07
シャルたんの成人パーティーの2ヶ月前になった。今日俺は、父上と母上と一緒に王宮内の応接室の1つにいる。
母上はさっきからそわそわと落ち着かない。それもそうだ。これから国王陛下と王妃様、シャルたんがやってくるのだ。父上はさすがに何度も陛下とお会いしているからか、どっしりと構えているように見える。でも今日は薄くなった頭皮を撫でる回数がいつもより多いから、多分緊張してるんだろう。やっぱり俺も将来ハゲるんかな…。
話が逸れたが、今日は俺とシャルたんの婚約をするための集まりなのだ。
俺がシャルたんの成人パーティーのエスコート役に決まった後、王家の方でどうせなら婚約もしてしまえということになったらしく、話がトントン拍子に進んだ。俺としては一刻も早くシャルたんを俺だけのシャルたんにしたかったので、諸手を上げて賛成した。
貴族同士の婚約は、誓約書に両家がサインをし、それを国王が認めることで成立する。今回は国王もサインする側なので、サインした時点で婚約成立だ。
ああ、早くシャルたんに会いたいな。一昨日は訓練日で、昨日から実家に戻っているので、丸2日会っていないのだ。
俺が母上とは違う理由でそわそわしていると、何故か使いの人間がやってきて俺だけ連れ出された。別の応接室に案内され、入室するとそこにはシャルたんとヘンリー様がいらっしゃった。
「カイン、よく来てくれたね。まぁとにかく座って」
「はい、失礼します」
一体何だろうと思いながらも、シャルたんとヘンリー様の向かい側の応接用ソファに腰かける。室内には侍女も近衛兵もおらず、3人だけだ。
「シャーリーと婚約する前に、大事な話があってね。僕としては結婚してからでも良いと思うんだけど、シャーリーがどうしてもというから。ほら、シャーリー」
大事な話とは何だろうか?シャルたんが真剣な眼差しで俺を見た。
「カイン、これからする話は王家でも極秘事項となっていて、知っているのは私以外にはお父様、お母様、ハロルドお兄様、サーシャお姉様、ヘンリーお兄様、エラールお兄様と乳母だけです。絶対に誰にも話さないと約束していただけますか?」
え゛…そんな重要な話を今から俺に?聞いていいのだろうか?
あ、だからヘンリー様が一緒にいるのか。結婚前の男女が密室で一緒にいるのは非常によろしくないことだから、近衛兵の代わりにヘンリー様が同席してくださっているということだ。
「分かりました。ですがそのような重要なお話を、私などがお聞きしてもよろしいのでしょうか?」
「ええ。なぜならこの話を聞けば、私と婚約したくなくなるかもしれないから」
俺がシャルたんと婚約したくなくなるような話?そんなこと絶対にありえないけど、もしかして体に大きな傷跡があるとか、痣があるとかそういう話だろうか?
一体何だろうかと緊張していると、シャルたんが話し出した。
「話とは、私の特異体質についてですわ。私には…他人の心の声が聞こえるという特異体質がありますの」
…。
………。
…は?他人の心の声が聞こえる?冗談…って雰囲気じゃないよな。
「ええ、冗談ではありません。本当に心の声が聞こえるのです。大体半径数メートル以内であれば聞こえますわ」
嘘だろ?超能力ってやつ?
「そうですわね、超能力と言っても良いかもしれません。ただ、医者に見せたこともありませんので、なぜ聞こえるのかも分かりませんが」
えっ、ちょっと待って、じゃあ今俺が考えてることも丸聞こえってこと?
「はい、丸聞こえです」
嘘っ、ちょ、ま、待って、もしかして今までも全部聞こえて…?
「出会ってから5年間、カインが何を考えているのか、近くにいる時は全て聞こえていました。申し訳ありません。気持ち悪いですわよね…」
あっシュンとしてるシャルたん可愛い!じゃなくてこれも聞こえてるの?気持ち悪くなんてないむしろ俺のシャルたんスゲー!!あっシャルたんって心の中で呼んでるのもバレてるってこと!?!?
「その、個性的な愛称で呼んでくれているのは嬉しい、ですわ。それより、嫌ではありませんの?勝手に心の声を聞いていたんですのよ?」
俺は不思議なことに、少しも嫌な気分にはならなかった。あるのはシャルたんスゲーという気持ちだけだ。
「それにこの先もずっと心の声が聞かれるということよ。こんな女と結婚なんてしたくないのではなくて?」
「いいえ。確かに考えていることがすべてバレるというのは、都合が悪いと考える人間も多いでしょう。ですが私は誓ってシャルロット様に聞かれて困るようなことはありませんので」
あっいや、気持ちが全部バレてるってのは恥ずかしいけど!でもシャルたんが可愛いと感じるのも、シャルたんのことが大好きなのもどうしようもないし!開き直るしかない。
あーでもやらしいこと考えてるのもバレるのは考えものだけどなって何考えてるんだ今考えなくても良いだろ俺!!
ああほらシャルたんが恥ずかしそうに俯いちゃってるし…あっヘンリー様がめっちゃこっち睨んでる。
「今君が何を考えているのかはなんとなく分かるよ?良いかい、もし可愛いシャーリーを泣かせるようなことがあれば、王家は絶対に許さないからね」
「そのようなご心配は無用です。私は心の底からシャルロット様を愛しておりますので」
言っちゃったー!愛してるとか!カッコつけすぎか?でも実際愛してるし、どうせシャルたんにはバレるんだから良いよな。
「よく言った。その言葉、決して忘れるなよ」
ヘンリー様が満足そうに頷いた。俺もヘンリー様の目を見て、しっかりと頷き返す。
シャルたんは顔を真っ赤にして俯いていた。可愛い。
その後、俺たちは父上と母上が待つ応接室に戻り、国王陛下と王妃様を交えて少し歓談し、婚約の誓約書にサインをした。
貴族や王族の婚約が破棄されることはまずない。これでシャルたんは俺のものだ。




