記憶
あの日、僕は1匹の黒猫と契約を結んだ。
しっぽの先まで全身艶がかった漆黒の
この世にいるはずのない、黒猫とー…
「…あ!…!ノア!!起きて!朝だよ!」
鈴の音のような高いのに澄んでいて涼やかな声で目が覚める。
シャッと勢いよく開けられたカーテンから目を焼かれんばかりの光が差し込んでくる。
それに未だベッドで寝そべる僕が「う…」と身悶えると
声の主は呆れたように、自身の肩につかない位の長さの黒いさらさらな髪を人差し指に巻き付け「はぁ…」とため息をつく。
「もう、それじゃあ世紀の天才魔術師が聞いて呆れるね。」
深いルビー色の瞳が蔑むようにこちらを睨む。
元から目つきの悪い彼女にしてみれば睨んでいたつもりはないのだろうが僕からしてみればそう取らざるを得なかった。
「うー…そんなの、周りが勝手に言い出しただけで…僕だって、好きでそんなふうに呼ばれてるんじゃないよ…」
のそのそと重たいからだを持ち上げ恨めしそうな声を上げる僕に彼女はさらに深いため息をついた。
「はーぁ…本当にこの僕ちゃんは…ノアのファンだっていう子達に見せてあげたいよ。この姿を。」
いつもの憎まれ口。
それに僕は「もー、なんだっていいだろ。僕のことは。」と怒ったような声を上げ
2人の目が合うと自然に笑い出す。
そんな、いつもの日常。
僕はずっとそんな毎日が続くのだと、
なんの疑いもなく思ってたんだ。
あの時までは。