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骸骨より

夜は魔物が活発になる時間帯であり、基本的に旅人達は火を起こしてその周辺で休む。

そしてリイオが旅立って初めての夜。野宿をする為周囲を確かめようと辺りを探る。

何かに蹴躓いたリイオが足元を照らしてみるとそこには首の無い骸骨があった。


リイオが蹴ってしまったことを謝り弔おうとしゃがんだ瞬間、骨が動き出した。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「なんだお前ぇぇぇ!!?!?」

「お前こそ何だぁぁぁ!!」

「剣を!振るな!!!」

「そっちこそなんで骨を振るうんだ!!やめろ!!!」


リイオは骨が突然動いたことに驚き剣を振り回し、骨は骨で突然剣を振り回されたことに驚き自らの腕の骨を振り回す。


カン!カン!と小気味の良い音を鳴らしながら右往左往する2人がそこにはいた。


「一旦落ち着かないか!?」

「おぉ!そうしよう!!!」

「お茶でもどうだ!!!」

「頂こう!!!」


そうして一頻り慌て終えた2人は焚き火の傍で仲良くお茶を啜っていた。


「首がないのにどうやってお茶飲んでるんだ…というか何処から声が?」

「俺にもわからん。魔物的なアレなんだろ。多分。」


お茶を飲みながらよく見てみればその骸骨は首から上が無いが、体を覆う鎧はかなり上等な物に見える。そしてどうも人を襲うタイプの魔物では無さそうなことも雰囲気で伝わった。


「俺はリイオ。……お前は?」

「俺か……俺の名前はジョンだ。一応な。」

「一応っていうのは…」

「下っ端の骸骨に名前なんてないからな。」

「そういう物なのか……悪かったな。蹴っちゃって。」

「あー…いいよいいよ。あそこで寝転んでた俺も悪いし。ところでこんなところで一人でなにしてるんだ?」

「あぁ、旅の途中でさ、ここで野宿でもしようかと思って」

「旅人かぁ。しかし夜は危ないから気を付けないとダメだぜ?凶暴なヤツだっているんだ」

「そうだよな…ところで気になってたんだが、なんでジョンは人を襲わないんだ?」


リイオの脳内では魔物と言えば人に害をなす存在であり、人を見れば一目散に襲ってくるようなイメージしか無かった為、この骸骨が不可思議な存在に思えた。


「んー…俺はさ、元々人間だったんだよ。死んで骨になってこうなったんだ」

「そうだったのか……」

「まぁ、似たようなやつは沢山居て、そいつらは人を襲うけどさ。俺は……なんだろうな。人間の頃の記憶…いや、感覚か。それがちょっと残ってるんだ。」

「人間だった頃?」

「そう、俺は誰かに愛されてた。大事にされてたのさ。その感覚が今でも残ってて……人を襲おうなんて気分にならないんだ」

「随分愛されてたんだな」

「多分な。でも俺で骸骨を分かった気になるなよ?俺みたいに言葉を話せるやつすらここ数十…いや、数百かもしれない年数見たことがねぇ」

「そんなに生きて…生きてるって言うのも変だけど。そんなにこの世界にいるのか?」

「まー時間の感覚なんてないけどさ。ところでリイオ、お前旅と言ってたが何処に向かってるんだ?」

「あぁ、俺はコツナって街に向かってるんだ。ギルドに入りたくてさ!」


そう言った瞬間少しジョンは悲しそうな雰囲気を纏ったような気がした。


「ギルドか……アレは危ないぞ?魔物も人も沢山死ぬんだ。話に聞くようなキラキラした世界じゃない」

「そう……かもな。けど俺は入って冒険がしたいんだ。」

「若いなぁ。まぁ止めないさ。でも死んだらどうしようも無いからな。ちゃんと生き延びろよ?」

「分かってるって。骨になって数十年も彷徨いたくないからな。」

「言うじゃねぇか」


お茶が無くなる頃には2人は友人のように語り合っていた。珍しい経験をしたと思い、リイオは少し考えた後


「なぁ、お前のこと俺の話に加えていいか?」


と聞いた


「話?どういうことだ?」

「俺さ、ギルドに入って冒険して、それを纏めて冒険譚にしたいんだよ!そこにさ、ジョンのことも出していいか?」

「へー、いいじゃん。吟遊詩人とかが唄うやつだな。是非出してくれ…カッコよくな!」

「はは、ノンフィクションだ。」

「マジか……頭探しておくべきだったなぁ」

「なんでジョンには頭が無いんだ?」

「さぁねぇ。どっかのダンジョンにでも落ちてるのかもな」

「……怖いな」

「辞めるなら今だぞ?だが、ダンジョンを踏破した時はそりゃー豪華な景品や賞金が貰えるそうだ」

「そうだよな。少し頑張ってみるか。」

「若人よ、旅をしろ!ってな!さ、少し寝とけ。俺が見張りしててやるよ」

「悪いな……」


会ったばかりの、それも骸骨の魔物の傍で眠るというのは普通ならばありえない事だがリイオはジョンは大丈夫だという確信を持っていた。


リイオは生まれつき人の目を見ればその人が信用できるかどうか分かる能力を持っていた。ジョンに目は無いが、信用出来る人の目を見た時と同じ雰囲気がジョンからは漂っていた。



リイオが確信した通りジョンは寝首を搔くどころか見張りをしっかりとこなし、簡単な朝食まで作っていた。

出発しようとするリイオにジョンは


「ついて行ってやろうか?」


と少し不安そうに声を掛けた。しかし何時までもジョンに甘える訳にもいかないと丁重に断り、今まで付き合ってくれた礼を改めてする。


「なぁ、ジョンはこれからどうするんだ?」

「いつも通りだ。どこかフラフラと彷徨うさ。魔物にも優しいっていう噂の教会を目指してみるのもいいかもな」

「そんな所があるんだな。じゃあ、俺は行くよ!元気でな!」

「ああ!リイオもな!超有名冒険者になっても俺の事忘れないでくれよ!」

「当たり前だろ!」


手を振って別れた後、リイオは歩きながら1人考えた。ギルドに入って魔物を狩る。軽い気持ち…ではなかったが、魔物というのは須らく悪だと思っていた。

しかしジョンとの出会いはその価値観を簡単に変えてしまった。もし、ギルドで狩る魔物も全て良い魔物達だったら?

自分は遠慮なくそれを狩ることができるのだろうか。富や名声の為に……


「悪いヤツだけ、狩ればいいんだよな」


そもそもサラに聞かせる冒険譚に良い魔物の討伐なんて章は必要ない。良い魔物は見逃して、悪い魔物は狩る。簡単な事だと自分に言い聞かせ、さらに歩く。


コツナの街並みは遠くに確認出来る。そろそろギルドへと到達出来そうだ。

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