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大怪獣物語  作者: 黒犬
4/14

※4

 この都市は観光に向かないなぁと俺は思った。中世にビル群を足して割ったような変な作りをしていて、その所為か生活風景も色んな物が混ざりあっているが、基本的に戦闘色が強くて余所者を寄せ付けない感じがした。

 中でも目を引くのが都市の中央にある巨大ビルだ。

 下から数階は5角形で各角の屋上には砲台が載っており、行政の中心になるらしい数十階建てのビルはハリネズミの様に武装されてて勇ましい。

 戦闘に特化された都市は城壁と重武装に守られ、制限があるのか中心ビル以外の建物は5階より低く統一されている。戦闘を繰り返しているような都市は、全体的にボロボロで天井が無かったりとか人が住めそうにない所も点在していた。

 兵士達が俺とアネラスを載せている車は、【フライングカー】と言うらしい。

 これはトラックからタイヤを外して宙に浮かせた車体に、小型のロケットエンジンが付いている車。燃料は何だろう? どうやって浮かせているんだろう? 聞きたい事がいっぱいある俺だけど、捕らわれの身だから籠の中で静かにお座りをしている。

 町の西側から首都庁らしい建物の前を通って東側へ。

 フライングカーは宙に浮いているので、ガタガタせず乗り心地は快適。信号で止まったりしながら進むのだがこの都市は水が豊富で、途中なんどか水路に掛かる橋を渡る。上空から見たこの城塞都市は、幅の広い水堀に囲まれていたのを俺は思い出した。

 ――――さてだ。

 〘子犬になり、高々度から落とされて、美少女に激突したら兵士に捕まるわと、いきなり色々あった俺は神達に文句が言いたい!!!!!〙

 言いたいけど我慢するしかなく、暫く進んだフライングカーはある場所で停止した。

 首都庁から少し東に進んだ水路沿いにある、鋼鉄の壁で作られた平屋。その前に車が止まると車から降りた兵士達は、2人掛かりでまだ気絶しているアネラスを、檻から出して平屋の中へと運び込んで行った。

「この子犬はどうしますか?」

「鉄籠に入れたままアネラスと一緒の牢屋へ放り込んどけ。俺はアネラスを捕まえた報告を検察に伝えてくる」

 どうやら近くに検察庁かなんかがあるらしく、隊長が居なくなると俺が入っている鉄籠を持った兵士は、アネラスを運んだ兵士と同じように平屋へ入って行く。

 中に入って直ぐの壁沿いには受付・監視室があり、この部屋は鉄柵で二つに分断されていて、柵に付いた扉の前には強そうな兵士が立っている。アネラスに続いて鉄柵の扉を通り抜けると、地下に続く階段があって俺はその先に運ばれて行った。

 左右に続くコンクリート壁や鉄格子を見ながら、目的の牢屋までやって来ると兵士はアネラスの手枷を外してその中に放り込む。

「後で餌をやりに来るから大人しくしているんだぞ」

 そう言いながら兵士が鉄籠を置いたのは古びて汚いベットの上、犬になった所為か汗臭さが人の時より感じられてちょっと気分が悪い。ガチャリと鉄格子の鍵を掛けて去って行く兵士を見送りながら俺は色々と考えた。

 あの三姉妹めーーーとか、神様がぁーーーやら不満は沢山あるが、俺はこの狭い籠の中から 外には出られず憤ってイライラしていると……

 〘グゥーーー(何よりまず飯!)死活問題である。〙

 俺が兵士から貰える餌はどんな物になんだろう?(普段よく目にする犬が食べるのは残飯とか、ドックフード・何かの骨に生肉とか……、そんな物喰いたくねーーーーー)

 元人間である俺は、犬の生活に耐える自信が無いぞ。

 神様を恨みながら次を考えようとしたが、何だかとても眠い。色々あって疲れたしアネラスはまだ起きそうになく、欠伸をして丸くなった俺はスヤスヤと眠りに落ちた。


 ……数時間後に目が覚めた俺は鉄籠の中でお座りをしている。

 最初は我慢をしていたがする事が無く、少しして苦痛を感じるようになって来た。牢屋より狭いこんな場所にずっと居たら、俺はおかしくなってしまうかもしれない。(動物はよく平気だよなぁ……)と思いつつ俺はどうしようかと考えた。

 窓が無いベッドが置かれただけの狭い牢屋、暗い中を照らすのは牢屋の外にある天上に設置された蛍光灯。風の通りが悪くて淀んだ空気とか、牢屋の隅にある汚れた便器から立ち上る異臭が、敏感になった俺の鼻を虐めてくる。

 (鉄籠に掛けられた錠前鍵が恨めしい……)

 これから何をするにせよアネラスが起きてくれないと、俺は動けないのでまだ床で気絶している少女を起こす事にした。

「ワンワンワンワンワン」

「煩いぞ犬ーーーーーーー」

「だまりやがれ!」

 アネラスに起きて欲しいなぁと吠えていたら、前とか隣の牢屋にいる人が怒って鉄格子や壁を蹴ったりしてくる。麻の囚人服を着ている無精髭の怖そうな人に、怒られた俺はビクッとして1度吠えるのを止めるが、思う所があってまた吠え始めた。

「ワンワンワンワンワンワン……」

「うるせぇって言ってるだろうが!」

 ガチャガチャと前の人が鉄格子を揺すり、「お前も煩いぞ!」と別の所から声が上がって騒いでいたらアネラスの目が開きだす。(よし作戦成功だ)

「煩いわねぇ誰よいったい」

 目を擦りながら起き始めた少女は、装備を全て兵士に取り上げられたので、黒のレオタード姿になっている。レオタードの腰から薄赤色の尻尾が伸びて、同色の猫耳が頭に付いたツインテールで小柄な体型だ。

 褐色肌なのは少し残念だが美少女である事に変わりはない。(しかも猫耳だぞ!)


「ワンワンワンワン、はっはっはっ……」(これで合ってるよな?)

 お座りした子犬の俺は、尻尾を振りながら愛らしい目で少女を見つめる。少女趣味が入って面倒くさいあの三女に長く付き合って、結婚まで行った俺はこうやって女性に媚びるのに慣れているのだ。

「……」

 俺がしているようにアネラスも見つめ返してくる。意識がはっきりしないのか最初は

優しそうな顔だったが、段々眉が吊り上がり険しい顔つきになって……

「よくもやってくれたわね! この糞犬ーーーーーーーー」と大声で吠えた。

 当然と言えば当然なのだが、声を牢屋中へ響かせたゲオ・アネラスと言う10代の美少女は、メチャクチャに怒り始めて怒りながら無意識に腰の左右へ手を伸ばす。(アネラスは二刀流なのか? そう言えば武器を2つ取られていたな……)。

「何で武器がないの! ローブや防具も無いじゃない!」

 武器が無い事に慌てた少女はまず殺気を込めた目で俺を睨みつけて、それからツインテールを振りつつ辺りをグルリと見回した。

「気絶した後に兵士に捕まって牢屋に入れられたのね私」

 どうやらアネラスは状況を理解したらしい、頭の回転が速いのはさすが泥棒だ。

 ――――そして

「どうしてくれるのよこれーーーーーーーーーー」

 俺を睨みながら鉄籠を持ち上げた彼女は、前後左右へ激しく揺さぶりながら

「あんたの所為でしょ何とか言いなさいよ!」と怒鳴ってきた。

 しかし異世界に転生させられたばかりの俺は、訳も分からないまま捕まってここに居るのであり、どうにかしろと言われても大変に困ってしまう。

「ワンワンワン」

「ふざけてるの?」(いや俺は子犬だし……)

 ワンが気に入られなかったので「クーンクーーン」と鼻を鳴らしてみる。

「もーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 鉄籠を振りかぶったアネラスが牢屋の壁に投げつけるので、ぶつかった俺はとても痛かった。(怒って吠えるべきか? いやここはだな……)尻尾を丸めて股の下に入れながら腰を引いたら、耳を垂らし頭を下げて「キューンキューーン」と俺は鳴く。

 女と言うのは適度に持ち上げて媚びておけば、後はどうにでもなる生き物だ。

「そんなに怯える事無いでしょ」(ほらな、直ぐに怒りが消えてくれる)

「キューンキューーーン」(だめ押しを忘れてはいけない)

「悪かったわよ」

 引っ繰り返っていた鉄籠を持ち上げて、ベッドに置き直した彼女は俺に謝るのだがここでもう一押しておこう。つぶらな瞳で見つめながら、鉄籠を持った彼女の手を甘えるように舐めておく。(これで完璧だ)

「お前はなんなの?」

「ワン?」(人の言葉が話せたらなぁ)

 鉄籠を床に置いて話し掛けてきたアネラスに、俺は首を傾げながら吠えてみる。

「何で空から振ってきた訳? 犬に答えられないと思うけど」

 答えられるが俺は人の言葉を話せない。ならばこうだと、鉄籠の中で仰向けになった俺は痙攣したように手足を動かしながら、「キューーーーン」パタッと顔を横に倒して死んだ振りをした。(分かるかなこれ?)

「何をしているの?」(いやだからな)

 立ち上がって「ギャン!」と痛そうに吠えて仰け反った俺は、引っ繰り返るとさっきと同じように死んだ振りをした。

「誰かが死んじゃったの?」

 立ち上がってフルフルと顔を振った俺は、手で鼻に触ってからもう一度繰り返す。

「あなたは死んじゃったの? でも生きてるじゃない、死んだ後に生き返ったとか言わないでしょうね?」(おおっ通じたぞ!)

 4本足で立ってコクコクと頷いた俺は……(次どうしよう? 神様、神様……)

 人と同じように2本足で立つのだがかなり辛い。鉄籠の編み目に爪を引っ掛けながらどうにか立った俺は、片手で支えながら残った手をさっき倒れていた所へ向ける。

「犬の癖に知能があるなんて変だわ、あなたゾンビじゃないでしょうね?」

「ワンワンワン!」慌てて吠えた俺は、首を左右に振って全力で否定する。

「ゾンビなら体が腐ってるからそれはないわね、モンスターなの?」

 (ちっがーーーーーーう)と否定した俺は、もう一度立つとさっきのポーズをした。

「意味分かんないんだけど」(えーーーーい面倒な)

 死んだ所からやり直し、立ち上がったら俺が倒れた所へ片手を向ける。

「復活させてくれた人? 魔導師、それとも司祭様かしら?」(おしい)

 もう一度繰り返すと「司祭様がどうしたって言うのよ」と、聞かれたタイミングで下に向けていた手を鼻に掛けた俺は頭を振る。(かなりしんどい足が吊りそうだ)

「司祭様じゃないなら、魔導師?」フルフル

「魔神? 悪魔? ああ、もしかして神様なの?」

「ワン!」コクコク(あと1つ)

「死んだ後に神様が復活させてくれて、空から落ちてきたのね」

「ワンワンワン、はっはっはっ」とお座りした俺は期待するように尻尾を振る。

「それがどうかしたの?」(――――知らないのか、あーーだめだこれ……)

 首を傾けて悩んだ彼女は、真剣に考えたようだが答えは出ない。俺が落ち込んで垂れると彼女は、「なんだって言うのよ全く」とかぶつぶつ言いながら、右手を頭の後ろにある髪の毛の中に入れてゴソゴソし始めた。

 少しして彼女が髪の中から取り出したのは、変な形にグニャグニャ曲がっている2本の鉄棒で、それを持って鉄格子に向かうとガチャガチャと扉を開け始める。

 俺達を連れてきた兵士達の話によると、彼女は腕のいい泥棒らしい。(さすがプロだなぁ)と器用に扉の鍵を外していく彼女を俺は眺めているのだが、アネラスは扉を開けたら自分だけ外に出て行こうとした。

 (なんでだよーーーーーーーーーーーーーーーーーー)

 一緒に連れて行って貰えると当然のように思っていた俺は、「ワンワンワワンワンワンワン」と鉄籠の中から、けたたまましく吠えてアネラスに猛アピール。

「私は動物愛護なんて興味ないの、誰か他の人に飼って貰いなさい」

「ワンワンワンワン」(俺はエインヘリアルなんだぞ!)

「煩くしたらばれちゃうでしょ、静かにしてよ」と、彼女はしーーっと口に指を当てながら小声で牢屋の外から言うも、俺は構わずに吠える音量を上げていった。

「ワンワンワンワン……」(牢屋に残されるのは嫌だ、俺も連れて行け、連れて行け)

「どれだけ煩くしてもダメなのはダメ。どこかで元気に暮らすのよ」

 泥棒らしくアネラスは薄情な少女で、幼気な子犬がこれだけ頼んでいるのに後ろを向くとさっさと走り去ってしまう。

「こっちの扉も開けてくれよ!」「俺を助けてくれーーーーーーーーー」等と、脱走するアネラスを見た囚人達はあちこちで声を上げるも完全無視。

 ――――――――――――。

 パートナーが居なくなって静かになった牢の中、一匹でポツンと残された俺は行き場のない怒りと共に唖然とお座りをしている。(クソーーーーこうなったら、ふて寝してやるからな!)と俺は大欠伸。

 他に出来る事が無いし、(いま何時だろうなぁ)とか(お腹空いたなぁ……)と考えながら、鉄籠の中で丸くなった俺は目を閉じてスヤスヤと眠り始める。


 数時間後……

「おいっ貴様ぁ、アネラスはどこに行ったんだ!」

 暫くして大声に反応した俺は目が覚めた。どれ位眠っていたのか分からないが、鎧を着た兵士が上から俺を見下ろしつつ叫んでいる。

「子犬に聞いても分からないだろ」

「どうやって逃げたんだあのクソ女」

兵士は2人いてその内1人は鍵束と長い棒を持っていた。もう1人の方は夕食らしいパンやスープ皿にカップとか、残飯を詰め合わせたようなボールを載せた、食器プレートを持って怒鳴った人の隣に立っている。

「ワンワンワンワンワン」(腹減ったぞーー、水もくれーーー)

「分かったからそんなに吠えるなよ」

 プレートを持っている兵士は屈むとそれを床に置いて、鉄籠に付いた錠前に手を掛けた所で俺を見つめながらどうしようかと考える。

「鍵を外して籠から出しても大丈夫だよな?」

「ワンワンワンワン」お座りしながら尻尾をフリフリ。外しても大丈夫だ俺は可愛いだろうと兵士に訴えたら、「暴れるんじゃないぞ」と言いながら籠の鍵を外して、俺を鉄籠の外へと出してくれた。

「これがお前の晩ご飯だしっかり味わって喰うんだぞ」

「そんな子犬に構うな! アネラスを探しに行くぞ」

 1人が俺の相手をしている間、牢屋の中を調べていたもう1人の兵士は叫ぶと牢の外へ飛び出していき、彼に続いてもう一人も飛び出して行く。

 (あの人たち減俸かな? 大変だなぁどうでもいいけど)

 牢屋に1匹で残された俺に出来ること。逃げることを考えてもいいけどお腹を満たす方を優先したいので、床に置かれたボールに近付いてまず匂いを嗅いでみる。

 黒い鼻を近づけながらクンクンと、匂いは悪くないようだ。

 ボールの中身は、ご飯に野菜屑やら肉の切れ端を混ぜた物で、犬ならこれだろうと動物の骨がセットになっていた。(こんな物を食べる羽目になろうとは……)本心は嫌だったのだが食欲には勝てないので、俺は我慢して食べることにする。

「ワンワンワン」(頂きます)

 行儀良くお座りして言った俺は、ボールに頭を突っ込んで食べ始めた。(全部食ってやるぞーーー)味付けしてないのが不満であるも、こっちは悪くはない。アネラスの分らしいパンは安物のパサパサで、スープも具材が少なく今一美味しくなかった。

 【さて……食ったら出す、これ生命体の基本なり】

 夕食を平らげてお腹を膨らませた俺は、トイレに行きたくなって来た。

 本能に従って部屋の角へと引き寄せられて行き、犬らしくそこで片足を上げた俺は用を足そうと構えるも、(体は子犬でも心は人間、人間たるものやはり正しくトイレを使うべきだろう)と思ったので我慢する。

 部屋の角には汚くて目隠しも無いけど、水洗トイレが一つ置いてある。俺はそこへ近付くのだが(大きいなぁ)と思った、人間サイズのトイレを子犬の俺が使うのはかなりの労力が必要になりそうだ。

 まず届かない、便座の高さと俺の頭がほぼ同じ高さにある。お腹が張った状態でこの上へ登るのは至難の業であり、便座に足を掛けながらよじ登った俺は、中へ落ちないよに4本足で便座に踏ん張りながらどうにか用を足す。

「気持ちの悪い子犬だな」

 こう言ったのは俺の行動を見ていた前の牢屋にいる囚人。アネラスの脱走が発覚すると大騒ぎになり、どやどやと兵士達が牢屋の前を行ったり来たりしているが、子犬になった俺には関係のない話である。

 出した後がまた大変で流すためにトイレ上、壁に設置されたタンクの横にある紐を引っ張らなければならない。少し考えてエイヤッと、ジャンプしながら紐に噛みついた俺は自分の体重を利用して、トイレの栓を回すとジャーーと出したものを流していく。

「エインヘリアルだなお前、中身は犬じゃないだろ」

 アネラスは気付いてくれなかったのに、前の牢屋にいる人は分かってくれた。

「ワンワンワン」と頷きつつ尻尾を振って答えた俺は大欠伸をする。

 【満腹になったら眠くなるのも、生命体の基本なり】

 トイレから降りた俺は、おやつに残しておいた何かの骨をガリガリと齧りつつ、このまま寝てしまおうかと考えるも、その前にステータス確認をしておく事にした。

 (どうやるんだったかな? えーーと……)

 骨を平らげた俺は、お座りすると前足を曲げて首に掛けたドッグタグへ触る。するとステータス画面が顔の前に現れるので、その内容を確認していった。


 半透明な画面の左上にある『身体能力』の欄に前足で触ると、俺が今使えるスキルとか能力値が評議された画面に切り合わる。能力画面は上から順に、LV・名前と職業・EP・魔力適性とか書かれていた。

 『LVワン 名前無し 種族:動物類 職業:ただの子犬

  EP:1000 魔力適性:B±0%』(身体能力値は此だけ、すくなっ!)

 魔力適正はSSS~Dの7段階あって、-10%~20%まで5%位ずつ魔法の攻撃の威力が上がるそうだ。

 (スキルスキルと何々……)

 『注意:モンスターや動物族は人型用の精霊魔法が使えません。

     得意属性:炎  吸収属性:無し 弱点属性:無し

  Eシールド:弱(削減補正±0)、耐性無し

 Eシールド魔法耐性:無し

 Eシールド貫通耐性:C(防げない)

 Eシールド近接耐性:C(防げない)

     嗅覚・弱:嗅いだ匂いを登録・追跡できます。

      吠える:人やモンスターがー驚きます。(ヘイトスキル)

     噛みつく:子犬なので弱いです。

     肉球・弱:壁やモンスターに貼り付けます。

    マーキング:聖水効果、モンスターが一定時間近付きません。』

 (……えっこれだけ? 攻撃スキルが無いんですけど!!!!!)

 子犬の体で噛みつけばいいのかな? 体当たりすればモンスターをやっつけられたりするのかな?(そんなわけ無いよね……。俺は可愛い子犬ちゃん、人間に媚びて甘えて飼ってもらう愛玩動物ってアホかーーーーーーーーーーーーーー)

 (こんなのはサブキャラの仕事だろ! マ・ジ・でふざけんな!)

 どうにかしてくれと悩んだ俺はヘルプがるのを思い出し、『身体能力』の画面から一度出ると先頭画面にあるヘルプのボタンを押した。

 (歴史なんかどうでもいい、戦闘だ戦闘……)

 ヘルプの一覧を前足でスクロールさせつつ探すと、初心者アドバイスを発見する。

 『【攻撃技がない! 戦えない! と嘆いている動物族の皆様へ】

 動物族なので諦めて下さい。(チーーーーーーーーーーン)

 動物族はサブが仕事です、メインで戦えると思ってはいけません。(いやいやいや)

 やり込めば普段から軽視している、サブ職業の有り難みを体感出来ることでしょう。

 ペット・愛玩動物として飼われる人生はそう悪いものではありませんよ。

 勇者候補はあくまでも候補です、そこんとこ宜しく』

「ワンワンワーーーン」(ふざけんなーーーーーーーーーーーー)

「煩いし臭うぞ犬ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 ガチャーーーンと隣にいる囚人に、俺はまたまた鉄格子を蹴られて怒られる。

 (本気で怒るぞ! 神様なんか呪ってやるーーーーー)と、怒りMAXでヘルプ画面を弄ったらまだ続きがあるのを発見した。

 『なーーーんちゃって』(はぁ?)

 なぜだかスクロール出来るので、原稿用紙10枚分位ある空白をダラダラと上げていったら、『他の種族と同じように動物職も、神殿やペットショップ等でスキルを授けて貰いましょう』と終わりの方に書いてあった。

 (なんだ戦えるじゃないかって、あーーーーーーーーーーー)

 『戦えないのでLVが上がらず、スキルを授けて貰うのに必要なアイテムやお金が貯まらないかも知れませんが、パートナーにどうにかして貰いなさい』

 (そうだよなくそ……)

 ほかに必要な情報と言えば……

 子犬の手であれこれと操作画面を弄りながら俺は調べて行く。

 『【1:HPはこの世界に存在しない】

 攻撃を受けたら普通に痛いし剣で斬られたら一撃で死ぬ。

 【2:LV・EPとは魂の力である】

 EPとは魔法力みたいな物。HPの代わりに盾のように発生させ、シールドが敵の攻撃を防いで代わりにEPが減っていく。シールドは一方向しか防げないので、後ろとか側面の攻撃には注意しなければなならないと。

 猛毒や病気など呼吸・接触で感染するのはシールドで防げず、気温の変化に耐えられるスキルとかもあるらしい。戦闘経験値を貯めて神像に有料でお願いしたり、何らかのイベントでEPの総量を上げられる。

 【3:運動能力は現実仕様】

 攻撃力・防御力などといった値は存在せず、修行・筋トレをして自分で鍛えなければならないが、EPを消費した身体強化や強化ドラッグ・人体改造等は可能であると。

 (なんかヤバくないかこれ? 法律で禁止されたれたりしないんだろうか……)

 注意:エインヘリアルは生命体ではありません、神の為にひたすら戦う戦闘機械です。

 【4:スキルの習得には3通りの方法がある】(スキルポイントは無いようだ)

  1、LVUPとか条件を整えた後に神様へ貢物を捧げて授けて貰う。【通常スキル】

  2、ペットショップやどこそこの達人に教えて貰える。      【全般スキル】

 通常スキルは戦闘で使うやつで、全般スキルは主に生産系とか探索スキルらしい。

 これ等とは別に〘英雄LV〙もある。

 英雄LVとは、善行や悪行を積んだり戦場で活躍したりすると、最大LV±30まで増減して超必殺技の使用条件、クエストの受注に影響、商店で割引など色々あるそうだ。神族側は上がりにくくて下がり易い、魔神族側は下がりにくくて上がり易いと。

 【5:試練の祠】

 これをクリアするとクラスチェンジしたり、普通の変身アイテムが貰えたりする。

 【6:∞の塔について】

 兵士・エインヘリアルが訓練するために神様がお造りなられた塔です。

 無限にモンスターが沸いてLV上げに最適な場所、トラップも沢山あって一撃死が多発する素晴らしい訓練施設。死に過ぎたり戦場が怖くなったりと、PTSDに掛かった場合は病院に駆け込んで記憶を消して貰いましょう。(わーいわーい楽しみだなぁ)

 怪獣と戦う前の実戦トレーニングとして最大限にご活用下さい。

 【7:伝説系の装備について】

 なんか神様はエインヘリアルが楽しめるように、伝説の装備をあちこちに撒いたとか何とか書いてあった。これ等は数が少ないので奪い合いになるが、惑星ミーティアの外には持ち出せないので探せば手に入れるチャンスがあるらしい。

 優れたエインヘリアルは神様に重用され、高待遇が約束されているから頑張って戦いましょうと終わりに書いてある。』


 (大体こんなもんか……)大まかな事が分かった所で、ステータス画面を閉じた俺は次にする事を考え始めた。

「フワ~~~ア」(俺は眠い、もう睡魔には逆らえないぞ、しかしだ……)

 欠伸をしながら俺は悩んでしまう、このまま牢屋に止まっていて良いのかと。

 (このままだと俺はペットショップに売られたり、保健所へ送られたりとか何かの餌にされるかも知れないな)ただの子犬である俺は身の危険を感じずにはいられかった。

 (どうしよう……)

 慌てたのか兵士達は鍵を掛けた様子がなかったので、もしやと思いながら牢屋の扉へ近付きつつ鼻先で押してみたら、ギィーーと金属音を立てながら開いて行く。そして俺はここから逃げようと決めるのだが、まだ問題はある。

 (アネラスはどこに行ったんだ?)俺の可愛い美少女パートナー。1度組んだら解消するのが大変らしいので、俺は何としても彼女を捜し出さなければならないのだ。

 (犬なら嗅覚で探せるのかな? そんなスキルがあったような……)

 試してみようと彼女が寝ていたベッドに近付いた俺は、フンフンと少女の匂いを嗅いでみる。ちょっと汗臭いが女の子の匂いがして、少しすると視界の端に『この匂いを追跡しますか? YES/NO』と選択肢が現れた。

 こうやって話すのとか転生システム等を、全て纏めて【勇者システム】と言う。勿論だが俺は『YES』ボタンを前足で押し、そうしたら匂いが紫色で視覚化されてアネラスが走って行った方向へ流れ始める。

 (この匂いを追って行けばアネラスの所へ行ける訳だな)

 俺が居るのはコンクリート壁に囲まれた地下1階で、見回りの兵士が来ないことを祈りつつ進んだ俺は階段の前までやって来る。

 コンクリートの階段が上下にあって、俺が追ってきたアネラスの匂いは地上へ続く階段ではなく、地下2階へ下りる階段の方と続いている。(上には兵士が居るから下へ行くんだろうが、アネラスはどこから逃げるつもりなんだ……)

 匂いの流れに従って2階に降りた俺が更に進もうとすると、前方からこちらの方へと歩いて来る兵士を見つけてしまう。

 (どうしたものか……)

 天井の蛍光灯は光が弱くて、廊下の先にいる兵士はまだ俺に気付いていない。犬は夜目が効くので遠くから見えたのだが、このままでは捕まってまた鉄籠に入れらてしまう。どうしようかと考えて俺はあのスキルを発動させた。

「ワンワン」(肉球発動)

 スキルはスキル覧からだけでなく、このように音声認識でも使える。壁やモンスターに張り付けるという事はこうペタッとな……

 右前足で石壁へ触れると引っ付いて離れなくなった。(これは良いスキルだ)次は左前足だとペタッとくっ付けて二足立ちになった俺は、床を歩くように右後ろ足、左後ろ足も続けて壁を登ると天井で上下逆さまになる。

「他の奴らがアネラスに続いて脱走を考えないように、暫く警備を強化する。気を抜くんじゃないぞお前達……」

 歩いて来た兵士達が階段に消えるのを、天上から見送った俺は【肉球スキル】を解除して天井から床に落ちる。そしてもう兵士が来ませんようにと願いつつ、地下2階に並んだ牢屋の前を、囚人達に怪しまれながらトコトコと歩いて行く。

 それから地下3階へと続く階段を見つけて更に下りるのだが、一番下まで来た俺は困った事態に遭遇してしまった。目前の鉄扉が閉まっていて先に進めないけど、どうやって開けたのかアネラスに繋がる紫の煙は、扉の奥へと流れて行っているのだ。

 じーーと下から扉を見上げて立ち往生している俺。

 (人間用の扉ってこんなに大きかったんだなぁ……)等と、感慨に耽っている場合ではない。扉に鍵が付いてるし、子犬の力ではどうにもならない問題であり、(誰か来てくれないかなぁ)と暫く待っていたらギィーと向こう側から扉が開きだす。

「減俸になるのかなぁ俺達、どうやって上に報告しよう……」

 落ち込んでこう呟きながら扉を開けた兵士を、肉球スキルを発動させた俺は天井から眺めている。アネラスの捜索部隊らしい兵士が扉から少し出ると、扉が閉められる前に俺は兵士の後ろに降りてその中に入って行く。


 扉の先は部屋でも通路でもなく水路だった。

 奥には上で枝分かれした所から、勢いよく流れ落ちてくる滝がある。壁際に空いた穴から汚水が流れ出ており、どうやらここは下水道になるらしい。扉の側には何故か棺桶も積んであって、とにかく進もうとコンクリートの道を歩き出した。

アネラスの匂いを追いながら水路に沿って進むと、また扉がある。下水路を分断するように作った鉄柵に鍵付きの扉があるけど、どうしたものか?

 誰かが開けてくれるのを待とうかと思ったが、他にも道がありそうなので俺は下水路の端へと近寄って覗き込む。側道にある鉄柵は間隔が狭いので抜けられないが、水路の方は若干広めなので子犬の体なら隙間から抜けられそうなのだ。

 【しかし下水である、そう下水なのである、しかも水量が多い。】

 端から覗き込んだ水路は深そうだ(子犬的に)、流れもそこそこあって泳ぐのは大変そうな気がする。こんな所で溺れ死んだら神様に笑われそうだぞ、(犬の姿で泳ぐのは始めてだけど、ええいままよ!)と、俺は下水路へドボンと飛び込んだ。

 (やっぱり流される! 誰か助けてくれーーーーーー)

 犬掻きで抵抗するも無駄な努力。水流で押しつけられた鉄棒の柵は楽に抜けられたのだが、そこから先は溺れるような格好でガボガボと足掻きつつ流されて行く。

 抵抗を止めると顔が沈む、ゲホゲホキャンキャンと流されていたら、水路が曲がって方向が変わる所が先に見えて来た。(ここしかない!)

「ワンワン」(肉球発動)と俺はスキルを発動させる。

 曲がる所で壁に当たるように頑張って泳いだ俺は、壁に体が接触すると同時に肉球をそこへ貼り付けてピンチから脱出。水路の壁をよじ登って側道に上がった俺は、全身をブルブル振って体から水を飛ばしつつ一息ついた。

 (体が臭くて鼻が曲がりそうだ……)犬の嗅覚を少し恨み、こんな体にしてくれた神様に怒ったりしつつ、この場で少し休憩をする事にした。

 ――――暫くして。

 休憩を終えて側道をテクテクと進んで行く俺は、道標である紫の煙が何だかぼやけてきたように感じて来ている。アネラスの匂いは下水道を奥へと進んで行くが、複数の臭いが混ざり合ったり時間が経過したりすると、【嗅覚・弱】では能力不足になるようだ。

 頼りない匂いを追って俺は側道を進むが辺りは薄暗い。天上の蛍光灯は数が少なくて所々切れてたりするから、何かの明かりが無いと危なくて人は先に進めないだろう。しかし犬は目にあるタンデム層のおかげで夜目が利くから問題はない。

 ひと1人がやっと通れる程に狭い道を、下水路へ落ちないように気を付けながら俺は歩いて行く。どこまで流れて行くのか下水道は結構長いようで、暫く進むと別の場所から流れてきたのと合流して、更に勢いを増しながら下水は流れて行った。

 下水にこれだけ使えるのだから飲料水はもっとある、水が豊かなのはいい事だと思うがこの臭いは堪らない。(量が増えるんだから我慢するしかないよな)

 (手頃な所で外に出てくれればいいのに……)、アネラスの匂いは支流ではなく本流の方を選んで進むから俺はかなりの距離を歩かされる。彼女はどうやらこのまま城塞都市の外へと出て行くつもりのようだ。

「アネラスは見つかったかーーーーーー」

「こっちには居ませんーーーーーー」

 ときどき下水道内で反響する兵士達の声を聴きながら俺は進む。この入り組んだ下水路から泥棒を探し出すのは至難の業だろう。肉球で天井に張り付いたりして兵士達をやり過ごしながら、長々と進んだ俺は漸く下水路の出口までやって来た。


 【こことても凄い所、色んな意味で。】(下水処理場は無いのかよ!)

 【魔法科学力は高いのになぜ作らないんだ!!!!】と俺は叫びたくなった。

 辺りに漂う匂いは子犬の嗅覚を殺しに来るレベル。(こんな所にいたら病気になるーーーーー)と駆け出した俺は、大急ぎで近くの土手を登ると道路に出る。

 兵士に捕まってから結構寝て、逃げたアネラスを長い時間追ったのだから、この世界に来た時は昼だった空には月が昇っていた。月がある外は下水路より明るい位で明るいが故に土手から見下ろす風景は、この世のものとは思えない絶景である。

 (あれは地面かな? それとも黒いあれなのかな?)

 想像できる? しない方がいいかも知れない。

 【土手から見えるのは大河でその河原一帯には、何十年分ものあれとかが広がっている様に見えるのだ。雄大な大河と、満月に照らされて白く輝く人生が凝縮された大地とのコラボレーション、俺はこの風景を一生忘れる事は無いだろう。】

 (最悪だーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)、うん。

 そしてその河原には何かウネウネする液体の塊が這いずり回っている。

 最初はあれが何だか分からなかったが、(若しかしてスライムか?)と思った瞬間にここがどうなっているのか大体理解できた。人間は細菌と機械を使って処理するが、こっちは魔法らしくスライムで処理をしているのだろう。

 (量が多くて処理が追い付いていないようだが、見えない振りをしておくか)

「なぁアネラスは見つかると思うか?」

「脱走してから結構経ってるらしいし、もう無理だろ」

 俺の人生観を変えそうな絶景を眺めていると、誰かが近づいて来たので慌てて近くの草原に飛び込むと身を伏せた。

 土手の上に明かりが2つ、ユラユラと揺らしながら進んで来る。手に持った懐中電灯で下水の出口付近や河原を照らしているのは、アネラスの捜索に来た兵士達で剣と銃が両立するのは魔法が使える世界らしい装備品。

「早く都市に帰りたいよなぁ」

「全くだ、こんな所に長く居たら病気になるぞ」

「アネラスは城塞の回りにあるスラム街へ逃げたと思うな、探しようなんて無いだろ」

「だよな、早く捜索を諦めて解散して欲しいもんだ」

 (城塞の回りにあるスラム街かそこへ行ってみよう)

 ステータス画面でオプション設定を、変更した俺は日付と方位磁石を視界の隅に表示させてある。下水路の本流は都市から南西方向へ直進していたので、兵士達の後ろに伏せて話を聞いていた俺は立ち上がると、城塞がある北東に向かって歩きめた。

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