まだ、手を出す気はないんだけどね?
Act.2
Side グレン
僕は竜族の末裔と呼ばれる家の出身だ。スペードの国には全部で3つ、竜族の末裔と呼ばれる家がある。レインウォーター、ブルーム、そして僕の家、バルロー。
人間と大差ない。それは間違いない。
人より少しだけ身体能力が高く、人より少しだけ見た目がいい。
僕の中で竜族の末裔というのはそんな感じだった。
あの日、『番』と出会うまでは。
彼女と会ったのは、僕が13歳、彼女がまだ3歳の時。当時の数字持ちの2番であったキングストン卿が父に会いに来た時だった。強烈な匂いを嗅いでしまった。その匂いに釣られて来たのは家の中庭だった。クローバーの敷き詰められたそこで、シロツメクサの花輪を作っていた少女。
振り返った瞬間、この子は僕の『番』だと直感した。
で、気付いた時には彼女の父親であるキングストン卿に取り押さえられていた。
目の前で号泣する彼女に何をしたかは分からないが、理性を失うということを初めて経験した。
「その話を聞くのはもう、72回目なのだが……。」
「細かいよ、アルビオン従兄さん。」
「しかも数え出したのはお前が成人してからの3年だからな?その前含めたらもう分からん。」
結局、スカーレットには嫌われている。
スカーレットの姿を思い浮かべる。肩あたりで切りそろえられた黒髪は艶やかで、潤んでいる灰色の瞳は僕を見てくる。背は僕よりも頭一個半ぐらい小さくて、可愛らしい。少し成長してきた彼女はほとんど露出のない服から見えてくる凹凸はもう少しで『食べごろ』になるのだろうな、なんて思う。
まぁ、変な事をするよりはああやって自衛してくれるのは助かる。まだ成人していない子供にナニしてしまうのは流石にマズイからね。
「……アーネストの事、話とかなくていいのか?」
「……『媚薬をお菓子や紅茶に入れたのは僕の従兄弟のアーネストです。だから僕は悪くないんだー』って、言い訳っぽくない?
あと、あのぐらい避けてくれたほうが僕の理性が飛ばないから安心できる。」
そう言いつつ頭には自分と瓜ふたつの従兄弟を思い浮かべた。
「あんまり言いたくないが、辛くないのか?」
「めっちゃくちゃ辛いに決まってるじゃん。でも、傷付けるよりはマシ。
アーネスト、恨みたくなるや。来週からスカーレットと二人っきりで仕事とか……理性飛ばさないといいんだけどな。」
はあ、と小さく息を抜いた。頭に思浮かべたのはアーネスト・ブルーム。僕とよく双子と言われるが実は従兄弟。複雑なことに僕の父と彼の父が双子で、僕の母と彼の母が双子という数奇な血縁関係で、しかも一日違いで生まれた従兄弟。
そして僕の天敵ではないか、と言いたくなる。
彼と僕は正直に言えば、見た目はそっくりだが中身は全然違う。その中でも一番何が違うかと言ったら『番』に関しての感情だろう。彼の心情としては嫌われていようが傍にいればいいという感覚なのだろう。僕みたいに心も欲しいとは思っていない。
「ああ、もう、なんでアーネストが13番の王なのかな。物理的には僕の方が強いのに。」
僕たちの住まうトランプと呼ばれる世界。
この世界は理で縛られている。それぞれの国の13番の王の命令は絶対。だけれども、13番の王が正道から外れた時のみ、1番と2番は13番の王、その他の同じ型を攻撃できる。
つまり、僕がアーネストを物理的に攻撃するのは、彼が道を逸れた時だけで、今現状ではどうしようもない。
「まあ、アーネストの気持ちも分からなくはないが、やりすぎだよな。
ただ、今回の仕事はどうしても二人でないとダメなんだ。本当はヴァネッサも行かせたかったが、ちょっと気になることが合って、な……。」
ジッと彼は視線を空に向けた。その様子に言いようもない違和感を覚えた。