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5. 楽園での暮らし 3〜5才

 森の巡回を続ける内に、段々と仲間が増えていった。

 豚のぶーさん、鳩のくるぽ、馬のヒヒン、ニワトリのコケコさん、リスのクーちゃんにとかげのとーの順で発見された。


 リスのクーちゃんを見つける頃にはみんな巡回体制もバッチリで、危ないところだったが連携プレーでなんとか救出することができた。

 どうやら体が小さいほど、助けなしに生命維持できる時間が短くなるようだった。


 初めの頃は結構出会い頭に齧られることが多かったが、コケコさんを保護した以降は変身した兎の姿で突進してちゅーする大作戦で事なきを得た。

 ヒト型の大きさでおそるおそる近づいたり触ったりすると齧られるので、小さい体で突進してしまうのが手っ取り早かったのだ。


 別に齧られても対して困ることはなかったのだけれど、ぶーさんなんかはその後いつまでもそれを申し訳なく思って引きずってしまったので、なるべく齧られずに済む方法を模索した結果だ。

 ヒヒンの時なんかは結構豪快に頭を齧られて、その後ロウが怒って大げんかになってしまったもので、諌めるのがなかなか大変だった。


「お前は”守る側”に立ちなさい」


 動物たちを助け始めた頃から、祖父から事あるごとにこう言われるようになった。

 守る、と一口に言っても様々なことが含まれる。

 命を守る、心を守る、生活を守る。

 守るとはすなわち、それらについて責任を持ち、責任を果たすということ。


 動物たちとは、なるべく公平に接するのが望ましい。

 けれど、自分の好きという気持ちそのものを平等にするのは無理があった。生まれてこのかたほとんど一緒に過ごしてきたロウは私にとって特別で、後から仲間に加わった動物たちとは一線を画すものがあった。


 そこから、内と外を分けることを覚えた。

 心がどう感じるかはどこまでも自由であるけれど、それを態度に出すかどうかは加減ができる。

 食べ物を用意した時などは、みんなそれぞれの体の大きさに合わせて切り分けたし、欲しがるものがあったら、それぞれに大きな差がつかないように準備した。本の読み聞かせは聞きたければ集まれる場所でやったし、学びたい子にはそれぞれの進度に合わせて教えたり課題を出したりもした。


 けれど、一緒の家に住むのはロウだけだった。

 家に帰って、ひとしきりじゃれあって、毛がツヤツヤになるまでブラッシングして、くっついて眠る。毎日のその繰り返しがとても大事で幸せすぎて、そこは譲れなかったのだ。

 少し妬く子もいたけれど、家の外ではかなり気をつけて公平に接していたので、そのことで問題が起きることは特になかった。




「随分増えたねえ。お土産足りるかな?」


 後見人がそう言いながら、大袈裟な所作で動物たちを見回した。

 祖父が、祖父母以外にも頼ることができる大人がいた方がいいだろうということで付けてくれた人だ。暮らしているところは楽園(エデン)ではないものの、忙しい祖父と違って連絡が取りやすく、頼めば些細なことや多少面倒なことでも引き受けてくれる人だった。


 その日の彼は短くて黒い髪で丸眼鏡をかけ、着物に袴という出立ちだった。

 会うたびに違う格好をしてくるので何なのかと聞いたところ、「ファッションだよ」と答えて、むしろいつも似たような服しか着ない方がつまらなくないか、という話をしていた。

 私は特にこだわりがなかったし、大体いつもローブのような服かシャツとパンツのようなシンプルな服を着ていた。

 でも、当時はそういうものかと思っていたけれど、今にして思えば彼の選ぶ服はファッションというよりコスプレに近かったと思う。


 彼の持ってくるお土産は、異界の地から持ってきたものだったから当然なのだが、当時の私にとっては物珍しいものばかりだった。オルゴールや蓄音機をもらった時は、音楽というものにあまり親しみがなかった私にとっても、また動物たちにとっても新鮮で、みんなで群がったものだった。


 ただ、彼との会話には少し警戒をしていた。

 物珍しいものや、面白い体験をした話などをしている時に、何でもないことを装いつつも、私に異界について興味を持たせたいような気持ちが透けて見えたからだ。

 もちろん彼は、その感情に私が気づいていることも織り込み済みだったことと思う。


 私としては、多少は気になることはあったものの、そんなに憧れるようなこともなかった。

 私はまだまだ子どもであることを自覚していたし、ロウを含め動物たちに対して対等に接することができる大人が少ないということは既に嫌というほど知っていた。

 たとえ物が豊かで楽しみが多かったとしても、それでは安心して暮らしてゆくことができないだろうと考えていた。


 それにーー彼が行き来しているその世界は、”地獄”や”流刑地”と揶揄されることで有名な、悪名高い世界でもあったから。


 当時の私には、その時点での生活を手放す気はさらさら無かった。

 だから、いつもの彼の異界譚も、なんてことはない話だというように聞き流した。

 彼も直接誘ってくることはなかった。おそらくは私が望まない限り、余計な話をすることは祖父から禁止されていたのだろう。


 それでも、多少の冒険心くらいは、狭い世界で生きていた子ども(わたし)にもあったもので。


楽園(エデン)の境界線の外を探検してみたいんだけど。協力してくれない?」


 祖父からは禁止されていたけど、この後見人(イタズラモノ)なら何とか祖父を説得してくれるだろう。

 説得してくれたら祖父の小ネタを話すことを条件に出すと、二つ返事で請け負ってくれた。




 結論から言うと。

 境界線の外の冒険は、散々な目にあって終わった。


 危険から身を守るような魔法をたくさん覚えて、可能な限り重ねがけしていったのにもかかわらず、命からがら逃げ回るのが精一杯という体たらくだった。


 いつものようにロウと一緒に出たのもまずかった。力の弱いものを嗅ぎ分けるのか見極めるのか、ロウに一点集中砲火されるのである。

 しかも対話できるのかする気がないのかも分からない、ぐんにゃりうごうごするものがたくさんいて、到底冒険など楽しめるような環境ですらなかった。


 もう打つ手がなくなって追い詰められたところで、一部始終を見守っていたらしい祖父が迎えに来て、うごうごたちを蹴散らしてくれた。私は恐怖から大泣きして、祖父のローブの背中側にしがみついて、涙と鼻水でぐしゃぐしゃにした。

 ロウは意外とケロッとしていて、泣きべそをかく私を見上げて、だいじょうぶ? と心配するかのようにまとわりついて歩いていた。


 守るということがいかに難しいかということを知れた点だけでみれば、よい経験になったと言えるかもしれない。

 その経験からダメと言われることにはやはり訳があること、また自分が守られているということを改めて実感した。


 境界線の外はいわば、“あらゆるルールが存在しない”場所だった。

 挙げればキリがないが、『地面は土に覆われていて、足場にできる』とか『声を出せば相手に聞こえる』などの当たり前と思えることができないのだ。


 歩くには足場をイメージしなければならない。

 声を相手に届けたければ、喋るだけでなく声が相手に届くことまでイメージしなければならない。

 基本的に、創造された”世界”にはそういったあらゆることが簡略化できるように定義されている。

 その時点で知識としては持っていたものの、私はその時初めてちゃんと理解したのだった。

兎に変身の補足

 最初は狼の姿になってみたけど、ロウがえろいぬわっほいぬと化したので別系統の動物に変更、

 思い入れもあったし小回りが効く兎になりました。


祖父の小ネタ集

・顔には出さないけど、実はかなりの動物好き

・何かお願いして渋った時、あと一押しという感じであれば、

「いけっ ロウ! モフモフこうげきだ!」でいける

・特に馬が好きらしく、ヒヒンとこっそり仲良し(たまに遠乗りとかしてたらしい)

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