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大怪獣物語  作者: 黒犬
12/14

12

         ※12

 話が終わった後の4月8日はみんな爆睡して、翌日の4月9日。

 並んで歩く2人を下から見上げる景色に少し興奮しつつ……

「ウキキウキィ」(俺達はいい友達になれそうだな)「ワンワンワンワン」(2人で彼女達を守って行こうじゃないか)とか話ながら、俺達はまた∞の塔へとやって来た。

「そっちじゃありませんよアネラスさん」

 シャッターの奥にいる受付ロボットへ会いに行こうとすると、フィリアは受付所の隣に置かれた高さ1m程ある石柱へ俺達を誘導する。

「なんかボタンが沢山付いてるけど、これって何?」

「試練の祠へ通じるワープゲートを開く為の装置です。まずですね……」

 20万リムはフィリアに借りたのでまた借金が増えてしまう。その金で受付ロボットから2人分のチケット買った俺達は、石柱に空いたスリットへ投入した。

「ボタンが光りだしたら、どの職業・クラスになりたいかを選択して、それからGOボタンを押すとワープゲートが開くんです」

「私は……」

 アネラスは泥棒から盗賊・商人の2通りがあって、盗賊ボタンを選択する。

「言い忘れていましたが属性ボタンも押して下さいね」

 《魔法には》

 《火、氷、水、雷、土、風:通常魔法

 鉱石、毒、音、光、闇など:クラスチェンジ後に使える固有魔法

 特殊な形で習得する時間系、空間系等など。

 と沢山の種類があるのだが、このうち通常魔法はクラスチェンジの際に、ボタンを押して好きな物を選ばしてくれるそうだ。》

「それは考えてなかったわ」

「言い忘れてて御免なさい。選ばなかった属性以外の魔法は使えなくなりますよ」

「私は風属性を選ぶしかないわね、ポチはどうするの?」

「合体魔法も計算して下さいね。因みに……」

 魔法族のウッキーは炎・土・音の3系統、フィリアは光と水、アネラスは風属性。

 『使える属性は多い方がいいんだよな?』

 エアボードから打ち込んで聞いてみると、みんなそうだと言う。となると選べるのは雷か氷系になる訳だが……

「先にクラスを選んだ方がいいですよ」

 (そうだよな、うん。機械、ゴースト、植物、スライム……)

「私達の事は気にしなくていいから、好きなのを選びなさいポチ」

「ポチさんの気持ちが大事です」

 石柱の高さまで抱え上げてくれたアネラスとか、フィリアをチラチラと伺うと2人はこう言ってくれるのだが、(そうじゃない、そうじゃないんだ)。

 4種類のボタンの上を前足が迷って押せずにいると、「ウキキウキッ」(俺は泣く泣く魔法族を選んだが、分かるぜその気持ち)と理解してくれる人がいる。

 (どんな能力なのか事前に調べればよかったなぁ。男ロマン、男の夢、〇×ゲーム大好き人間としてはこう……どうしよう? ええいままよ!)ポチッとな。

 悩みに悩んだ末に俺は直感に従って機械系と氷属性を選択した。

「雷属性じゃなくていいのポチ?」「機械族なら雷の方がいいと思いますが」

 『凍るシャープな機械系って恰好いいと思わないか?』

「うーんどうなんだろ」

「ワープゲートが開きますよ、ほらっ」

 全てのボタンを選択して終わりにGOボタンを押すと、近くの空間がグニャリと歪んで暫くすると渦を巻き始める。(半透明なグルグルは何だか危ない気がするけど……)

「大丈夫なのこれ?」

「私達も依然使いましたから大丈夫ですよ。不安なら私が先に行きますね」

 アネラスがそう聞くと、小さく笑って小猿を抱え上げたフィリアは、迷うことなく渦に入って別の世界へと消えて行った。

「おいでポチ。本当に大丈夫なんでしょうねこれ」

 フィリアに続いて俺を抱き上げたアネラスは不安そうにするも、悩んでてもしようがないと勢いをつけてワープゲートに飛び込んで行く。


 ――――何か特殊な演出を期待したりしたが、潜り抜けるのは一瞬で終わる。

「ほら大丈夫だったでしょう、試練の祠へようこそお二人さん」

 ゲートを抜けた先で流れる風に金髪をなびかせつつ、微笑んだフィリアが手で指し示すのは石を積んで造られた広場。俺達はその入り口に出てきたようで、前方には旧世代のような円形闘技場が広がっていた。

「あそこにいるのは誰かしら?」

「試練の監督官ですよ」

 アネラスが見つめる人は全身をフード付きローブで覆っていて、闘技場の中心で黒い箱のような物に意識を集中させている。(あの箱はどこかで見た事があるような)

「あれがポチさん達が此れから戦うモンスターです。あらどうして……」

 中心部にいる誰かの奥には太い鋼鉄の柱を使った檻がある、フィリアはその中にモンスターがいるような話しぶりだが何故だか檻の中は空っぽだった。

「遊んでるんじゃないのあの監督官?」

「そうみたいですね」

 闘技場の中央付近にござが敷かれていて、その上にはちゃぶ台とか酒瓶につまみが載せられた皿が載っている。(思い出したぞあれはブラウン管TVだ、懐かしいなぁ)

「抗議した方がいいわよね」

「そうしましょうか」

 監督官がブラウン管TVで何を見ているのか知らないが、彼?(たぶん男)は俺達に気付くようすが無いので、小動物を抱えている女性2人は脅かしてやろうと、足音を忍ばせながら静かに近づいて行く。

「……何を見てるの彼方?」

「楽しそうですねぇ」

「良い所だから邪魔すんな」しっしっし

 (仕事しろよおっさん)全身を黒いローブで覆っているので分からないが、手を振って俺達を追い払おうとする人は、声と体格から30~40代だと予測される。

「こう言うのが好きなんですか?」

 笑いたいが笑ってはいけない苦しい状況、俺とウッキーは必死に耐えているがアネラスとフィリアの今にも怒り出しそうだ。

「暇そうだけど仕事はどうしたの?」

「ミーティアはエインヘリアルが減って誰も来なくなってさぁ、こうやって時間を潰してないと暇で暇でしょうがないんだよ」

 男が見てるのはVHSで再生される、1〇禁ビデオ。(ここには18歳以下がいないので大丈夫……、あっ大丈夫じゃないぞぉーーーーーー)

 あーんな声やこーーんな声、艶やかなのやら卑猥なのが周囲にだだ漏れで、男の側に立って注視する女達の顔はみるみる赤くなっていった。

「これの何が面白いわけ?」

「1996年に地球で販売された名作なんだ。美人だろ彼女は」

「ふーん、そうなんですか……」

 元の世界に戻れたらこのAVを探して見るとして、彼女達は興味があらしい。

 (みんな好きなんだなぁ)なぜか男の両隣に並んで座る女性達、その手はちゃぶ台に載せられたおつまみに伸びたりしていったりして……

「うわぁ大きい」

「地球ってどこにあるんですか?」

「なんだ知らないのかお前ら、って! わーーーーーーーーーーーーーー」

 ローブ男はフードと巻いた布で顔を隠している。振り返って俺達を見た男の驚きようは他になく、飛び上がった彼はちゃぶ台をひっくり返しながら、

「ここには何もない! いいかお前ら、何もないんだからな!」とか騒ぎつつ、TVの前に立つと映像を体で隠していった。

「ちょっとどいてよ!」

「見えないじゃないですか!」

「何も無いったら何もない、何もないんだーーーーーーーーーーーーーーーー」

 詰め寄ってどかそうとする女性陣へ、「何もない」々と繰り返しながら抵抗する男。

「女が見る物じゃないし子供には早すぎる! 向こうに行けーーーーーー」

 女性達に放り出された動物2匹は揉めている3人を、少し離れ場所から眺めていた。痒くなったので後ろ足で耳の裏を搔きつつ、両腕を持たれてTVから引き離されようとする監督官を、俺達は可愛そうな子を見る目でじーーーと観察し続ける。

「そこの犬と猿! エインヘリアルなら状況は分かる筈だぞ……」

 フードを被った監督官はどうやら助けて欲しいらしい。しょうがないなぁと顔を向け合ってうなづいた俺達は、アネラスとフィリアの排除を開始した。

「離して下さい!」

「いい所なのに邪魔しないでよ!」

 俺は「ワンワンワンワン」と吠えまくり、溶岩おさるに変身したウッキーはその剛腕で2人の腕を捕まえると、監督官と協力し合いながら抵抗する女性達を、ワープゲートから元の世界へ連れ出して行く。

「なんなのよもーーーーーーーーーーーー」

「準備が出来たらもう一度ワープゲートを開く、それまで大人しく待つんだぞお前ら」

 そう言い残した監督官がゲートに入ると閉まってしまい、「いい物が見れましたねアネラスさん」とか「ああいうのって儲かるの?」ウフフフ等と、監督官の準備が整うまで2人の女性は卑わいな話を続けるのであった。


「随分かかりますねぇ」

「いつまで待たせるつもりよ」

 ワープゲートを開ける石柱には『清掃中』の文字が光っている。まだ掃除に時間が掛かりそうなので俺は、一度いま持っている能力を整理しておこうと思う。

 《まず俺から名前ポチ、LV15、EP:4000 その他諸々は殆ど同じ》

 新しいスキルを覚えたいが神様に捧げる貢物や金がない。

 《次はアネラス、LV18、EP6100、

        種族:キャットピープル 職業:泥棒 魔力適正:B±0%

      得意属性:風 吸収属性:無し 弱点属性:無し

     Eシールド:弱(削減補正±0)、耐性無し

 Eシールド魔法耐性:無し

 Eシールド貫通耐性:C(防げない)

 Eシールド近接耐性:C(防げない)

     ピッキング:マスター

        スリ:上級

      ランナー:宇宙大会の上位クラス(何だか足が速くなった気がするわ)

 魔法・攻撃スキル: ライトボール、ウィンドステップ、ウィンドカッター、ウィンドブレード、ウィンドクロスブレード。》

  とこんな感じで、フィリアやウッキーはボス戦に関係ないからまたにする。

「あっワープゲートが開きましたよ」

 何をもたついたのか1時間ぐらい待たれて漸く、グルグルと渦を巻く歪んだ空間が発生すると俺達はその中へ入って行った。

 ワープゲートを抜けた先にあるのは円形闘技場で、中央に広場があってその周りを石を積んで造った観客席が取り囲んでいる。中央に置かれていたブラウン管TVとちゃぶ台は撤去されていて、その代わりに監督官らしい人が2人立っていた。

 俺達を遠目に見つけた監督官達は、手招きをするのでそっちの方へ歩いて行く。

「お前たちはクラスチェンジの試験を受けにきたんだな?」

「その通りよ」

「ワンワンワン」

「子犬の名前はポチ、猫耳の少女はゲオ・アネラスで会っているな?」

「ねぇ、どうしていつもいつも……」

「大体の事はSペンダントを通して筒抜けだし、それが無くても神は全てを見通しておられる。考えても無駄な事は考えない、分かったな?」

「分かったわ」

「ではこれにサインをしてくれ」

 黒いローブの内側から書類を取り出した監督官は、万年筆と朱肉を俺達に渡して来るのでサインしたり、手形をポンッと書類に押したりする。

「これで登録完了だ」

「それ口止め料よね?」

「これが欲しいか?」

「欲しいわ」

 2人いる監督官のうち1人は60歳以上と年配な感じで、もう一方の革袋を持っているのは最初にAVを見ていた男だと思われる。

「彼は減給された上に左遷されるんだ……」

「ご愁傷様ね」

 男から渡された革袋には60万リムが入っており、若い方からこれを貰って4等分した俺達は誓約書を書かされて、あの件は口外しませんと約束させられた。

「さて話が終わった所で……」

「頑張って下さいねポチさん、アネラスさん」

「ウッキッキーー」(頑張れよーーー)

 俺とアネラスを除いた4人は闘技場を囲んでいる観客席へ向かい、残った俺達は広場の中央で奥にある鉄の檻が開くのを待つ。(あんな大きなモンスターとか無理ーーー、ごめんなさいぃぃぃーーーー)って逃げ出したい気分だけど、アネラスが側にいるし格好が悪いので俺は震える体を抑えつけてどうにか我慢する。

「準備はいいな始めるぞ!」

 クラスチェンジ用のボスはエインヘリアルとパートナー、二人一組で戦うように設定されている。檻から出て来て「グワォーーーーーー」と、闘技場全体を振るわせるように大声で吠えたのは、全高4m位ある巨大騎士だった。

「そいつはウルツナイトだ、宝石のように見えるがダイヤより硬いんだぞ」

「どうやって戦おうかポチ?」

「ワンワンワンワン」

「聞いた私がバカだったわ、私が指示を出すからポチは黙って従いなさい」

「ワンワンワン」(分かった指示に従う)

 塗装してない宝石のフルアーマー、騎士冑についた目は単眼で赤い光を放ち、着ている鎧は戦車の装甲みたいに分厚い。彼奴はいったい何tあるのか? ズシンズシンと鎧騎士が歩くたびに地面が少し震えて気味が悪かった。

「私がスピードで掻き回すからポチは……」

 下を見きながら話す赤髪で猫耳なツンテール少女は何も言ってくれない。

「ワンワンワン!」

 ボスが段々近づいて来るから大声で促すと、「何も思い浮かばないわポチ、私一人で戦うから彼方は適当に遊んでなさい」とか答えてきた。

 (そんなのひどいーーーーーーーーーーー、反論できないけど)

 じゃあ後は宜しくーーーって訳にもいかないよな?(困ったもんだ)

 動きの邪魔になるローブを4次元BOXに仕舞った、革の軽鎧セットを着ているアネラスはは腰の左右から武器を抜く。そしてウィンドブレードを発動させた彼女は、小さな竜巻のような魔法を短剣に宿すと敵に切り込んで行った。


「ウキキキィーー」(根性だせポチーーーーーー)

「立ち止まらずに動くんですポチさん!」

(動けって言われてもなぁ)闘技場の中央でお座りをしている子犬、その俺の前ではブォンブォンと等身大で幅広のブレードが、アネラス目掛けて振り回されている。

「そんなのが私に当たる訳無いでしょ!」

 垂直切りを僅かに身体をずらして避け、横に変化したらジャンプ回避、身軽な猫人間はヒョイヒョイと簡単そうに、大ぶりな攻撃を躱してはお返しにと魔法剣で斬りつけた。このままアネラスに任せていたいけど、そう簡単には勝たせてくれる相手ではない。

「こいつ硬すぎーーーーーーーー」

 ウルツナイトは機械仕掛のカラクリ人形で、鈍器と呼べそうな重量感のある武器を棒を振るようにブンブンと軽々振り回す。こいつの全身を覆った重鎧は赤くキラキラした宝石で造られており、ひと欠片でいいから持って帰れかなと俺は思ったりした。

「ダイヤでも切れるのにどうしてよ!」

 魔力は物質に対して一方的に勝つんだとX教官は話していた、鋼の盾でも魔力を込めれば包丁でスパスパ切れるんだって。だがアネラスのウィンドブレードは、手足のどこに切りつけても尽く弾かれてボスには傷一つつかない。

 あの装甲はただの宝石に見えるが、キラキラ光るので魔力が込めてあるのだろう。

「これならどう!」(おーー凄いぞアネラス!)

 ブォンと振られた横なぎを前転で躱したアネラスは、ウルツナイトの足元へ転がり出ると瞬時に立ち上がって二刀流を構え直す。そして

「ウィンドクロスブレード!」

 EP:830を消費しながらアネラスは必殺技を放つのだった。風の刃で瞬時に切り裂かれる十字の中心付近には、とてつもない切れ味が発生していると予測されるが、ウルツナイトの宝石鎧を僅かに削っただけに終わってしまう。

「そんな、これでもだめなの……」

「彼女はよく頑張るけどあの程度じゃなぁ」

 止めてしまった思考と少女の体、アネラスは眼が泳いで次の行動を決められない。

「止まったらダメですアネラスさん!」

 観客席のフィリアから警報が上がるとアネラスは正気に戻り、そのチャンスを逃すまいとウルツナイトは大剣を横に振り回してきた。

「ファイヤースピンブレード」

 それは機械だからできる器用な芸当で、腰関節を無視して右腕を武器ごと後ろに大きく引いたウルツナイトは大剣に炎を宿すと、引き絞った弓を解き放つように一気に高速回転させてくる。

 足元にいるアネラスを狙って剣先を下げた低位置での回転攻撃。アネラスの回避行動は間に合わずEPシールドと2つの短剣で受け止めるも、「キャーーーー」と悲鳴を上げながら吹き飛ばされてしまった。

「ううう……」

 恐るべしウルツナイトの怪力、斬られこそしなかったものの地面を弾んで転がったアネラスは、意識が朦朧として上手く立ち上がれずにいる。

 俺はなぜ冷静なのかと言うと、中心部から動かずに戦いを観戦しているからだ。

「あの2人はウルツナイトに勝てると思うか?」

「無理だろうな」

 なんか観客席から小馬鹿した視線を感じる俺、ウッキーとフィリアに至っては視線に置いてさえくれず、ヒシヒシと伝わる無言の圧力を感じずにはいられない。

 俺は【ただの子犬】だよ、こんなに小さい体で何が出来るって言うんだ。

「危ない! 逃げて下さいアネラスさん」

 頭を振りつつ蹌踉めきながら立とうするアネラスを、光りだしたウルツナイトの単眼が狙っている。(レーザー光線でも撃つつもりかな?)

 LV18のEP1万2000、ここから1500のEPを消費して撃ちそうな何らかの魔法攻撃。アネラスはまだ意識が定まらないのか対応しようとせず、ウルツナイトはチャージを終えると「ハイレーザー」を発射した。

 直径30㎝はありそうな太い光の束、(このままではアネラスが死んでしまう!)

 何かしなければと俺は悩みあれを思いついて、同時に嫌だなぁと気分が沈む。

「ワンワンワン」(TPS!)

 そうチェンジプレーヤーシステムだ、始めて使うパートナーとの位置交換。俺の体が瞬時に消えて美少女と入れ替われる【これぞヒーロー道!】(うぉぉぉぉぉぉ)とか覚悟をして飛び込んだ俺だが、ハイレーザーはバヒューンと頭上を通り過ぎて行った。

 (身体が小さくて良かったぁ。さて……)

「ポチさん頑張ってーーー」とか、金髪美女に声援を貰っても嬉しくないこの状況。

 ウルツナイトの赤い単眼はじっと俺を見据えている。巨大な機械騎士を前にする俺の体は勝手に震えだし、(どうしよう……)って固まっていると、「以外に勇気あるな見直したぞポチ」とか「此れが目的だったのか?」などと勝手な感想が聞こえて来た。

 しばらく悩んで大剣を振り上げたウルツナイト、右手は振り上げているが左手は俺を捕まえたいのか下に垂らした変な構えをしている。ドスンドスンと地面を揺らしながら迫りくる試験用のボスに対して俺が取るべき行動とは!

「ワンワワンワンワン」(捕まえられるものなら捕まえてみろーーーー)

「前言撤回だ」

 どうだ! 俺は可愛いだろう、走っている柴犬の子供は愛らしい筈だぞ。地面をチョロチョロと走り出した俺をウルツナイトが追って来る、子犬の足でもこいつなら振り切れると思ったがやっぱり無理だった。

 直ぐに追い付かれてズドンッ(ひぃっ)。間一髪で攻撃を避けた俺は、鉄塊に叩き潰されずに済んだがこのままではどうにもならん。(うぅこうなったら、やけくそだぁーー)

 (俺は死を恐れないエインリアル様だぞ、既に4回も殺されたし5回目がどうしたって言うんだよーーー)クイックターンして急接近すると予測していなかったのか、対応の遅れたウルツナイトの足元へ俺は来れてしまう。

 子犬に出来るのはこれだけ、対応して動き始めた赤い宝石を纏っている大足へ、炎属性のミニブレスをズゴォーーーーーーっと吐くこと。

「なにやってんだ彼奴?」

「アホだな」

「もぉーーーーーーそうじゃないでしょポチさん! えーーーと」

「ウキキキッ!」(もう一度TPSだポチ!)

 やってもいいがそれ所ではない

「ワンワンワンワン」(誰か助けてくれーーー)

 片足を上げて踏み潰そうとしたり、地面を掬うように手を伸ばして来たりする、敵の攻撃から逃げ回るので俺は精一杯なのだ。(どうしよう、どこに逃げればいいって! あーーーーーーーーーー閃いたぞ俺)


「ワンワンワン」(肉球発動! そうだこれがあったんだ)

 上げた片足をよーく見ながら直前で躱して、踏みつけて来たらピタッとそれに張り付いてウルツナイトの体を登り始める。動き回る4mの巨体を登るのは大変だったが首筋近くまで登った俺は、半球状をした透明なガラス玉みたいな物の前までやって来た。

 レベルが低い人は直接倒せる力がないので、試験用のボスには普通のと違って弱点コアが設定されているとか監督官は話していたけど、多分これがそうなのだろう。

「それを壊すのよポチ!」と、アネラスは簡単そうに言うがどうしよう?

 (炎では燃えないだろうし此れしかないよな……)

 俺はオーディナル様に感謝する。普通の歯でやると折れるが、鋼の牙を装備しているので硬そうな弱点をガリガリ齧っても大丈夫な筈だ。(よーしやるぞーーーーーー)

「叩かれるわよポチ! Eシールドを張って」

 地面に対して粗90度(酔いそう)に大鎧へ張り付いている、俺を攻撃しようと後ろに回したウルツナイトの手が迫ってくる。言われた通りにEシールドを展開すると、スライムを押しのけた時の様にそれも弾けるが、相手もEシールドを使ってきた。

 目前でバチバチと押し合う二つのEシールド、敵とシールドを削り合うと急激に俺のEPが減るから押し負けるかと思うもそうはならない。

「EPCよポチ。ボーっとしてないで早く齧りなさい」(そんなのあったな)

 エインヘリアルにTPSがあるように、パートナーにはEPコンバーター(EPC)システムがあり、膝をついて祈ると自分のEPをエインヘリアルに送れるのだ。

 【ウルツナイトEP:9000位 VS 俺のEP:3000強】

 俺のEPにアネラスの分を足しても負けそうな感じだが、パートナーはただ祈るだけではない。アネラスが4次元BOXから取り出すのはEPパンで、半透明で薄緑色にぼんやりと光る拳半分ほどの、グミみたいなそれをアネラスは口に入れて咀嚼し始めた。

 アネラスがもぐもぐやると彼女のEPは回復していき、1個で1000程のEPが回復するのだが、沢山食べると中毒死する恐ろしいパンでもある。

 地面に膝をついて祈るアネラスが居るのは、俺と同じく敵の背面側。必死にモンスターのコアを齧っている俺の上で、ウルツナイトの兜が回転して後ろを向くとハイレーザーのチャージを開始した。

 (アネラスはやらせないぞーーーーーー)てな感じで俺は、動けない彼女を守るために齧るペースを上げて行き、頑張って頑張って弱点コアの3分の1位を齧った所で、ようやく敵の動きが止まってくれる。

「やったわポチ!」

 ウルツナイトの単眼から光が消えると、巨大な騎士は膝を折って地面にへたり込みそのまま機能停止。(ようやく異世界転生らしい戦いが出来たーーーー)って、尻尾を振りつつ機械騎士の背中から降りたら、駆け寄ったアネラスが抱き上げてくれた。

「よく頑張ったわね偉い偉い」

 頭を撫でられたり(中年だけど)、皆に褒めて貰いながら喜びあい合って、終わりに監督官から試練の祠をクリアした証である、【クラス1キー】を首に巻いている金のチェーンに取り付けて貰った。

 銅色をしたこの鍵があると新クラスが使えるようになる。此れはアネラスも同じであり試験が終わって意気揚々と、闘技場から出た俺達は地下の訓練施設に戻ったら、盛大にパーティを開いて夜遅くまで騒ぎ通すのだった。

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