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青の王座

Act.11


Side スカーレット


光に包まれた瞬間、景色が変わった。青の絨毯、青の装飾、青の王座、そして青の国宝。


「王の、間?」


昨日、私はここに居た。ここで王からの『王命』でヴァゼルンに向かったはずだ。記憶と寸分も変わらない『王の間』状況を把握しないと、と周りを見て、私は凍り付いた。


「姉さん!?女王(クイーン)!?」


思わず走り出した。壁にもたれ掛かるように座って、二人は寄り添っていた。微かに息はある。でも、姉も女王(クイーン)大量の血にまみれており、スペードの国の()色を纏っていたはずの二人は真っ赤に染まっている。顔色も青よりも白に近い。


「『再生せよ(リカバリー)!!』」


私の使える中で最大の回復魔法。詠唱と同時に青色の魔法陣が展開し、予想以上に魔力が消費してく。それだけ、二人の負傷が深いというのが分かる。薄っすらと姉の目が開く。そして私の姿を映し出したうつろな瞳の目尻から涙が零れ落ちた。


「すか、にげ、な、」


「喋らないで!!」


何かを言いたそうな姉の言葉を遮って、私は回復魔法を掛け続ける。頭がガンガンと痛むほどに魔力が減っていく。姉は大丈夫だが、それ以上に女王(クイーン)……アルビオンの方が重傷だ。


「あれ、スカーレット?」


聞こえた声は馴染みがあるはずなのに、何故か、体の芯から冷え切るような感覚になった。魔法展開をしながらも、声の主、その姿を見るために、振り返った。その姿は先ほどまで一緒にいた『グレン・バルロー』と寸分変わらぬ姿なのに、本能的に感じるのは恐怖。


「グレン、じゃない、誰?」


魔法の展開を止めれば、姉とアルビオンの命はない。

でも、問わずにはいられなかった。

グレンと同じ姿の誰か。

今、初めて明確に違うと分かった。

私が『怖い方のグレン』と称していたアレは別人だったのだと。

咄嗟に剣を顕現させた。

魔法を使わない状態で私が戦える術は『(これ)』だけだ。


「はははは!あれ?いっつも気付かないのに何で気づいちゃうんだい、スカーレット?」


コツ、コツと床を叩くように歩いてくるグレンのような別人は、普段向けることのない『憎悪』の籠った視線を向けてくる。


ぐっと握った剣と自分の手の間に汗がにじんでくる。


今、私は明確に『恐怖』を感じているのだ。


「おかしいな、もうちょっと後に君が来る予定だったのになぁ。」


そう言ったグレンのような彼は背を向けてゆっくりと歩いて行く。コツ、コツと鳴り響く足音が向かう先は、青の王座。


「でも酷くないかな?昨日だって会ったよね、スカーレット?」


彼は振り返って、そして王座に腰を掛けた。その椅子の上でニヤリと笑いながら私を見下す。その姿が、非常に似合っていた。


「アーネスト・ブルーム。この国(スペード)(キング)にして、君の番のグレンの従兄弟さ。」


(キング)……?」


その言葉に納得してしまう自分がいた。彼が王座で笑う姿に、なに一つの違和感がないからかもしれない。


「まあ、もうすぐ、僕は史上最短のスペードの王になるかもね。どうでもいいけど。」


そう言った彼はまた王座から立ち上がった。コツ、コツと鳴り響く靴の音は、こちらに向かってくる。剣を構えている手が震える。自分の数字(ナンバー)よりも高い数字持ち(ナンバー)に歯向かう時に起こる『制限』だ。


それに合わさって、『恐怖』もある。


「ねえ、スカーレット。君は『(キング)』の選ばれ方を知っているかい?」


「……『政変』から新たな数字持ち(ナンバー)が決まるとき、一番国を思っている人間が、国宝に選ばれて『キング』になる。」


誰もが知っている話だ。『政変』終了時に国宝が数字持ち(ナンバー)を選ぶ選び方。


一番国を思っている能力のある人間が(キング)となり、一番国を憎んでいる人間が1(エース)となる。


パチパチパチパチと彼は乾いた拍手を私に送る。冷や汗が背中を伝っていく。


「正解だよ。僕は政変の(あの)時、一番、国を長くしたいと思っていた(・・)。逆に直ぐにスペードの(この)国滅びを願ったのはグレンさ。」


そう言いながら彼は私の目の前で足を止めた。震える手では剣を持っていることなどできない。でも耐えないと、そう必死だった。


「でも酷いよね。僕に繁栄を思わせたのも、グレンに滅びを思わせたのも『キングストン卿』なのにね。君は何も覚えていない。」


「どういう、意味?」


純粋な疑問だった。彼の言わんとする意味が分からなかった。


「スカーレット、逃げ、なさい。」


擦れるような女性の声。振り向かなくても分かった。姉の声だ。まだ喉のあたりが回復しきっていないのだろう。否、私の魔力が足りていない魔法陣は維持するのが精いっぱいだ。


「ああ、折角気を失うぐらいにぐちゃぐちゃにしたのに回復しちゃって……まあヴァネッサを守るために弱いくせにアルビオンが庇ったからその程度で済んだんだろうけどね?」


楽しそうに笑った顔がグレンと重なるのに、違う。彼の手が私の頭に乗せられた。酷く冷たく感じるその手は気持ち悪さを感じる。


「まあ、結果は同じなんだけどね。じゃあね『キングストン卿』。」


パキン。


と頭の中で何かが割れる音が響いた。急激な寒気と、眠気と、そして眩暈。ゆるやかに崩れ落ちていく視界の先で私の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。



今回はここまでです!

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