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4. 楽園での暮らし 2才

 私もロウも、2才になった頃。

 色んなことを学んで実践も重ね、ある程度の魔法を習得した私は、祖父から楽園(エデン)の森に入る許可をもぎ取った。

 祖父は少し渋っていたけれど、外の遊べる範囲が広場だけでは狭すぎること、危険を感じたらすぐに引き返すこと、楽園(エデン)の外との境界線が見える範囲に入らないことを約束したら、なんとか説得することができた。


 しかし、楽園(エデン)はどこも、昼でも夜でも暗かった。

 広場には街灯があったが、当然森の中にはない。

 魔法で火を続けるのも大変だしどうしようか、と思っていたところ、出かける際は祖母が一度火をつけたら力を使わずに維持してくれるカンテラを貸してくれることになった。

 それを借りにいく口実に、出かける前や帰ってきた後に祖母に会って、ちょっとお喋りをしたりお菓子をもらったりする楽しみができた。


 森の探検用にあつらえた青色の外套を纏い、火をともしたカンテラを携えて森を進んだ。

(なお、ロウにもおそろいで外套っぽい首に巻ける布を用意したが、邪魔くさいとあえなくポイ捨てされた……)


 森にある木々は、全体的に青白い。(当時は当たり前に思っていたので知らなかったが)色彩が失われていて、青みがかった葉もあるが、幹も枝も病的に白く、石灰のような色をしていた。


 たまに、小さい黒ずんだ実がいくつもなっているような低木もあったが、祖父に採れそうなものがあっても触るな、食べるなと口を酸っぱくして言われていたので、見つけても素通りする。

 離れたところからそれらの実を指差して、ロウに「あれは食べたらダメだよ」と言うと、あったりまえよと言うかのように「おん!」と鳴いていた。


 頻繁に本を読み聞かせたり話しかけたりしていたため、ロウは言葉の聞き取りや理解はできているようなのに、自分で喋ろうとはしなかった。

 鳴き声で大体のことはこちらが察せられてしまうことと、彼は内面が繊細かつ複雑で、それらをあえて言い表すのが億劫だったのだろうと思う。


 私もこの頃は喋ってくれたらいいのになー程度で深く考えていなかったのだが、何かで釣ってでも言葉を扱えるようになっておいてもらったらよかったと、今になって少し悔やまれる。

 ※楽園(エデン)ではあらゆる意思ある生き物が言葉を扱えます(学ばないと喋れない点は地球と同じ)


 未知のものに触れることは新鮮でとても面白く、森を探検することは私とロウの日課になった。

 行ったことのない箇所を探検しては、簡易な地図を起こし、探検する都度書き込みを加えていく。そんな新しい楽しみもできた。


 それからしばらく時間が経って、地図が何枚かできた頃だった。

 いつものようにロウと森を探検していると、何かの気配を感じたのだ。


 ひどく怯えているような気がして、先を急ぐ。

 しばらく走った後、とある木の根元のうろに、その動物はうずくまりながら小さく奮えていた。


 両手を皿のように差し出して、そっと手を伸ばす。逃げることなく乗せられたので、ゆっくりと自分の方に引き寄せた。後ろ向きで可愛いしっぽと少し長い耳が見えており、顔が見たいと思って少し手を動かした時だった。


 その動物の体が、ざらっと砂のように崩れた。

 見つけてから数秒の、あっという間の出来事だった。


 私は手からそれが溢れ落ちないように魔法で包んで、急ぎ祖父母の家に走った。

 その時は、初めて目の当たりにした”死”に動揺して、どうしていいのか分からなかったのだ。


 きっと、祖父ならなんとかしてくれるだろうと思った。

 けれど、その子の死は覆せるものではなかった。


「これは体だけでなく、魂から崩壊している状態だ。残念だが……こうなったら助けられない」


 ただただ愕然とした。

 手のひらに乗せた時、あの子はまだ生きていたのだ。

 助けられた命だった。


 それから、どうしてそういうことになるのか、どうすればよかったのかを祖父に教わった。

 楽園(エデン)は今、生まれた動物が生きていける環境ではないが、動物を生み落とすことを禁じるとどんな影響が出るかわからないので、生まれること自体は止められないこと。

 ロウの時のように口づけすれば、ひとまず窮地を脱せられること。

 助けるならば名付けをして、その後もしっかりと面倒をみていくこと。


 その後、いい機会だからと祖父に建築の魔法を教わった。

 これからどんな動物が見つかってもいいようにと、祖父と一緒に大きめの小屋を建てた。

 ロウは大喜びでその中を駆け回っていたが、あんまり気に入ってるようなので「今日はここで寝る?」と聞いたら、慌てたように首をぶるぶると振っていた。その様子がなんとも可愛くて、少し笑った。


 次の日、図書館であの子がどういう動物だったのかを調べた。

 兎という種で、全体的に小さめで耳が長くて短いしっぽの動物だということを知った。あの子は体が白くて、黒いくりくりした目をしていたのが、崩れる前に一瞬だけ見えていたのを覚えている。


 その後、広場の片隅に砂と化したその子の遺骸を撒いた。

 その日から、森は楽しく探検する場所ではなく、動物を保護すべく真剣に巡回する場所になった。そして迅速に見回りできるよう、地図の作成もより真剣に行うようになったのだった。

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