私は「死んだと思ったら生きてたキャラ」ですが、読者から「死んだままでよかった」「感動を返せ」と叩かれまくり心を病みました
あ、どうも初めまして。
私はあるフィクション作品のキャラクターでして、死んだこともあるんです。あ、もちろん“物語上の死”ってやつでありまして、本当に死んだわけじゃありませんよ。でないとこうしてここに来ることもできませんからね、ハハ。
どういう風に死んだかと申しますと、そりゃあもう感動的に死にましたよ。
ドラマチックに、ストーリー上の見せ場として、華々しい死に方をさせてもらいました。大勢の読者が私の死を見て、涙してくれたと聞いています。多分、あの瞬間の私は主人公以上に輝いてたんじゃないかなぁ……。
とにかくそれぐらいいい死にっぷりだったということです。
物語上で死んだということは、永久退場ということであり、それ以降私が物語に登場することはなくなるわけです。あ、回想シーンなんかは別ですけどね。
これで私の役割も終わったかななんて思ってたんです。達成感はありましたが、もっと活躍したかったなという思いももちろんありました。なんだかんだフィクションのキャラなんてのは出番が多くてナンボの世界ですから。
そんな時、作者さんから連絡があったんですよ。
どんな連絡かっていうと「君をもう一度出したい」という話でした。それも回想シーンや幽霊として登場みたいなことじゃなく、「死んでなかったことにして再登場させたい」ということでした。
もちろん喜びましたよ。
だって、これでまた出番をもらえるわけですし、しかも私は感動的な死に方をしてるわけです。読者みんなに死を惜しまれたわけです。そこに私が生きてましたと再登場したらどうなるでしょう?
絶対盛り上がる。下手すりゃ主人公食っちゃうんじゃないかぐらいの勢いで人気が出る。そのうち私が主人公に抜擢されてスピンオフ作品なんかも出たりして……こんなことまで考えましたよ。
とにかく私はノリノリで再登場を果たすわけになったわけです。
さて、いよいよその時がやってきました。
死んだと思われてた私が、「どうにか助かったんだ」という風に物語に再登場したんです。
読者はみんな「生きてたんだ!」「嬉しい!」ってなるものと思ってましたよ。
しかし……現実は残酷でした。
結論からいうと、私の復活は大失敗でした。叩かれまくりました。ブーイングの嵐ってやつです。今思い出しても震えが止まりませんよ。
具体的にどんな風に叩かれたかというと――
「なんで生きてんの?」
「ないわー。あんなかっこよく綺麗に死んだのに」
「あの時の感動を返せよ」
こんな感じでした。よせばいいのにネットでエゴサなんかしたらもう炎上しちゃってて。読者みんなが「死んだままでよかったのに」って言ってて。いやもう、ホントにキツかったですね。
お前ら俺が死んだ時あんなに悲しんでたじゃないか。死んで欲しくなかったって言ってたじゃないか。あれはなんだったんだと。
感動を返せっていうけど、別に俺が生きてたとしてもその感動が嘘になるわけじゃないだろと。
憤りすら感じましたね。
感動的に死んで伝説的なキャラになってた私が、生きてたことになったせいで別の意味で伝説になってしまったわけです。
こうなると作者のことも恨みましたよ。余計なことしやがってと。
しかし、私の立場で作者さんに逆らえるわけないですからね。抗議なんかはしてないです。とにかく私は誰からも生存を望まれてないキャラとして再登場を果たしてしまったわけです。
一時期は本当に病みましたね。マジで死のうかとも思いました。辛いですよ、みんなから「死んでた方がよかった」って言われるのは。
だけど、どうにか踏みとどまりまして、今はバッシングも沈静化して……という感じです。まあすっかり凡キャラに落ちぶれましたけどね。
私の悩み、というのはこんなところでしょうか。
え、凡キャラになっても出番があるからいいじゃないか?
そうですね……やはり出番があっての世界ですしね。
ふむふむ、出番があればいつか挽回できる日も来るかもしれない? そうですね……おっしゃる通りです。
「死んでたと思ったら生きてた」騒動で、知名度だけはありますからね私。
そうですね、なんとか頑張ってみたいと思います。いつか「やっぱり○○は生きててよかった!」って皆さんから言われるように……。
なんだか元気が出てきました。本当にありがとうございます。
ええ、これからも頑張っていきたいと思います。
ええ、はい。じゃあこれは悩みを聞いて頂いた料金です。はい、ありがとうございます。では失礼します。
……
贅沢な悩みだ……。
そりゃ叩かれたのは辛いだろうけど、死んでなかったことになったおかげで出番をまたもらえたんじゃねえか。ここから先の活躍次第じゃまだまだ十分挽回のチャンスがある。野球でいや、まだ五回とか六回ってとこだろ。こんなとこに悩み相談に来るほどの悩みじゃねえわな。
なにしろ俺はもうそんなチャンスなんてないんだからな。
実は俺も、あるフィクション作品の登場キャラだったんだ。物語からは一度主人公と別れるような形で退場して、また再登場させてもらえるんだろうな、って呑気に構えてた。
でも作者からこんなこと言われたんだ。
「君を再登場させるきっかけを探ってたんだけどどうも上手いきっかけが思いつかないんだ。ようするに持て余しちゃってるんだな。だから君のことは死んだことにするわ」
愕然としたよ。
てっきり成長して再登場できると思ったら、再登場することなくナレ死みたいな感じで永久退場。再登場の見込みは絶望的に近い。
つまり、あいつが「死んだと思ったら生きてたキャラ」だとしたら、俺は「生きてると思ったら死んでたキャラ」ってところだ。いつの間にか死んでるんだから読者の心になんか残りようがない。全くやってられないぜ。
まあ俺は俺で、そのおかげで暇を持て余してこんな悩み相談室みたいなことを始めることができたんだけどさ。
今のところ盛況だし、とりあえず第二の人生は上手くいってるってところかな。
それじゃ次の相談者呼ぶとするか。
次の方どうぞー!
完
お読み下さいましてありがとうございました。