沈められた記憶
Act.13
Side スカーレット
とても静かな場所だ。
まるで水の中だ。
ぶわっと多くの気泡が私の身体をすり抜けていった。その気泡が向かうのは明るい光。
その光を追って向かった先で見えたのは二人の人間。
二人は庭の小さなガーデニングテーブルを挟んでささやかな茶会をしているようだった。
一人は白い髪に紫の瞳を持った女性。どうやらお腹に子供がいるらしく、ゆっくりと大きくなっているお腹を撫でていた。
そして、もう一人は見覚えがある。
私の姉、ヴァネッサ・キングストンだ。
『マリア様。』
『ヴァネッサ、昔のように『お母様』と呼んでくれないの?』
『……あの頃は立場の違いを理解していなかっただけです。』
少し乱暴に口に運んでいた紅茶のカップを皿に戻した姉。その手は僅かに震えている。
『孤児であった私を、娘として育ててくださり、しかも『キングストン』の名まで名乗れるようになりました。ですが、マリア様は私が守るべき主です。』
『もーーーーーー!こうなったら私の魔法で『お母様ぁ!』って抱き着いて来た時のヴァネッサをアルビオンの前で上映してやる!そうして、アルビオンを泣かせてやるんだから!』
『……それは、勘弁していただきたい。』
姉は苦笑いをしていた。その手が紅茶の取っ手を持ったまま震えている。女性はそっと姉の手を取って握りしめた。
『キングストンの名を名乗れるようになったのはヴァネッサが努力して、『キングストン』に相応しい人間になったから。ダグラスだって、ヴァネッサに『キングストン』を名乗らせるのは悩んでいたわ。『キングストン』は業の深い家だからね。』
『……キングストン卿は、お優しいですから。それに、私はもうすぐアーネストの所に嫁ぎますし、箔をつけてくださっただけです。』
『もーーーーーー!!!なんて素直じゃないの!!』
そう言いつつも女性は幸せそうで、姉も幸せそうだった。
その光景が気泡に飲まれて世界が変わった。
今度は室内。
ベッドで誰かが横たわっている。
その誰かは先ほどの女性。
そのベッドの近くには少年のような、風体の男が立っていた。
『この子の名前は『スカーレット』にしよう。僕たち『キングストン』の希望の炎。だから、マリア。君はゆっくりと眠ってくれ。』
少年のような、男が冷たくなっている女性の頬に手を当てた。反対の手に抱いているのは赤ん坊だ。すやすやと眠るその赤ん坊を私はジッと見た。
『すまない、マリア。君が死ぬと分かっていながら、子供を産ませた僕を恨んでくれ。』
そう言いながら動かくなった女性の頬に幾重にも落とす涙。
この男は父で、この女性が母。
知らない記憶のはずなのに、何故か分かった
『これで、僕のような思いをする子は、居なくなるはずだから。』
父の言葉の意味など、分かるはずがない。
また気泡に飲まれた。
今度は草原だ。
少女がいる。
黒い髪。
その少女は手にたくさんのシロツメクサを使った花冠を作り上げていた。
風に誘われるように振り返ったその瞳は灰色。
私だ。
『グレンはなんで、いっつも離れるの?』
急な私の言葉。振り返れば距離を置いて俯く少年の姿。私の言葉に顔を上げた少年。アッシュブロンドの髪に、深い夜空を思わせる瞳。グレンだ。
『逆に……君はなんで僕が怖くないの?理性を失ったのだよ?』
『でも、グレンは優しいよ?』
そう言いながら、私は花冠をもってグレンの足元に走った。まだ子供。よたよたとバランスの悪そうな歩き方でグレンの足元に行けば、グレンは膝をついて同じ視線になってくれていた。
『パパはね、グレンは私と一緒にいれば、この前みたいなことは起こらなくなるっていっていたよ。だから大丈夫だよ。』
そう言いながらグレンの頭に花冠を乗せる。グレンの目に涙が浮かんでいた。
私は、この光景を覚えてはいなかった。
でも、これが現実にあった事だと、漠然と分かっていた。
ああ、また気泡がこの光景を飲み込んでいった。
半年更新していなかったので、とりあえず、書けている所までです!!
頭の中では完結までできているのですが、進まない!!
仕事忙しい!!