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大怪獣物語  作者: 黒犬
6/14

                  ※6

 ヒューーーーーーーーーーーポテッ。

 今度は高々度と違って天井からだったので余り痛くなかった、神様は少しサービスをしてくれるとか言ってたが、俺はなんか元立派な部屋に落されている。

 床には赤い絨毯が敷かれているが、なぜか天井が無くて部屋の4面のうち壁があるのは1面だけという変わった所。4月で吹き抜ける風が心地よく、高い所にあるのか城壁を超えて遠くまで見渡せる部屋だ。

 夕日が綺麗だなぁなんて見つめていたら、誰かが咳払いでアピールをして来る。

「こほん、彼方が新しいエインヘリアルになるただの子犬ですね?」

「わん?――――」(わーーーーーーーいお姫様だぁ、じゃないな)

 (太陽が右手にあるので南側かな?)に、ドラゴンのブロンズ像に挟まれる様に置かれた玉座へちょこんと1体の人形が座っていた。一目見てわかる透明感、人間ではあり得ない綺麗すぎる白肌に人形らしい関節が付いている。(でも可愛い)

「返事をしなさいただの子犬」

「ワンワンワン」(そうです俺が神様が話していたただの子犬です)

「やはりそうですか。私は……」

 《彼女は美少女型アンドロイドの【Execution-9641】ちゃんで、城塞都市ホワイトスティグマの総司令官を務めているそうだ。

 白のタイトスカートに(視線が低いので見えそう)、白タイツと白いヒール靴、金の装飾とか階級章が付いた上着もやっぱり白色という白尽くめの服装だ。背丈は150㎝ぐらいで顔は理想的な小顔、ミドルヘヤー+ツインテールの銀髪で、中学生以下とかにも見えてしまいそうな美しい少女である。

 (指揮官がおっさんだとやる気激減だ、異世界転生はこうでなくては)

 ミーティアの国旗は、白い柱頭に赤青黄色と4色の花弁が付いた柄で、彼女の右胸にそれが付いている。なんかここで働くには色々手続きがあるそうで、復活する時に神様は総司令官を予め呼んでおいてくれたそうだ。》

「えーっとまずはですね……」

 雑音が無い涼しげな合成音の、Execution-9641ちゃんは優しく微笑みながら玉座の前にあるサイドテーブルから書類を持ち上げる。サイドテーブルの側には彼女の執事になるらしい量産型アンドロイドが一体立っていた。

「なんで私がこんな雑兵の……、えーーーと少しお待ち下さいね」

 前半部分をスルーして、後半に従った俺はお座りして大人しく待つ。下から見上げていると時間が経つのを忘れてしまいそうだ。

「学歴、職歴は……話にならないわね。元事務員で肉体労働のできない変態、えっと死んだ理由は……私を下から眺めて楽しいかしら? 反省してないの」

 さっと顔を横に向ける俺だったが欲望には勝てず……(違う、そうじゃない!)

「ワンワンワワン」(意味が分かりません、話をする為に顔を見上げているだけです)

「ふーーーーーーん」

 じぃーーっと上から銀色の瞳で見つめられた俺は、顔を逸らすと変に思われるので同じようにじぃーーとつぶらな瞳で見返していく。

「まぁいいわ【ただの変態】。まず彼方のID登録から始めましょう」

「ワンワンワン!」(勝手に変な愛称を付けないで下さい!)

「兵士は指揮官へ盲目的に従うものよ」

「ワンワンワン」(人には言っていい事と悪いことが……」

「黙りなさいただの変態!」

 美少女の目の角度が上がって怒鳴られると、俺はビクッて縮み上がる。

 スターライトセブンで言う冥王星の黒咲ちゃん? 最初は敵の幹部で、味方になっても回りを見下して攻略が大変だったキャラ。(でも一皮むくと此れがだな……)

「あなたはまだ駆け出しの【ただのザコ】なのよ」

「ワンワンワン」(ザコって言うのも止めて欲しいです)

「黙れって言ったでしょ! その変態にしてザコが、惑星ミーティア陸海空軍の総司令官にして永久大統領な料理番長&警視総監+検察長官+最高裁判所長官+農林水産大臣+サイバー大臣+運輸大臣+財務大臣+厚生大臣な、この私に口答えするとか生意気だと思わないの? 口を慎みなさい」

「ワワンワンワン」(よく分からないのでもう一度お願いします)

「だから私はーーーー」

(Execution-9641ちゃんは、惑星ミーティア陸海空軍の総司令官にして永久大統領な料理番長&警視総監+検察長官+最高裁判所長官+農林水産大臣+サイバー大臣+運輸大臣+財務大臣+厚生大臣様であられられる。足りないのは弁護士だけ、黒咲ちゃんもビックリするような職業なのだ)

「ワンワンワンワン」(なんか凄い役職ですね)

「私の頭脳は最新の超Ω型Ⅸ式AI改々々、通称【フルコスモス】。本体は4次元空間にあって軍隊からホワイトスティグマの、全ロボット・兵器・予算を管理している、とぉーーーーーっても偉いAIなのよわ・た・し・は」

 (1体へそんなに仕事を押し込んで大丈夫なのかな?)と俺は素直に思った。

「昔は同型機の5体に宇宙要塞と聖機竜マザードラゴンの、計7体だったけど今は私と宇宙要塞のヒマワリだけ。ヒマワリは宇宙だけで手一杯だから地上には無干渉、神様はミーティアをほったらかし、つまり私が言いたいのは……」

「ワンワンワン」(独裁ですか?)

「今度それを言ったらこうよ」

 無表情で綺麗な手を首に当てると少女は横にスッと引く、「ワンワンワン」(左遷されるんですか?)って聞いたら、「挽肉にしてピザの具にして上げるわ、何回でも復活できるエインヘリアルには相応しい仕事ね」って微笑みながら言う。

「私は冗談を言わないから覚えておくように」

「ワンワンワン!」(よく覚えておきます!)

 お座りつつ俺は体をギュッと引き締めた。(敬礼のつもり)

「私が言いたいのはね!」

 【いつも遊んでいるように見えても頭は常にフル回転。】なのに他のロボットと違って遊んでいるように見えるから、総司令官は神様にただの子犬の相手をしろと命じられてこんな事になっている。

「私は暇じゃないの! 特別扱いなんだから感謝しなさいただの変態。脱線しちゃったけどえーーっと、そうそう怪獣ハンターのID登録を……」

 Execution-9641ちゃんはなぜか俺を見つめて固まっている。(呼びにくいなこれ)

「ワンワンワン……」

 総司令官様の呼び方を、Execution-9641から別の物に変えたいと俺は訴えた。

 エクスちゃん「無礼討ちか磔の刑ね」、エクス様「センスゼロで怪獣の餌」、(エクステンションは処刑で9641、考えろーー考えるんだ俺……)

「みんなは私の事をミーティアの電子妖精、ミリィ様って呼んでるわ」

 (分かるかそんなの!)

「ただの変態は本当に怪獣ハンターのIDが欲しいのかしら? 変態には下水道の掃除が似合うと思うんだけど」(変態が固定されてしまう! 反論だーーーー)

「ワンワンワン……」(下水道の掃除なんて俺はいやだ、エインヘリアルらしく格好よく戦いながら暮らしたい!)

「あなた如きに何が出来るの? 銃を握ったことも無い変態の癖に」

「ワンワンワンワン……」(俺の名前は変態ではなく、ただの子犬も嫌であーーーーーーーーーーその……、俺の名前はポチだからな!)

 『システムアナウンス:ただの子犬の名前がポチで登録されました。一度決めた名前の変更は出来ない決まりです』

「逆玉狙い、ヒモ男に相応しい名前ね。ザコの名前なんかどうでもいいの」

「ワンワンワーーーン」(どうでもよくないーーーーーー)

「どうでもいいの!!!」

 ミリィ様が座ったままズガンって叩くとサイドテーブルが粉砕される。

 (さすがアンドロイド凄いパワーだ)

「もーーーーーーーお気に入りだったのに壊しちゃったじゃない。ザコに弁償して貰うから忘れないでよね」

 ちょっと後悔して物憂げな表情になるミリィちゃん。文句を言いたいが話が進まないので流すとして(サイドテーブルは高くない筈だ)、早く怪獣ハンターのID登録をして欲しいと俺は訴えた。

「本当に欲しいの? ザコはザコらしく一生、下水道の掃除をして暮らすべきだわ」

 (神様、ミリィ様とか神族って奴は……)

「勇者が裸足で逃げだす怪獣と戦うのって凄く大変なのよ。子犬ならスラム街と下水道の掃除だけで十分生活できるでしょ、素直に諦めなさいポチこれは親切心だからね」

 優しい声音と裏腹に注がれる批難と軽蔑の視線、役立たずは居るだけで迷惑だからさっさと消えてくれないかしら? と彼女は言いたげだ。

 (そんなアホな異世界転生があるかーーーーーーー、あるんだろうな)

「現実はアニメと違って凄く厳しいんだから。自由気ままに生きてきたのに巻き込まれたアネラスが可愛そうじゃない」

 (俺の所為じゃねーーーーーーーーーーーーーーーー)

 憧れの異世界転生とか妄想が根底から崩される諦め感。(スーパー能力を手に入れたら美少女ハーレムを作って、ウハウハの豪邸生活がしたかったなぁ)

 所詮俺は底辺で生きる定めなのか? 婚約者に捨てられ、神様に捨てられミリィ様にも酷い仕打ちを受けている。項垂れて肩を落とし生きるのが嫌になってきた俺は(死ぬ事も出来なくなった、何だかなぁ……)

「強制はしないわ、どうしてもって言うならID登録をして上げるけど、ポチはアネラスと一緒に争いのない普通の生活を考えるべきよ」

 ミリィ様に言い負かされた俺は尻尾をフリフリ、平和が大好きな俺は戦うことを止めて全てを捨てると影でひっそり生きる事にする、つまり【GAME OVER】。


 [ばかもん! 勝手に終わらせる奴があるかぁーーーーーーーーーー]

 [手間の掛かる子犬だなぁ]

 [いいですかミリィ……]

「美少女に言い負かされて諦める変態ザコが、何の役に立つって言うのよ」

 とつぜん空から振ってきた神様の声、思念波? が脳に直接響いて来るので、俺達は何となく赤く染まった空を見上げつつ話しをする。

 [エインヘリアルが役に立つとか立たないとか、彼方が決める事ではありませんよ]

「あんなザコに何が出来るって言うんですか?」

 [モンスターの群れに放り込んでやりゃいいんだよ。嫌でも戦うようになるって]

「それもそうですね」

 (ちょっとまてーーーーーーーーーーーーー)

「ワンワンワーーーーーーーーン」(俺はただの子犬だぞーーーーーーー)

 [だからどうしたのじゃ?]

 [それで?]

 [サービスしてやったろうが]

「ポチはウルトラMAXスパルタコース決定よ覚悟しなさい!」

 ビシィ! と玉座に座っている美少女が俺を指差しつつ宣言する。

「ワンワンワン」(何ですかそれ?)

 〔お主はエインヘリアルを養成する訓練校で、スペシャル訓練を受けるのじゃ〕

 〔鬼教官にマンツーマンで鍛えて貰えるとか羨ましい奴だな、嬉しいだろポチ?〕

「ワンワワンワン……」(勝手に決めないで下さい! もっと優しいコースがいい、俺は戦闘経験のないただの一般人にして……)

 [ハイ却下]

 [神の命令に従うのだ]

 [根性だせーー根性を! 男だろうが]

「ワンワンワーーーン、ワワン……」(根性論は時代遅れだぁーーーー、人は褒めて伸ばさなきゃ行けないんだぞ! 体罰反対ーーーーー)

 [ポチはエインヘリアル全てに喧嘩を売るつもりなのじゃな]

 [神の命令に逆らうという事はですね……]

 [男だなぁポチ]

 (うううう泣きたい、泣いてもいいよな? グレチャウゾ俺!)

「よいしょっと」

 何故かいきなり持ち上げられる子犬の体。玉座から立ち上がって近付いて来たミリィ様に抱きかかえられた俺は、(アンドロイドでロリな体は楽しくない)、残骸を片付けつつ執事ロボが新しく持って来たサイドテーブルに載せられる。

「ザコポチまずこの書類を確認しなさい」

 (ザコって言うなよザコってさぁ)

 ミリィ様は面倒くさそうに、テーブルにお座りした俺の前に書類を載せてきた。誰が書いたのか知らないが此れには、俺の本名や転生した経緯とか、人間時代の職歴なんかが詳しく記入されている。(プライバシーは? どうやって調べたんだ)

 ミリィ様に捲って貰いながら俺はその書類を全て確認して……

「もういいわねザコポチ、これに前足を載せてからスタンプを押すのよ」

 書類の確認が終わったら俺は、言われるがままに右手を朱肉へポンッと付き、赤い色が付いたら判子を押す覧へポンと押した。

「これで怪獣ハンターのID登録は終わり。次は……」

 最初の書類が片付けられて次に載せられたのは、【ウルトラMAXスパルタコースへの入学申請書。】(嫌だぁーーーーーー)

「あっこら、待ちなさいザコポチ!」

 1回目は気楽に突いたが2回目は嫌! 抵抗して逃げようとサイドテーブルから飛び降りたらミリィ様に捕まえられ、ジタバタする俺を持ち上げつつ右手をムリヤリ……

 (止めろ、止めてくれーーーーーーーーーーーー)

 (なんて恨めしい子犬の体)ポンポンッと力業で、肉球スタンプを押させられてしまった俺はミリタリー訓練校へ強制入学させられてしまう。

「私の話をよく聞きくのよザコポチ」

 俺の目の前で書類を回収してどこかへ運んで行く執事ロボ。キャタピラに円柱型の胴体とマジックハンドが付いた彼奴は、大事そうに書類を持つとミリィ様の命令に従って逃げるように階段を降りていった。

 拘束から抜け出そうと藻掻いている俺は、ミリィ様に抱かれたまま(書類を奪えないように)玉座へ座って、聞きたくない話を聞かせられる。

「転戦したばかりのエインヘリアルは、まず養成学校へ入るのよ。ここの訓練費用は全て神様が出してくれるんだけど、学校から逃げたり落第して追放されたりしたら、訓練に掛かった費用は全てエインヘリアルの借金になるの」

「ワンワンワン」(借金って幾らですか?)

「ノーマルコースで1千万リム、此れに罰金が付いて倍になるわ。商品の値段は日本と変わらない位だから、カップ麺が20万個ほど買える値段ね」

「ワンワンワンワン」(ウルトラMAXスパルタコースは幾らになりますか?)

「専用の特別講師が付いて値段は3倍に跳ね上がるわ、罰金も3倍の6000万リムよ。ただで個人レッスンが受けられるなんて嬉しいわよねポチ?」

「ワンワン、ワンワン、ワンワン」(嬉しくない、嬉しくない、嬉しくないんだ)

 諦めと絶望、下水道の掃除がしたかった俺は塞ぎ込んでいる。(城塞都市へ来ずにタコ男のクラケンさんに従って、スラム街に残ればよかった……)

「もういいわねザコポチ」

 ミリィ様が手を離してくれて床に降りた俺はとぼとぼと歩き出す。

「訓練は明日からよ、今晩中にアネラスと準備をしておきなさい。行方の分からない彼女は兵士とロボットに探索させて、見つけ次第あなたに連絡を入れるわ」

 階段から下へ降りようとすると、ミリィ様が後ろから声を掛けてくる。そんな気分じゃ無いんだけど振り返った俺は、一応頭を下げながらお礼を言って向きを変え、重い足を引きずりながら階段を下りて行った。


 ――――数時間後の4月2日、夜9時ぐらい。

 空いたお腹を我慢しつつまだかまだかと待っていたら、夜中になって漸くミリィ様から漸く連絡が入って来た。ステータスペンダントが光ってリンリン鳴り、それを触って起動したら通話機能を立ち上げて、少し迷ってから☎ボタンを押す。

「さっさと通信に出なさいザコポチ! 丸焼きにして食べちゃうわよ」

 初めて会った時は嬉しかったミリィ様の小顔は、今見ると閻魔大王のように思えて気分が沈んでくる。

「ワンワンワン?」(アネラスはどこに居るんですか?)

 Sペンダントから空中へ映し出される、縮小されたミリィ様の全身画像と向かい合いつつ俺は話をする。そしてあーだーこーだと相談した俺は、唯一知っている場所つまり牢屋の地下にある下水道に行って、アネラスが来るのを待つことにした。

 更に1時間後……

 鎧を着た兵士さんに案内されて来た俺は、コンクリートに覆われた地下道に2人並んで立っていて少しすると、薄暗い道の向こうから明かりが近づいて来るのを発見した。

「お前がゲオ・アネラスかーーーーーーーーー」

「ソノトオリデスメイレイドオリニ、アネラスヲサガシダシテキマシタ」

 大声で尋ねた兵士さんに合成音で返事をしたのは、ライトの代わりの目を光らせている量産型ロボット。なんか電気でバチバチする槍を持った此奴は一体ではなく、先頭に1台とアネラスを挟んで後方に2台の、計3台で挟み込みながら少女を連行していた。

「本当に私の罪状は無くなるんでしょうね?」

「ミリィサマノタメニ、マジメニハタラクナラナ」

「コノドロボウメ」

「イタッちょっと!」

 猫耳ツインテールなアネラスのお尻を、量産型ロボットはマジックハンドで構えた槍で後ろから突いている。ライト代わりの目を光らせながらロボット達は、

「スナオニツカマレバイイノニ、オマエヒトリヲサガスタメ……」チクチク

「350ニンノヘイシト500ダイノロボットヲ、ゲスイドウトスラムニトウュウシテダイソウサクシタンダゾ。コノッコノ」と文句を言いつつ、チクッチクチクと突き続けた。

「悪かったわよ謝るからそれ止めなさい!」

 アネラスは新しく買い直したらしい、マントを羽織り皮の軽鎧セットを着て左右の腰には2本の短剣を刺している。その少女は涙目でお尻を手で擦りながら、「痣になったらどうしてくれるのよもう……」と愚痴をこぼした。

「アレガオマエノエインヘリアルダゾ、アイサツスルンダ」

「久しぶりねただの子犬、あなたポチっていう名前に変えたのね」

 先頭にいるロボットを避けて近付いて来たアネラスは、屈みながらこう言って俺は彼女へ尻尾を振りつつ「ワンワンワンワン」と明るく返事をした。

「何を言ってるか分からないけど握手? はいはい……」

 お座りして右手を上げると、アネラスは応じてくれるので握手、握手と。

「これから私はどうなるの?」

「まず幾つか書類にサインして貰う」

 アネラスが顔を上げて側にいる兵士に聞くと、彼は持っていた鞄から書類と万年筆を取り出してそれぞれをアネラスに手渡した。

「なによこれ……」

 アネラスが受け取った書類は俺のと同じ、彼女の経歴を纏めたのや怪獣ハンターのID登録用紙と、エインヘリリアル養成学校への入学申請書。

「ウルトラMAXスパルタコースてどんな内容なの?」

「俺は知らん」

「彼方達は知っているわよね?」(そうだよな、俺も知りたい)

 書類を受け取って確認したアネラスは、知らない兵士の代わりに振り返ってロボット達へ聞くのだが、そいつ等はサンダーランスを突き付けながら

「ヨケイナコトヲカンガエルナ、ダマッテサインシロ」

「アネラスニキョヒケンハナイノダ、テイコウスルナラ……」とにじり寄って来る。

「私と一緒に逃げるポチ?」

「ワン?」

 振り向いたアネラスに見下ろされた俺は首を傾げるも、(神様に怒られるしなぁ)と思い止まって「ワンワンワンワン」と、訓練を受けるように逆に説得をした。

「子犬に聞いてもしようが無い訳だけど……」

 前後をなんども振り返り時々下を見たりして、「潮時かしら?」と呟いた彼女は諦めたのか書類にサインをして血判も押す。


「これでいいの?」

「確かに受け取った」

「一つ確認があるんだけど……」

 【見落としていたけどここ重要!】書類を兵士に渡したアネラスがした質問とは

 【エインヘリアルに給料は出るの?】である。

「エインヘリアルニキュウリョウハアリマセン」(無いだとぉ!)

「スバラシキカナジコギセイ、ハクアイセイシン」

「ソノナハエイエンニカタリツガレルデショウ、ユウメイジンダケガ」

「スベテハカミノナノモトニ、カンガエルナエインヘリアルタチヨ」

「怒っていい所よね?」

「個人営業とか雇兵業、稼いだ分だけ自分の儲けになるフリーダムだな」

「ゼイキンニ、クエストノショウカイリョウ、バカハシヌマデテイヘンダ」

「シラナキャヨカッタホントウノハナシ」

「シタウケダマシテガッポリウハウハ」

「エインヘリアルタチノドリョクハ、イッタイイツムクワレルノカ?」

「カミヨーーアナタハドウシテイツモ、ワレワレヲミステルノダ」

「ミステナイデーーーコンナニガンバッテルノニ」

「ミリィ様ってさ激務の疲れからか時々変になるんだよ」

「ゲンロンノジユウヲマモロウ」

「ジョウホウヲカクスノハヨクナイゾ」

「ジョウホウカタデオーバーヒート」

「ナイナラツクロウフェイクニュース」

「シラナクテイイハナシデダイコンラン」

「ダレノセイデコウナッタ?」

「カミノミゾシルッテヤツダナ」

「彼方達はロボットでしょ、機械が混乱したり嘘を付いたりしてどうするのよ」

「ワレワレハタダノショウモウヒン、ウソナンカツイテオリマセン」

「コクシサレテアタリマエ」

「キカイニモヤスミハヒツヨウダ」

「メンテシテーーーコワレルヨーーー」

「ダレカAIニアイノテヲ」

「えーーーっとその……」

「ナゲダシチャッテイイデスカ?」

「ヤッテラレルカコンナシゴト!」

「カクメイダーーーーヒヲハナテーーーーーー」

「「「ワーーーーーーーーー」」」

 唖然としている俺達の前で槍を振り上げて反転し、走り出した3体のAI達は奥に行って角を曲がるとその先でドッカーーーーン。

「見なかった事にする?」

「異議なし」

「ワンワンワン」(俺もそうする)


 ……ここに連れて来てくれた兵士が立ち去ると、下水道に残された俺とアネラスはこれからの事について話し合いを始めた。彼女は下水道の最奥に秘密のアジトを持っているそうで、話をする為にまずそこへ向かおうと揃って歩きだす。

「ライトボール」と彼女が使った魔法は、夜道を歩くために必要だからと子供から教えて貰える、ごく一般的な魔法だとアネラスは言う。

「誰かさんの所為で見つかったのよねここ、新しいアジトを用意しないとだわ」

 牢屋の下から更に数十分歩いて、辿り着いた先は鉄扉の付いた6番倉庫。(そうプレートに書いてある)

「派手にやってくれたわよね全く……」

 鉄扉は何者かの手によって破壊されて床に転がり、俺はその奥へ行こうと……

「ちょっと待ちなさいポチ!」

 倉庫の中へ入り掛けたら何故かアネラスに呼び止められる。

「ワンワン?」(何かようか?)って振り向くと、「会った時から思ってたんだけど彼方もの凄く臭うのよ、一体何をしたらそうなる訳?」って怒られた。

 アネラスは褐色肌の鼻を摘まんで顔を顰めている、そんなに臭うのかなと俺は自分の体を嗅いでみるのだがよく分からなかった。

 説明しろと言われるので……

 アネラスから距離を取った俺は【スキル:マーキングシャワー】。

「今度そのスキルを使ったら絶交よ、分かるわねポチ?」

 (汚いしな。あっミリィ様に殺されるかも知れないーーーーー、どうしよう?)

「そこで待っていなさいポチ」

 そう言って倉庫に入って行ったアネラスは、暫くすると石鹸やタオルなど所謂、お風呂セットを洗面器に入れて持って出てきた。

「こっちに来なさいポチ」(おっ)

 何をするつもりなのかアネラスは、俺の首筋を摘まみ上げると下水道の奥まで俺を連れて行く。牢屋の所にもあったが俺の前には下水を押し流すために、地上の水路から流れ込んでくる滝がある。(そういう事かつまり)

 俺を摘まみ上げている赤髪の少女は、その滝へザブンと容赦なく突っ込んだ。

「ゲボゲボゲボ……」

 (苦しいよー死んじゃうよーー)ってジタバタしてたら、暫くして滝から引き抜いたアネラスは、石鹼を俺の身体に塗りたくって強引にゴシゴシワシャワシャ。

 (もっと優しく扱えーーー)って思うと再び滝へドボン。

 ガボガボガボと身体の泡が流されて行き綺麗になったら、床に降ろされるから全身を振って水けを飛ばし、終わりにタオルで拭いてくれる。

「次は私の番ね」(なんだって!)

 ビックリする俺の前で美少女は大胆にも全てを脱ぎ始めた。

 (おーーーーこれはいいぞ、子犬だから堂々としていられる)

 マント、手袋、籠手、皮鎧、臑当て、靴、黒のレオタードまで。下水路に住んでいる彼女は慣れているのだろう、深夜にここへ人が来る可能性は粗0な訳であり、服が全て無くなった時の感動と言ったらもう……(いかん鼻血が出そうだ。我慢、我慢と)

 貧相なのが少々残念ではるが、薄赤色のツインテール美少女! スポーツ体型少女のお体を無料で拝めるなんて、

 (異世界転生して良かったーーーーーーーーーーーー)

 服を脱いだらリボンを解き、長い髪を降ろして滝の中へ。薄暗い所に流れ落ちる水が加わって洗い始めたりすると、(女神様だ、女神様がいるーーー)って興奮してきた。

「どうしたのポチ?」

 この光景を脳裏に焼き付けようと下から凝視していると、振り返ったアネラスが聞いてくる。(ごめんなさいっ)ビクッって震えた俺は1度顔を反らすも、思い直して尻尾を振りながら鳴いてみた。

「まだ洗い残しがあったの? しょうがないわね」(おおおおーーーーーー)

 少女は俺を優しく抱きかかえてくれた、飛びそうな理性を抑えつつアネラスに身体を任せながら……、なんと体に触っても怒られない!(子犬って素晴らしい)

 (これが許されるなら……)と、あれこれ妄想してしまう悪い大人がいる。

 2人揃って体を洗い終えたらちゃんと拭いて乾かし、アネラスと並んで倉庫に入った俺は夕食を食べる事になるのだが、

 【今日の晩御飯はーーーーーーーー無かった。】

 なぜ無いのか?

「ゴメンねポチ、今までの罪を許す代わりにって……」

 アネラスは全財産を持って行かれました、あのロボット達に。

 〘箱に積んでいた肉とか魚の缶詰(盗んだ物)、机に置いておいた夜食用のパンと酒(盗んだ物)、籠に入れておいた果物とかお菓子(盗んだ物)、床下に隠しておいた金の入っている革袋(盗んだ物)とか全部である。〙

 【エインヘリアルとパートナー以外は、四次元BOXを使えない。(これ鉄則)】

 ロボットや兵士の総掛かりで身ぐるみ剥がされそうになる所を、どうにか最低限の装備と洗面用具だけは許して貰って現在に至るのだ。

「夜も遅いし盗みに行けないから……」(盗んじゃダメだろ)

 お腹が空くけど今晩は我慢だ。アネラスと一緒に奥に作られた藁のベッドへ、行った俺はそこで彼女と一緒に寝る(〇Kの添い寝!)、何も考えずに今日は寝てしまおう。

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