試合開始は突然に
それは授業も終わりかけほぼ全員が魔物召喚をし終えたのではないだろうか。というときに起こった。
「それでは皆召喚が終わったようなので次の行程にー」
エミルの声を遮るようにある方向からどよめきが起こった。
「え、本当に?」
「すごーい!」
なんて興奮混じりの声が聞こえてくる。
僕がちらりとそちらを見やると
騒ぎの中心でロングカールの赤髪がくるんとはねるのが見えた。
彼女はアリア=マクミール。
有名貴族の一人娘で甘やかされて育ったのだろう、プライドが高くいつも周りを蔑んで見る鼻につく女なのだ。
彼女とは過去に一悶着あったのだが…まあ、それは今はおいておくこととしよう。
深い紅色の瞳がこちらを向く。
彼女はさぞ自慢気にこちらに近づいてくると、今召喚したのであろうそれを見せびらかすように胸を張ってみせた。
「わたくし、白烏を召喚しましたの!」
僕は内心「うげ…」と悪態をつきながら表情には出さず張り付けた笑顔で
「それはすごいね。リュカと同じだ。」
と言った。
その言葉が彼女の虫の居所を悪くしたのだろう。
気付いたときにはアリアは顔を真っ赤にして校庭隅の木陰で居眠りをしていたリュカを睨みつけそちらへと向かってしまっていた。
「あんな低俗で、野蛮な方の鳥と一緒にしないでくださいますか?!わたくしの召喚した白烏の方が魔力量もなにもかも上ですわ!!!」
すごい怒気でリュカに近づいてゆく彼女に周りが再びざわつき出す。
「アリアちゃんどうしたの?」
「ほら、この前ノアに振られたから…リュカと仲良くしてるのが気に入らないんでしょ。」
「え?!あの噂、本当だったの?」
ああ、またか…と頭を抱えつつ彼女たちの方へ駆け寄ると再びアリアが声を荒げた。
「マクドネルさん!!わたくしの召喚獣と貴方の召喚獣の格の違いをお見せして差し上げますわ!!!今すぐわたくしとルータしていただけますか?!」
「なっ…ルータ?!いきなりそれは、…まず召喚獣との絆を作ってからでないとー」
僕の忠告に興奮しきった彼女は食い気味に「ハワードさんは黙っていてください!!」と声を上げた。
耳にくる甲高い声にリュカはあくびをしながら起き上がった。
「ふわぁ…なに…?ルータ…?お嬢様と?わたしが?」
大きく伸びをしながらリュカはそう言い鼻で笑った。
悪意はなくただ本当に無意識にしていたのだろうが、
リュカ…こういうことするから敵を作るんだよ…
と僕は小さくため息をついた。
と、ほぼ同時。
パンパンー
と誰かの手を打つ音が聞こえてきた。
「はーい、そこまで。話は聞かせてもらったよ。ルータ、するんだよね?」
そう言いエミルは模擬実践場を指した。
なんだか一瞬いやな予感がした。
「じゃあ。これから、しよう。ルータ。」
僕の予感は当たりやすい。