珍しいものに会いました
Act.3
Side スカーレット
王城の王の間。青一色で、王も、女王も、兵士もそれぞれに青を纏って並んでいる。その三人に向かって私と、グレンは膝をついて拝礼していた。
「では、1番、グレン・バルロー。
並びに3番、スカーレット・キングストン。
二人に炭鉱都市ヴァゼルンの生態系調査を命じる。」
高らかな声を出したのは王の男。いつも顔を隠していて意味わかんないけど、一応、グレンや、アルビオンの従兄弟に当たるらしい。竜族の末裔の血縁関係ややこしすぎて良く分からない。とりあえず三人とも金髪だ。
「グレン・バルロー。了解いたしました。」
「スカーレット・キングストン。同じく了解しました。」
三人がそこから居なくなるのを待ってから、グレンは立ち上がってそして手を差し出した。一応、私も『レディ(笑)』なので手を借りて立ち上がる。
「スカーレット、とりあえず、グリフォンで向かおうかと思うけど、途中で話を聞きたいから同じグリフォン乗ろうね?」
「絶対変なことするから嫌!ついでにグリフォンは乗せてくれないから私はガズーに乗っていくよ。」
ガズー、と呼んだのはヒポグリフだった。グリフォンと馬の交配でできた異種交配種で、彼は『私と同じ』嫌われ者だ。そんな彼は私以外を背に乗せない。まあ、私がグリフォンに乗せて貰えなかったのを見て同情しただけかもしれないけど。
「残念……まあいいや、行こう!」
そのまま向かったのはグリフォンの飼育舎で、グレンはいつも雌のリブリンに乗る。私はその様子を見ながら、飼育舎に入った瞬間そっぽ向かれる。グリフォンは知能の高い生物だ。
彼らは、彼らを育てた人間を殺した人間と、同じ匂いを持つ私の一族を許してはくれない。
だから私はグリフォンに乗れないのだ。グレンと仲の良いリブリンはグレンと一緒なら乗せてくれるが、嫌そうなのが伝わるから私が嫌なのだ。
「ガズー。」
呼べば来てくれたのはグリフォンによく似ているが、違うヒポグリフ。寄って来た彼の背中に乗せて貰った。そしてグリフォンに乗ったグレンは少し残念そうな顔をしていた。
『久しぶり、スカーレット。』
声を掛けてきたのはヒポグリフ。彼はちょっとだけ嬉しそうな表情をしてくれた。
『最近、来られなくてごめんね。もうちょっとしたらお金溜まりそうだから、そしたら庭付きの家買って迎えに行くから、待っていてね?』
私の特殊能力の一つ。それは動物の言葉が分かるし、喋れるというものだ。だからグリフォンに嫌われているのも知っているし、乗せてくれない理由も知っている。
『あーあ、半端者同士仲良くしちゃって……。まあ、お似合いだこと。』
そう言ったのはグリフォン。でもその言葉にガズーは傷つくことはない。ガズーはあまり気にしていないらしい。私が家を買うと同時に引き取ることも国に通してあるが故に、わざわざ言い争うこともない、とのことだ。リブリンとガズーは同じ父親の子供であるが、グリフォン同士の交配か、グリフォンと馬との交配かとの違いはある。
『ごめんね、リブリン。今回の仕事終わったら家買う算段つくから、そしたらガズーを連れていくし、私もここ来ないから、もうちょっと我慢してね。』
『……あ、そう。なら何が何でも今回の仕事終わらせないとね。』
『うん、よろしく。』
「スカーレット、なんだって?」
言葉の分からないグレンは私に聞いて来た。それに対して曖昧に笑った。
「仕事、頑張ろうね、って話。」
ガズーは強いからそんなことを気にしないだろう。でも劣等感の塊である私にはそんなことはできないのだ。ガズーも、リブリンも駆けだした。その勢いを生かして羽根が風を掴み、そして空に飛び立った。この風を感じさせてくれたガズーには感謝しかない。
「スカーレット、ヴァゼルンの街の調査の前に、迷いの森を調査してから街に入りたいのだけどいいかな?」
「いいんじゃない?その方が動物に聞けるしいいと思うよ。」
そんな義務的な会話をしながら炭鉱都市ヴァゼルンの手前にある迷いの森に降り立った。迷いの森は来る人を迷わすという森だが、幻覚を見せる、フェアリーローズの花の花粉が原因なので、鼻が利く竜族のグレンがいれば迷うことはないだろう。
『ねえ、この辺りで変わったことはない?』
たまたま見えた小鳥に話しかければ、人懐こいその小鳥は私の方に飛んできた。
『最近、ドラゴンが五月蠅いの。ちょっと話を聞いてあげて。』
「ドラゴン?」
会話を続けようとしたのに、小鳥は飛んで行ってしまった。しかし、小鳥は何故か来るように言っているようで、「ガズー」と小さく言った。すると、ガズーは迷わずに小鳥を追いかけた。ガズーが向かった先にはどうやら湖があった。彼から降りて周りを見回せば、普通の森。だが、異様に静かだった。
『誰だ、儂の寝床に来たのは。』
響いた声に驚いて湖を見回す。そこには湖面の上に浮いている男。金の髪に青い瞳はグレンやアルビオンを思い出させる色だった。その男の足下を見れば水面には大きな影が映っていた。
『ドラゴン?』
影に映った姿を見れば間違いなくドラゴンだった。
『ほお、我らの言葉を話せる人間は久方ぶりだ。それに、キングストン卿の縁者か?』
『キングストン卿が前の数字持ちの2番を指しているなら私のお父様ですよ。』
『……時が経っていたのだな、では新たなキングストン卿、皆は私を水龍と呼ぶ。』
そう言いながら彼は湖から地面に降りて来た。背丈は高めでアルビオンと同じくらいかな?と首を傾げた。急にガズーがすり寄って来た。驚いてみたが、ガズー以外誰もいない。グレンとリブリンとはぐれてしまったようだ。
『水龍様、私はスカーレット・キングストンと言います!で、どうやら同僚とはぐれてしまったみたいでして、先に探しに行っていいですか?』
『残念ながらその同僚はここには来られないだろう。何せ、ここはドラゴンの産卵地。そして今は産卵期だからな、お前が『キングストン』であったから招かれただけで、他は入れない。』
『えーと、つまりグレンは来られない?』
『そうだな、無理だな。』
『じゃあ戻るにはどうすればいいのですか?』
『そうだな、儂の気分次第だな。茶でも飲もう。』
そう言った水龍はいつの間にか現れた椅子に腰かけた。目の前にはお茶と菓子が置かれたテーブル。そのお菓子は花や葉っぱが飾られている。お茶は見たことのない青いお茶だった。
『それに、前のキングストン卿の話をしたいのだが、どうだ?』
ニンマリと笑う男は手で座るのを進める。ドラゴンにしたって、妖精にしたって気まぐれなのが多い。きっと彼も気まぐれなのだろう。
『お父様って言っても私はあんまり記憶ないよ?だって『政変』で亡くなったとき、私は4歳だったから。』
『『政変』……いつの間に起こっていたのだ?』
『10年前。私が4歳の時。前の王様が無理やり奥さんにした人に逃げられて狂っちゃったんだって……。で、お父様が『政変』を起こしたって聞いている。』
『悲しくは、ないのか?』
その言葉に青色のお茶を飲んだ。レモンの香りが口に広がった。
『政変』、それが何かと言えば、力の強い1番や2番が王や女王に武力で政治を終わらせること。それが発動するときは、もう国は終わった証拠であり、1番や2番、他の数字持ちもそうだが、その後には『死』しかない。
『覚えていない父親を恋しくは思えないし、お父様は『義務』を果たしたのだから凄いとは思うけれどね。』
『……凍っているのだな。』
水龍は少し憐れんだ目を向けて来た。何故そんな目で見られているのか良く分からなかった。気を紛らわすようにクッキーを1枚食べた。瞬間に口に広がる花の香り。これはこれで美味しい。
「スカーレット!!」
急に響いた声。しかしその声に一番驚いたのは目の前で同じようにお茶を飲んでいた水龍様だった。