異種の制服許可
今回は、異種の制服についての短い御話です。
異種たちが政界入りしてから百九年目となり、およそ百年の時が流れた。
其の異種の長年の活躍が昨年の冬の復活祭で大々的に称えられ、
異種たちは一人一人大神官から勲章を進呈され、
夏風の貴婦人に至っては異種の代表としてティアラも賜った。
其れは異種たちにとって新たなる前進の一歩でも在り、
ゼルシェン大陸で異種としての存在が公けに認められ、今後も一層、
異種と云う名の下に活動する事が許可された証でも在った。
其れにより、一つの案が通る事となった。
其れは・・・・・。
「よっしゃー!! 制服作るわよー!!」
屋敷に戻って来るなり威勢の良い声を上げたのは、夏風の貴婦人だった。
「御帰りなさいませ」
執事とメイドのチーフ、メイドが出迎えて、肩掛けを受け取る。
其処へ、夏風の貴婦人の帰宅を聞き付けた蘭の貴婦人が、
二階の廊下からエントランスに向かって声を掛けてきた。
「御帰り~~!! 制服、通ったの~~?!」
「通った!!」
ぐっと親指を立てて見せる夏風の貴婦人に、
「きゃ~~!! やった~~!!」
甲高い声で廊下で跳び跳ねる、蘭の貴婦人。
政界で異種が活動を始めてから百九年目にして、遂に異種の制服制作案が通ったのである。
今まで異種たちには制服がなく、仕事の時は各自自分の軍服や礼服姿で臨んでいたのだが、
やはり異種としての看板を背負って動くには制服の存在のインパクトは絶大だと思い、
夏風の貴婦人は以前から制服案を密かに胸に掲げていたのだ。
そして昨年、大神官から御褒めの言葉を授かり、公けの場で異種の活躍を称えられ、
異種後見人のシェパード家のシャルロットと相談の上、制服制作案を議会に提出したのである。
夏風の貴婦人は階段を上り二階の自分の部屋に入ると、手早く私服に着替え、執務室へと移った。
すると蘭の貴婦人が自分の机で、それは、わくわくした笑顔で待機していた。
メイドが冷えたレモネードと茶を二人の机に並べると、静かに出て行く。
早速、其の長いグラスを手に取ると、蘭の貴婦人が喋り出した。
「も~~!! 絶対、通るって信じてた~~!! やったね~~!!」
「ほんと、やっと此処まで来たって感じだわ」
夏風の貴婦人もぐびぐびレモネードを飲むと、白い八重歯を覗かせ乍ら、机に書類を広げる。
「って云う事は~~あとは、デザインだよね~~!!」
「そうね」
「うふふふふ~~」
蘭の貴婦人は妙な笑い声を漏らすと、突然、立ち上がった。
「絶対、通るって信じてたから~~、デザイン考えたのぉ~~!!」
そう言うなり、数枚の紙を夏風の貴婦人の前に並べる。
「どぉ、どぉ?? いいでしょ~~??」
桃色の瞳をキラキラに輝かせてくる蘭の貴婦人の絵に、夏風の貴婦人は目を落とすと、
「却下」
抑揚の無い声で短く言った。
其の容赦の無い一言に、当然ショックの顔になる蘭の貴婦人。
「ええええ!! 何で駄目なの?! 制服、何種類も作るんでしょ?!」
「作るわよ。男三種類、女二種類」
「なら一つくらい、私のデザイン使ってよ~~!!」
「・・・・・」
必死に自分の絵を推して来る蘭の貴婦人を無視すると、
夏風の貴婦人は羽根ペンを持って書類に目を通し始める。
だが、蘭の貴婦人も簡単には引き下がらなかった。
「ね~~!! ちゃんと見てよぉ~~!! 此れとか主にぴったりと思って描いたのよ~~!!」
「・・・・・」
「ほら~~!! 此れとか、すっごく可愛いでしょ~~!!」
「・・・・・」
しかし、夏風の貴婦人は黙々と書類に目を通して、サインをしていく。
其の全く相手にしようとしない態度に、蘭の貴婦人は頬を膨らませると言った。
「じゃあ、誰よ?? 誰が制服考えるのよ??」
其の質問に、漸く夏風の貴婦人が答えた。
「プロに決まってんでしょ」
だが、蘭の貴婦人は驚愕の声を上げる。
「プ、プロ?? プロって、つまり、デザイナーって事?!」
「そうよ。其れ以外、誰が居るのよ」
「ええええ!!」
ばん!! と蘭の貴婦人は両手で机を叩いた。
「そんなの詰まんないわよ!! プロに作って貰うだなんて、在り来たりだわ!!」
大声を張り上げる蘭の貴婦人に、夏風の貴婦人は面倒臭そうに答える。
「いいのよ、在り来たりで」
「何で?! せっかくの制服なのに、何で、あっと驚くのにしないの??
如何にも御決まりな制服になっちゃうじゃない!!」
「いいのよ、御決まりで。遊びじゃないんだから」
「何でよ~~!! ちょっと!! 夏風の貴婦人!! ちゃんと此れ見てよ!!
ほら、凄いでしょう?! ほら、此れ見て!! 此れ、すっごく頑張って考えたのよ!!」
余りにしつこく食い下がってくる桃銀の同族に、
遂に夏風の貴婦人の米神が、ピキィ!! と鳴った。
「あー!! 判ったわよ!! あんたが凄いのは、よぉ~く判ったわよ!! でもねぇ!!」
一呼吸置いて、一気に捲し立てる。
「あんたの凄い制服着たら、私ら速攻、地位剥奪!! 復帰も一生無理ってもんだわよ!!」
其の言葉に途端に、蘭の貴婦人の桃色の瞳が真ん丸になる。
「えー!! えー!! 何、其れ?! 私の絵が下手だって云うの?!」
「下手のレヴェルか!! 何だ此の全身薔薇は?! 何だ此の、全身リボンのピンクの制服は?!
何が背中にキュートな羽根マークだ?!
こんな、こっ恥ずかしい服着て、真面に仕事が出来るかっ!!」
夏風の貴婦人の怒りの咆哮に、蘭の貴婦人は、それは激しいショックを受けた顔になった。
「ひっどーい!! 男の人のは、ちゃんとリボンも花も小さくしてるもん!!
背中の羽根マークの此の服は、とってもシンプルで可愛いのに~~!!
夏風の貴婦人は、此れが駄目だって云うの~~?!」
「有りっ!! 得ん!!」
二人の口喧嘩は、夕暮れ時まで続いた。
果たして蘭の貴婦人のデザインした制服は実現化されるのか・・・・いや、其れは絶対、
有り得ないだろうが。
待ちに待った異種たちの制服は、プロのデザイナーにより、冬に完成した。
異種たちにとって、とてもめでたい一件で在った。
この御話は、これで終わりです。
夏風の貴婦人と蘭の貴婦人の日常風景が伝わったのなら、嬉しいです☆
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