とりあえず、危機です!!
Act.1
Side スカーレット
久々に顔を出した王城。
私は必死で逃げている。なぜ逃げると言われれば貞操の危機なのか、ファーストキスの危機なのか良く分からない。けれども必死で逃げていた。
「スカーレット、なんで逃げるんだい?」
追いかけてくるのは金髪に星空のような群青色の瞳をした少年とも青年とも言える男。グレン・バルロー。彼はスペードの一番。つまり私より強い。遥かに強い。
「いやだぁ!!」
半泣きになりながら、助けてくれそうな所に向かった。お願いだから中庭に居て!!と願いを込めながら走り続ければ、そこには優雅にお茶をしている男女。助かった!そう思った。
「姉さん!!助けて!!」
声を聞いた女性は立ち上がり、腕を広げてくれた。迷わずにその腕に飛び込めば、ぽふっと柔らかな胸が顔に当たった。羨ましい、絶壁の私にはとても羨ましい胸だ。
「グレン、前も言ったでしょう?スカーレットは貴方が苦手なの。せめて餌付けでもしてから仲良くなりなさい。」
餌付けって私はペットか?とも言いたいが、残念ながらこの男に昔、色々苦しくなる薬を飲まされて、あわや貞操の危機になったこともある。この男が私にここまで執着する理由は分からなかった。そっと視線を抱きしめている姉、ヴァネッサ・キングストンに向けた。真っ黒な髪は私と瓜二つのストレート。瞳の色は、姉は黒で、私は灰色。背は姉の方が頭一個分大きい。そして姉の胸の中で安心した。
「前にお菓子あげたけどダメだったみたいなんだよね~。」
そりゃアンタのお菓子にはヤバい薬が盛られている確率が高すぎて食べたくないのよ!とは叫ばない。姉の胸にいる限りは、私の身の安全は保障されている。何せ姉は2番。この国で最強なのだ。
「グレン、スカーレット……俺、ヴァネッサとの時間、一か月ぶりなのだが……。」
そう椅子に座ったまま呆れる男。12番の女王は残念そうにそう言った。彼はちゃんと男だ、男だけれども称号が女王と言う不思議な人だ。
アルビオン・レインウォーター。金髪に空のように青い瞳を持つ彼は顔だけ見れば本当に女王様だ。まあ背は高いし、身体は引き締まった男性なので、女性に間違われることはないが。
「何言ってんのアルビオン。僕だって一か月ぶりにスカーレットに会えたんだよ?我慢がきくと思う?」
「あー……無理だな。」
おい否定しろ、女王。まあ、否定できなのは理解している。私を追いかけて来たグレンと、姉とお茶を飲んでいたアルビオン。この二人は従兄弟同士。
そしてこの二人は竜族の末裔なのだ。
見た目にはほとんど私たちと変わらない。強いて言うならとてつもなく美人だ。この見た目に騙される人も多いけれども、残念ながら、私は騙されなかった。逆に言えば初めて彼に会った日に大号泣した。正直に言えば怖かった。あのギラギラした目で見られたのがとてつもなく怖かった。
そして彼らには私たちが感じられないものを感じている。
『番』という感覚だ。
こればっかりは私にも姉にも分かっていない。
でも姉は緩やかに女王に篭絡されていった。いや、女王みたいな柔らかい感じなら別にいいんだよ?
あんな捕食されそうな目で見られて好感を持つ人間がいたら会ってみたい。
「ね~、スカーレット、僕とお茶しない?僕の家で。」
「絶対いや!もう騙されない、絶対お茶に何か入っている!!」
「ちっ……まあいいや、来週から嫌でも一緒だから。」
不穏な言葉に姉を見上げた。何故か視線を逸らされた。もう一人、アルビオンを見た。彼もすごい勢いで視線を逸らした。
「え、何?」
「僕と来週からお仕事だよ。竜族の僕と、動物との意思疎通能力に定評のあるスカーレット、僕たち二人以外には出来ないお仕事だよ。」
絶対語尾にハート付いた。そして同時に向けられた笑顔。だけど目は完全に捕食するドラゴンと同じ目をしている。その視線に寒気がして、姉の胸に顔を埋めるのだった。
ちなみにふわふわのマシュマロだった。