06
お父様にカインへのエスコート役の打診をお願いしてから数日後、自室で刺繍をしていると、扉の外で待機しているカインの心の声が聞こえてきた。
『エスコートの件、家を通して返事したけど、俺からもシャルたんに直接返事した方が良いかなぁ…?』
ドキン、と心臓が脈打った。カインはどう返事をしたのだろうか。
『うーん、今日は話しかける機会あるかな?なさそうだよな…どうしよう』
私から話しかけた方が良いだろうか?でも何と言って?まさか「私に話があるのでは?」と聞くわけにもいかないし…。
どうしようかと考えていると、私の手が止まっているのを見た侍女が休憩にしようかと声をかけてくれた。
それに返事をすると、私は刺繍を一旦置いて、テーブルセットに座った。侍女がお茶の準備を整えてくれるのを見て、ふとカインをお茶に誘おうかと考えた。
普段私のお茶の相手をするのは侍女たちだが、近衛兵を誘っていけないわけではない。それにこのタイミングで誘えば、カインも私がエスコートの返事を聞きたがっていると察してくれるかもしれない。
私は侍女にカインを呼んでもらうように頼んだ。ほどなくしてカインが入室してくる。
「どうぞ、座って」
「失礼いたします」
『はあああぁぁぁシャルたん今日も可愛い!お茶に誘ってくれるなんて珍しい!超レア!何だろう、また相談かな??』
エスコートの件の返事が聞きたいのだけれど…どうすれば良いのだろう。
侍女がお茶を淹れると部屋の隅に下がる。
「…」
「…」
『お菓子を食べるシャルたん可愛い!あー、いつまででも眺めていられる幸せ…』
静かにお茶を飲んで時間が過ぎていく。
これではいけないと、私は仕方なく話を振ることにした。
「カイン、私の成人パーティーのことなのだけれど」
『あっエスコートの件か!シャルたんに見惚れて忘れてた!!』
「はい。この度は畏れ多くもエスコートという大役を打診いただきまして、ありがとうございます」
「それで、その…」
「正式なお返事は家を通してさせていただきますが、このお話、お受けしたく存じます」
!!
「ほ、本当?無理していない?王家からだから断り切れなかったとか」
「いいえ、そんなことはございませんよ。喜んでお受けします」
『シャルたんのエスコートとか夢かと思って思わず自分で自分を殴ったし』
殴った!?
「エ、エスコートをするということは、婚約者に内定しているということよ?本当に良いの?」
「もちろんです。身に余る光栄です」
『ゆくゆくはシャルたんと結婚…ハァハァやばい興奮しそう』
私は目の前のキリっとした表情のカインの心の声に思わず引いたが、それでも本心から喜んでくれているらしいことに安堵した。
「良かった…無理強いをしてしまうのではないかと心配だったの」
『シャルたん優しい可愛い…好き』
好き!?
今までさんざん可愛いとは言われていたけれど、好きという言葉は初めて聞いたわ…。これは恋愛的な意味で好きということかしら?
ドキドキしてきて、自分の顔が赤くなっていないか心配になってきた。
「無理強いなど…シャルロット様と結婚できるなど夢ではないかと思っているくらいです」
『アッ結婚とかまだ早かったか!まだ婚約すらしてないのに!』
「ふふっ…本当に良かった。カインとなら安心して結婚できるわ」
私は心の声が聞こえて良かった、と思った。