フェイク65 俺の根源
そこまで記憶がはっきりしているわけでは無いが俺の父親は俺が小学校一年生の時に出て行った。
多分それまでは普通に父親として優しかったと思うし遊んでくれたりもしていたと思う。
だけどその日を境に俺の目の前から突然いなくなってしまった。
母親には感謝している。ここまで俺の面倒を見て育ててくれたから。
ただ、生活の為に働いていたので俺と会う時間はほとんど無く、小学生だった俺にはその事が結構きつかった。
記憶の中にある俺が幼い時の母親は結構笑っていて優しい母親だったと思う。
でも今の俺が知っている母親は、俺への関心が薄く、笑顔の無い人だ。
その影響もあるのか、小学生の時から人に裏切られ、自分の元から人が離れていくことが自分の中でタブーの様になってしまっていた。
だから裏切られ無い様に、人が離れていかない様に、最初から近づかないという選択を自ずとして来ていた。
ずっと十六歳になる今までそのスタンスを続けてきたのに、葵に出会ってしまった。
葵は今までの俺の心のありようなど無かったものの様に、俺に接して来てくれた。
心の距離も物理的な距離も俺が戸惑う時間も無い程に一気に近づいて来てしまった。
自分でも不思議だったが近づいて来てくれた葵を嫌だと思う事は全く無かった。
そこからは、日々葵が俺の凝り固まった心の壁を溶かし壊してくれているのを感じるが、まだ葵以外と近づく事には抵抗感があり、クラスでの立ち位置にも特に変化は無い。
葵にも口にしたが、二年生になってクラスが替われば、俺の心の持ち様次第では、もしかしたら学園での自分も変われるかもしれないとは思うが、まだ頑なな自分も残っている。
所謂、これが拗らせているというやつだろうかと、自分でも笑ってしまいそうになるが、こればっかりは仕方が無い。
一月一日はその後、葵とテレビを見ながら何事も無く過ぎていったが、こんなにゆったりした気持ちで元旦を過ごしたのは久しぶりだった。
しっかり睡眠を取って目を覚まし部屋でまったりとしていると、お昼前にサバイバーの端末が音を鳴らした。
『『ピピッ』』
「やっぱりお正月は忙しいのかな」
「そうですね。モンスターにお正月は関係無いですから。それとやっぱりお休みを取っている方が多いんじゃ無いでしょうか」
「そうだよな。お正月は需要と供給のバランスが崩れてるんだろうな」
「真理を突いているとは思いますが、その言い方はどうなのでしょう」
「ああ、ごめん。特に深い意味は無いんだ。それより準備して早く行こう」
「わかりました」
俺達は準備を終えるとすぐにロードサイクルに跨り現場へと向かう。
俺にはお年玉をくれる人はいないので、お正月の依頼はある意味俺にとってのお年玉なのかもしれない。
「今年は雪が降らないでよかったです。雪が降ると自転車では厳しくなりますよね」
確かに今年は未だ一度も雪が降っていない。例年なら一度や二度ぐらいは降っていても良さそうなものだが、確かに自転車に雪は大敵だ。
この新しい自転車のタイヤも多少は滑り止めの効果はあるのだろうが雪の上ではほとんど無力と化すだろう。
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