魔法学院
「あれ…リュカ、母さんは?」
着替えを済ませ、リビングへと降りた僕は先に朝食の準備に向かった彼女にそう問いかけた。
「今日の授業の準備だって。ほら、今日は一般生徒には運命が決まる大事な日だから。まあ、最も?誰かさんには関係ないですけど。」
そう悪態つく彼女はリュカ=アダムス。
家が隣同士で両親同士の仲が良かったこともあり僕とは小さい頃からの幼なじみでー…まあ、所謂腐れ縁というやつだ。
「あぁ…そういえば、そっか…もうそんな時期なんだな。」
僕が少し考えるように椅子へ腰掛けると頭上から『かかかっ』と低い笑い声がする。
『リュカも人のことは言えんぞ。なあ、ノア?』
声に似合わずポンッと可愛らしい音を立て雪のように真っ白なそれは今まで確た空間から突如として現れた。
「おはよう、リアム。今日は早いんだな。」
リアムと呼ばれたそれは自身の羽を整えつつこちらに目をやるとまた『かかっ』と笑った。
『我も少なからず楽しみにしておるということ。どんな同胞達が出て来るるか、楽しみじゃわい。』
彼はそう言うとバサッと翼を広げ僕達の上を旋回するように羽ばたいた。
「はははっ。本当に今日は朝なのにご機嫌だな。」
そう言いながら僕は近くにあるパンとジャムに人差し指を立てる。
すると焼きたてだったパンがひとりでにふわふわと浮き上がり服を着るかのように真っ赤なジャムを塗りたくりこちらに向かってくる。
“魔法”とはこの世に広く一般的に使われているもので、早くて幼少期からその勉強を始める。
子供は13歳の誕生日を迎えると魔物と契約を交わし安定しない魔力の補助や生活、仕事の手伝いをしてもらう。
魔物の種類は様々で一番階級の高いアデツ(猫)、それに次ぐカサハ(烏)、ハルマ(蛇)に始まり下はネズミやカエル等がある。
従えられる魔物の種類は契約者の魔力量によって変わり、自分の魔力量を超える魔物を呼び出すと最悪“喰われる”場合がある。
まあ、そんなことめったにありはしないのだが、命の危険を冒してまで魔物を契約する代わりといってはなんだが、契約者は魔物の種類・魔力量により階級を付けられ区分される。
階級・魔物の種類ごとに将来なれる職業や進学できる学校も決まっていて…この契約で人生が決まると言っても過言ではないのだ。
本当なら、僕や、リュカも、ー
「ーア、ノア!」
リュカの声にハッと我に返る。
「もー、またぼーっとして。ほら、食べないと。遅刻するよ?」
気付けば時計は通常登校の3分前を指していた。
「うわ!やべ、リュカ行くぞ!」
僕は手付かずだったパンを半ば飲み込むように口に放り込むと
「のんびりしてたのノアじゃん~」
と文句を垂れるリュカを後目にドアの横に立てかけてある箒を手に外へと飛び出す。
僕が地面におかれた箒の上に立つと、いつの間にか横に来ていたリュカが同じポーズを取る。
僕たちは小さく息を吸うと
「飛べ」
と呟いた。
すると先程まで地べたに這いつくばっていたそれがまるで重力を無くしたように自身より大きな僕たちを乗せたままふわりと浮き上がる。
それと同時にギュンッという音を立て空へと舞い上がった。
見る見るうちに家は小さくなっていき、代わりに森の中にひっそりと佇む真っ白な洋館が近づく。
セシリア魔法学院。
この国にある唯一で、世界で一番。
魔法使いたちが集う学校ー…。




