカの声にならない悲鳴を聞きながら、僕は十分にお化け屋敷を楽しんだ。
お化け屋敷を出た後、ドラニカは這う這うの体で窓枠に突っ伏していた。
「やべえ……とんでもねぇ……。こんなところにサトウもサクラもよく入れたな……。」
「ま、まあ怖がるのも楽しいというか、こうやってみんなでワーキャー言いながらビクビクするのが楽しいというかね……?」
「なる……ほど?こっちの世界の人間ってのは心がつええんだな…………。」
あのドラニカが満身創痍だ。死んだ目で外の景色を眺めている。
僕もびっくり系は得意ってわけでもなかったけど、ドラニカの反応を見るだけで楽しかった。
「あ~体力使ったー。ちょっと休憩~~。」
ドラニカは死んだ目のままボケーっとしている。
今日はドラニカの見たことない表情をいっぱい拝めるな――
『ちょっとかっこよかったぜ。』
「――――――――――ッッ!」
中庭で見たドラニカの笑顔を思い出してまた顔が熱を持っていく。
落ち着け。なんでこう、さっきの光景が頭から離れないんだ。
……たぶん、今日は普段ないような経験ばっかで混乱しているんだ。そうに違いない。まあ印象的だったというか、かわいかった……よな……。
だぁーーっ!だから僕は一体なにを――――
「おーい……ーキ?ユーキ!」
「おうあ!?」
気が付くと目の前にドラニカの顔があった。
思わず体が固まる。
「大丈夫か?やっぱユーキも怖かったよなーオバケ屋敷。」
「う、うん。そうだね……。」
あなたの笑顔を思い出していましたとは言えない。
「もっと休んどくか?アタシはもう大丈夫だけど……。」
「いや、僕も大丈夫。他にも色々とあるから回ろう?」
「おう!案内たのむぜ。」
「うん!」
僕は頷く。興味のなかった文化祭でも、ドラニカと回ればとても楽しい。
それから僕とドラニカは色んなところを回った。
謎解き、スタンプラリー、喫茶店、演劇……。
コイミチで登場した出し物でも、登場していない出し物でも、ドラニカは目をキラキラさせながら全力で楽しんでいた。
僕も、そんなドラニカを眺めながら自然と口角が上がっていくのがわかった。
そうして楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
僕たちが最後に足を運んだのは、うちの文化祭名物と言われる縁日だった。
縁日につくと、祭りをイメージした出し物が並んでいる。
興味津々のドラニカに引きずられながら、僕はいろんな屋台を巡る。
「うおお!これうまいな!!」
ドラニカはりんご飴を頬張っている。
さっきの喫茶店でケーキをバクバク食べてたのに……。騎士ってすごい。
「さっきのヨーヨー?ってやつが取れてれば文句なかったんだけどなー。」
左手でりんご飴、右手でヨーヨーを弄びつつドラニカはつぶやく。
ヨーヨーは、ドラニカが何度やっても取れなかったため、僕が取ったものだ。
ドラニカは細かい作業が苦手らしい。
ヨーヨー釣りの前に行った型抜きで、パネルをすべて粉砕しながら首を傾げているドラニカを見て、僕は柄にもなく大笑いしてしまった。
「しょうがないよ。初めてだし。まさかドラニカがそこまで細かい作業が苦手だと思わなかったけど……。」
「うるせー!アタシは元々そんなに器用なタイプじゃねーんだよー。」
ドラニカは恥ずかしそうだ。頬がちょっと赤くなってる。
「ちくしょー……。なんとか頑張らねえといけねえのに……。」
ドラニカがうつむきつつ小さく呟いていた。
よく聞こえなかったけれど、普段のドラニカに比べて落ち込んでいるような気がする。
なんとかドラニカが得意そうな出し物でもあれば……。
「あ、ほらこれなんてどう?」
僕が見つけたのは射的の屋台だった。
「おお!任せろ!アタシは剣専門だけど、銃の成績も案外良かったんだぜ?」
ドラニカは急に元気になってそう言った。
騎士に騎士専門とか銃専門とかあるのは知らなかったけれど、ともかくドラニカは自信ありといった感じだ。
これならドラニカの得意分野だし、ドラニカの気分も上向きになるだろう。
「お!お2人さんやっていきますか?」
「おう!2人分頼む!」
屋台の人から銃を2つもらう。
結構ちゃんとした、コルクを打ち出すタイプのものだ。よくこんなもの許可されたな……。
「はい!1人3発までね!お菓子の箱を倒したらあたりになります!」
お菓子の箱には1等、2等、3等と書かれており、1等が1番でかい。
棚の一番上真ん中にドンとそびえ立っている。
「1等はハンカチセットになりますー!」
景品一覧には『1等 ハンカチセット!男性でも女性でも使えます!』と書かれていた。
文化祭の景品の割には結構ちゃんとしているみたいだ。その分取れなさそうだけれど……。
「まずはユーキからやってみろよ。」
ドラニカからそう促されたのもあって、僕からやることになった。
コルクを銃口に詰めて構える。
といっても全く何もゲットできないのはなんか恥ずかしいし3等を狙おう。
そう思ってたんだけれど……。
「あ、当たらない……。」
僕にあまりにも銃のセンスがなかったからか、撃った玉2発は明後日の方向に飛んでいった。
なんとか1発は当てたいんだけど……
「待て待てユーキ!そのままじゃ銃口がズレてあたんねえよー。」
当たる気配がない僕に業を煮やしたのか、ドラニカが僕に近づいてくる。
「そうなの?自分ではあんまりよくわかんないんだけど……。」
「まずそもそも姿勢が良くねえんだよ。こうやって脇を締めてだな……。」
そう言ってドラニカは僕の後ろから腕を掴んでくる。
それすなわち僕の後ろから銃を持つような姿勢になるわけで……!
「ドラニカ!?な、なにを……」
「そんなんじゃ当たらねえって。アタシがちゃんと支えてやっから……。」
ドラニカには悪気はない。ただ僕の銃を撃つ腕が壊滅すぎて指導しているだけだ。
でも僕は正直、姿勢とかそういうことを考えるような余裕はない。
背中に当たる感触とか、思ったよりもいい匂いがするとか、そんな事が気になってしまう。
「大丈夫!大丈夫だから!」
心なしか屋台の人が生暖かい目で見てる気がするし!
「そうか?なら良いけどよー。腋だぞ腋!」
ドラニカは不服そうに僕から離れた。ごめんドラニカ。ドラニカは妙に人との距離が近いんだよな……。
ドラニカの指導はありがたかったが、集中力を乱した僕は無事に最後の弾も外したのだった。
「うおーーー!楽しかったなーー!」
「だいぶ楽しめたね。疲れたけど……。」
あの後、ドラニカは当然のように1発で1等の箱に命中させた。ドラニカは「ユーキのお陰で銃のクセがわかったぜ」と褒めてくれたのだが、僕はなんとも言えず頭を掻くしかなかった。
今日はとっても楽しかった。1日が終わるのがもったいないくらいだ。
だからだろうか。ドラニカに変なことを聞いてしまったのは。
「今日は楽しかったねー。ドラニカはもうやり残したことはない?」
喋りきってから、僕は変なことを言っていることに気づいた。
もうちょっとで家に着くし、そもそも文化祭は終わっている。
こんな状態でやれることなんて――――
「おう。後1個だけ残ってる。」
「え?」
ドラニカは立ち止まって僕の方に向き直った。
「今日はありがとな。ユーキのお陰で、楽しかった。」
そう言ってドラニカは僕の手に何かを握らせた。
これは……
「ハンカチ……?これってさっきの射的の景品じゃ……。」
「おう!ユーキにやるよ。」
まっすぐ僕を見つめるドラニカ。
僕は、なぜか目を合わせられなかった。思わず下を向く。
「い、いいよ……。それ、ドラニカが取ったものだしさ。ドラニカでも使えるし……。」
「アタシはハンカチってガラじゃねえよ。それに、アタシがユーキに渡したかったんだ。」
「えっ。」
「今日はすげえ楽しかった。多分……今日楽しかったのはユーキのおかげなんだ。だからこれは、アタシからのお礼。」
ドラニカはそう言った。
「だめ、か?」
ドラニカは不安そうな瞳でこちらを見てくる。
……この申し出を断れる奴がいたら見てみたい。
「そういうことなら、ありがたくいただくよ。」
僕はそう言って笑った。
「はー良かったー。アタシはユーキに迷惑かけっぱなしだったからな。どこかでお礼したかったんだ。」
「いや、そんなこと……。僕が好きでやってるだけだし……。」
「ユーキはそういうと思ったからな。アタシが手に入れたものでお礼したかったんだ。」
そう言われて僕は手元にあるハンカチを見つめた。
もしかして、これは家族以外から初めてもらったプレゼントではないだろうか。
射的のときは何も思わなかったけど、ドラニカからもらった物と考えると、とても大事なものだと思えた。
「こちらこそ。ハンカチありがとう。大切に使わせてもらうね。」
僕だってハンカチってガラじゃなないけど、これからはずっと使っていこう。
ドラニカは僕の返事を聞いて、満足そうに微笑んだ。
その笑顔は今日、中庭で見たあの笑顔に似ていた気がした。
僕たちは学校からの帰り道を下って行く。
「はー。これからまた魔物狩りの日々に戻らなきゃなー。」
「あはは。今日魔物が現れなくてよかったよ。」
「そうだなー。ま、むしろこっちから探しに行かねえと出てこねえような奴らだからな。」
「そうだね……。僕もそれで手伝ってるわけだし……。こっちに来た魔物を全部倒してくれるまで、お付き合いするよ。」
「…………そうだな。頼むぜ。ユーキ。」
「うん。任せて!」
僕は、普段とは違う、浮ついた気分で帰り道を歩いた。
読んでいただける皆様のおかげで10話まで到達しました。
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