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いきなり襲われたけど

Act.8


Side グレン


中山は火山だけあって熱いが、何故か静かだった。本来ならば、鳥に、サラマンダーなどの生物の声が聞こえているはずだった。けれども異常に静かだった。じゃり、じゃりっと火山灰を踏みしめながら進んでいく。普通の女の子なら靴が汚れるとか喚いているだろう。でも彼女は気にすることなく、先に先に進んでいく。


「グレン、なんか急いだほうがいい。悲鳴……もう虫の息みたいになっている。」


焦るようなスカーレットの声。彼女の足はその『悲鳴』とやらに導かれるように進んでいく。火山の麓には溶岩が溜まる地底を見ることができる洞窟がある。そこにスカーレットは迷わず向かった。嫌な予感がする。言いようもない気持ち悪さ。よどんだ空気が充満しているようだった。


「『助けて』?」


彼女の口から違う言葉が出た。だけれども、意味は分かった。なにか、まるで憑依でもされているかのように視界が定まらないスカーレットはゆっくりと進んでいく。じゃり、じゃり、っと砂に沈むような足音をたてながら、ゆっくり、真っ直ぐに。


「あ……『共鳴』しはじめちゃったか。」


動物と意思の疎通ができるスカーレット。だが、一つだけ、彼女のその能力には難点がある。『共鳴』と呼ばれる感情移入しすぎる現象で、『悲しみ』、『苦しみ』に対する共鳴は彼女の心を壊しかねない。


「ダメだよ、スカーレット。戻っておいで。」


ふわりと彼女を抱きしめた。まとわりつく感情のようなねっとりとした空気を吹き飛ばす。『殺気』だとか『覇気』だとか言われるが、とりあえず、それで周りの空気を吹き飛ばした。どうやら『共鳴』が治まったスカーレットが僕の腕の中からごみを見るような目で見上げて来た。


うん、辛い。


いや、確かにね、今の状況は急に抱きつかれた状態だけど、不可抗力。ダメだ、変態を見る目で見られている。


「まあ、いい。行こう。」


彼女から感じる拒否感に大きなため息を吐いた。僕の腕の中からすり抜けて歩いて行く。彼女の歩幅に合わせながらその小さな背中を追う。洞窟の中に入ればらせん状に降りていく道。その先にはマグマ溜まりがある。そのマグマ溜まり、そこが目指す先であった。


「ねえ、グレン。」


「どうしたの?」


「来る。」


その言葉と共に帯刀していた剣を抜いた。ほぼ同時だろう。マグマが吹きあがり、そこに顕れたのはドラゴン。人とは比べ物にならないほど、大きな巨体で飛び上がって来た。


ブレス。


そう思った瞬間に剣を目の前で構えた。思った通り、すぐに炎が襲い掛かって来た。剣でその炎を割るようにその場で耐えれば、視界の端でスカーレットが動くのが見えた。右手に青い魔法陣が浮かび上がり、彼女の細身な剣が現れてくる。


空間収納術。


彼女は異空間に自分の武器をしまい込んでいる。ただし、その発動は、僕よりも少し遅いが故に、彼女は逃げることに特化している。


スカーレットは大丈夫。


それを確認してから視線をドラゴンに向けた。マグマにも溶けない鱗を持つ火竜。ブレスが吐かれ続けるが、その炎の球を切り捨てながらその視線を奪い続ける。その隙にスカーレットがその火竜の背中に回った。魔法陣を幾重にも空に描き、それを足場に火竜を切りつけた。


「流石、スカーレット。」


彼女は確かに最弱だ。でも、それは数字持ち(ナンバー)での話で、見方を変えれば彼女はこの国で13番目に強いのだ。


バリン、っと大きな音が響いた。スカーレットの切りつけた場所の鱗が割れていた。


「グレン!このドラゴン、何か操られている!苦しんでいる!」


「え?」


空中に魔法陣を描き続けながら彼女は空走り、その周りの何かを切りつけていた。一度、僕は目を閉じる。そしてゆっくりと開けば、僕の目に掛かる魔法が解けた。


竜眼。


竜族本来の瞳であるが、難点は暗い所では見えないという所だ。

逆に利点を挙げるならば、魔法の、魔力を可視化できる目でもある。


そして見えてきたのは火竜の鱗に食い込む黒い杭。それを楔に黒の鎖が繋がっている。


「グレン!鱗に食い込んでいるの!鱗傷ついちゃうけど鱗ごと攻撃すれば壊れるみたい!!」


「了解。」


そう言いながら彼女とは異なり、脚力だけでドラゴンの背後を取った。背中には三本、黒い杭のようなモノが刺さっている。それを彼女の助言通りに鱗ごと破壊すれば、ポロリと取れて、そして空気に溶け込む。


「あと二本。」


一挙に三本。そしてスカーレットが腕に刺さるもう一本、僕が脚の一本を切れば、痛み故か咆哮を上げたが、ドラゴンの動きが止まった。ただ、ドラゴンの足に飛び乗ったためにその咆哮で体のバランスを崩した。下に落ちればマグマ溜まり。


「グレン!!」


魔法陣を彼女は展開しようとしたらしいが、発動が遅かったらしい。焦るように手を伸ばすスカーレット。だが、視界に映り込んだマグマ溜まりを見て真っ先に思った。


まずい!


「ありがとう、お兄さん。」


「え?」


ドラゴンの手が僕を受け止めている。バサバサ、っと翼を羽ばたかせながら、その火竜は僕を助けてくれていた。


「グレン!」


呆然とする僕に飛びついてきたスカーレット。ドラゴンの手の上で、番に抱擁されるという、良く分からないけど幸せな気分でいた、ら手をどうしていいのか分からない。ドラゴンは視線を明後日の方向に向けていた。その視線がチラッとこちらに向き、視線が合った。


「えっと、ありがとう?」


「み、見てないから、好きにやってもいい、けど、せめて、私の手から退いてくれない、かな?」


その言葉にスカーレットはすぐさま僕との距離を置いた。ちっ、と舌打ちしそうになったが、抑えて、ドラゴンを見た。先ほどまでとはまるで別人なドラゴンは僕とスカーレットを道に戻してくれた。スカーレットはジッとドラゴンの傷を痛ましそうに見ていた。


「火竜様、ごめんなさい。女の子なのに傷つけちゃって……。」


その言葉に、僕だけでなく、ドラゴンまで驚いていた。



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