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水龍との出会い

Act.4


Side グレン


急に視界に霧が立ち込めた。そしてスカーレットの匂いが遠のいていく。まずい、攫われる(・・・・)!?そう思った時には遅くて、もうスカーレットもガズーも姿が見えなくなった。やっぱり同じグリフォンに乗るべきだったと後悔する。彼女がグリフォンに嫌われているのは分かっているが、ヒポグリフのガズーは絶対にスカーレット以外を背に乗せない。


「ねえ、匂い追える?」


一応、グリフォンに聞いてみる。しかし彼女は首を左右に振った。つまり『追えない』ということだろう。グリフォンは元々知能の高い生物だ。スカーレットのように会話はできないが、意思の疎通は出来る。


「……思い当たるところは?」


その言葉にグリフォンは頷いた。『ある』ということなのだろう。


「お願いだ、スカーレットを迎えに行きたい。」


そう言えばグリフォンは空を駆け出した。スカーレットは『自分は嫌われている』と言うが、僕はそうでない気がしていた。確かに乗せてくれないグリフォンは多いようだが、今、僕が乗っている彼女は違うし、彼女の姉であるヴァネッサは普通に乗せて貰えている。


その違和感がずっと胸にくすぶり続けていた。


「湖?」


下をのぞけば湖が見えて来た。太陽が乱反射したその水面はキラキラと輝く。グリフォンはその中に入ろうとするが、バチッっと大きな音がしてそれ以上進めないようだった。


「結界?っていうか、君大丈夫?痛くない?」


空でとどまるグリフォンに確認すれば、彼女は振り返って一度頷いた。こういう時にスカーレットのように会話できると助かるのだけど、と思いつつ、グリフォンがその湖の周りを旋回する。


「これ入れないのかな?……物理的に結界壊すかな。」


その言葉にグリフォンは首を左右に勢いよく振った。つまり『ダメ』なのだろう。しかも物凄くダメなのだろう。じゃあどうするのだろう、そう思えば、グリフォンは同じどころを三回、旋回した。そして先ほど同じように降りていけば、今度は音もなく降りていけた。


「え?」


僕の驚きの声にグリフォンは『どうだ?』と自慢げな顔をこちらに向けた。ドヤァって効果音付けてあげたいぐらい自慢げな顔だ。ゆっくりと羽を羽ばたかせて、下に降りていく。その湖畔に、さっき見失ったスカーレットと、男がテーブルを挟んで談笑していた。


「スカーレット!!」


並みではないその男の気配に思わず声を上げれば、スカーレットはこちらを向いて、そして目の前の男を凝視した。グリフォンはどうやら降り立ちたくないようなので、飛び降りて、スカーレットの座っている椅子の隣に風魔法でふわりと降りた。


「グレン、ここ来られるんだ……。」


驚きながらもスカーレットは優雅にお茶を含んだ。そして相手の男と違う言語で喋っている。つまり、彼は人ではないのだろう。


「グレン、彼は水龍様だよ。ウォータードラゴンって言えば通じる、って言っている。」


そう僕に言ってから、彼女はまた違う言語で話し出す。その様子が少し、気に入らなかった。ジッとその水龍様をみる。どこかアルビオンに似ているような気もした。


「すまんな、我が眷属の末裔よ。つい、ドラゴンの言葉が懐かしくて話してしまった。人の言葉も喋れないわけではないのだ。」


急に、僕が分かる言葉に変わり、驚いていれば、隣のスカーレットはもっと驚いた顔に変わっていた。


「え、水龍様、喋れたの!?」


「『ナウい』?言葉は知らないがな。」


ニコッと笑う水龍様。彼は優しげな視線をスカーレットに向けた。しかしそれは父が子に向けるような視線であったから安心はした。


「それももう古い言葉だよ。」


スカーレットは笑いながらお茶で喉を潤した。パチンっと水龍様が指を鳴らすと、僕の後ろに椅子、前のテーブルには新しいお茶が並んだ。今度のカップは3つ。


「それで、スカーレットから名前を聞いただろう。私は水龍。まあ、ウォータードラゴンと呼ぶ人間もいる。」


「……グレン・バルローです。」


「バルロー。私の眷属と交わった一族だな。」


そう、バルロー、レインウォーター、そしてブルーム。スペードの国の竜族の家は全てこの水龍の眷属と人が交わった一族。つまり、水龍様は遠く辿れば僕の祖先ということになるのだ。


「水龍様の孫みたいな感じなのかな?」


スカーレットが気の抜けるような言葉を放ち、それに対して水龍様は声を上げて笑った。


「あははは!孫!孫どころか数多数えきれないほど後の子だな。少なくとも4000年、天野多門(あまのたもん)が生まれた当時の話だ。」


「イマイチ想像できない次元だ……。あと天野多門さん、今の数字持ち(ナンバー)11の兵士(ジャック)だよ。」


「それは本当に天野多門か?あの一族は代々族長が同じ名を名乗るぞ?」


「それならまず間違いなよ。多門さん4000歳だから。」


そんな会話を普通にしていくスカーレットをジッと見つめた。彼女はこうやっていろんな者と交流するし、すぐに仲良くなる。水龍様は気難しいし、人の前に顕れるのだって聞いている限りでは300年ぶりぐらいではないだろうか?


「ほお、外の流れはいつの間にか変わるな。ではこの茶菓子も『ダサい』のか?」


「いや、新しいですよ?特に、このお花が入ったクッキー、こんな美味しいクッキー食べたの、初めてです!」


「昔は主流の物だったのだが、変るのだな。まあ、それが新しくなるというのは繰り返されるな。食べたければ持っていけ。いくらでも作れるからな。」


そう言った水龍様はふわふわと浮いた空でクッキーを箱に詰めていく。その箱はスカーレットの目の前に浮かせた。それを受け取ったスカーレットは嬉しそうに笑っていた。


「ありがとう、水龍様!ちょっとガズーに持っていって貰いますね!」


スカーレットはヒポグリフの方に走っていった。その様子を見ていた水龍様はジッと僕に視線を向けた。


「あの子は君の『番』なのだね。」


何故分かったのだろう?そう思ったが彼はニコリと笑う。


「君の匂いがあの子についていたからね。でも気を付けた方がいいよ。

君によく似た違う匂いが付いている。それも悪意の籠った匂い。彼女を恨んでいるのかな?」


「……()が恨んでいるのは彼女の父であって彼女ではない、と信じたいのですがね。」


「なるほど、そう言うことが。相手は分かっている、が近しいのか、それは複雑だ。」


「水龍様、もし知っていたら教えてもらえませんか?

『凍った記憶の溶かし方』を知りませんか?」


その言葉に水龍様は納得したようだった。僕が探し求めているモノでもあるし、それが分かれば、スカーレットの安全は保障される。僕としては何としてもソレを探したかった。


「はっきり言う。それは私も分からない。」


「そう、ですか……。」


「だが、彼女が『キングストン卿』であるならば、溶ける可能性は高いな。」


「……彼女には姉が居ります。今の2番(デュース)です。確率とすれば姉の方が高いでしょう。」


「おや、前のキングストン卿の娘は一人ではなかったか?」


「さあ?ただ、ヴァネッサとスカーレットはかなり年が離れますから、もしかするとだいぶ後にできたのがスカーレットかと……。」


「そうか、知らなかった。」


ふと頭に浮かんだのはスカーレットとヴァネッサ。スカーレットの姉であるヴァネッサは見た目こそ23歳の時に停まったらしいが、実情は160歳。対するスカーレットは14歳なのだ。まあ、この世界で100歳前後の差がある兄弟は珍しくない。

彼の出してくれたお茶を飲んだ。花の香りが広がる紅茶だった。スカーレットが好きそうな香りの強いお茶。


「『迷いの森』に来た理由はあの子の為か?」


「半分はそうです。……ああ、水龍様、最近この辺りの生態系は変わっていますか?表向きは国からの調査で来たので、貴方様と会ったことは報告しないつもりでいるのですが。」


「生態系?『迷いの森』は変わらんが、この先の炭鉱の山で、どうやら何か起きているらしい。最近、鳥が良く逃げてくる。そんなところか?」


「なるほど、では調査してみます。」


そう言って立ち上がった。スカーレットは貰ったクッキーの箱を嬉しそうにヒポグリフに見せて笑っていた。


「グレン、多分であるが、『キングストン卿』はあの子だろう。あれだけ『キングストン』の力を内包しているのだ、姉の方を見ていないから何とも言えないが、あの子は確実に『キングストン』だ。」


その言葉は僕にとって希望でもあるけれども、絶望でもあるのだ。


「そう、だといいです。」


その言葉は静かに森に溶け込んだ。振り返ったスカーレットは屈託のない笑顔を浮かべる。クッキーは相当嬉しかったらしい。


「グレン、あとでお菓子一緒に食べようね!」


上機嫌でそんなことを言う。時々こうやって危機感が抜け落ちるから僕は困る。とりあえず、僕の理性が決壊しないように祈った。


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