一夜の過ち
処女作です。よろしくお願いします。
眩しい光で意識が覚醒する。頭が鈍く痛み、昨夜、何杯もお酒を飲んでしまったことを思い出す。
ずっと寝ていたいが、おでこに硬くて暖かいものが当たっていることに気づく。腰が重いのを感じ、目を開く。
なぜ裸の男が目の前にいるんだ。寝起きで働かない頭を動かして、私を抱き枕にしている男を凝視する。
ほどよくついた筋肉に、すらっとした整った顔立ち、柔らかそうな蜂蜜色の短髪、第ニ騎士団副団長のアルバート・シャノンじゃないか!!
私は自分の身体を見下ろし、悲鳴のような叫び声をあげてしまう。
「なんでぇ!?」
この先を考えると泣きそうになってしまう。よりにもよって、なぜこの好色漢なんだ!
この男は伯爵家の次男で二十歳だが、婚約者はいない。それでも、いつも女性が寄ってくる。物語の王子さまのような顔で優しい紳士だと評判だ。
酷い人じゃなくて運が良かったと思えば良いのだろうか。引っかかった私が悪い。悪い、けれども、この男は私の上司で私は部下だ。問題はこれだ。
同じ第二騎士団に所属しているため、毎日のように顔を合わせてしまう。仕事場で気まずい思いをしなくてはいけないなんて……。
フェノーラ王国では、男女問題を解決するために、女性が働くことを許された。
しかし、女性が働ける職業は少なく、募集人数も多くないため改善されたとは言い難い。
女性が騎士になることも可能になり、少数ではあるが試験に合格した者はいる。
私、ルーナ・シアーズも二年前に合格し、第ニ騎士団に配属された。
私は他の女性よりも頭一つ分背が高い。それを理由に婚約を破棄された。女騎士はいやだとも言われたが、ちょうど良い建前だろう。もうすぐ十九歳になる。いわゆる売れ残りだ。
騎士になったのもあり、結婚は諦めかけていた。でも小さな希望は捨てていなかった。
落ち込んでいると、アルバートの透き通った青い瞳が覗き込んできた。
「おはよう。大丈夫か?」
「おはようございます。えぇ、まぁ。なんでいるんです」
今は目の前にある綺麗な顔が忌々しくて、つい半目でじとっと見てしまう。アルバートはきょとんと子どもっぽい表情をして、ああ、と思い出したように、昨日のことを話す。
「覚えてないのか? 任務の失敗でルーナが気落ちしているようだったから、俺が酒場に誘ったんだよ。それで、二階に泊まったんだが?」
だんだんと思いだしてきた。珍しく誘いに乗って、泥酔して、醜態を晒したのだ。
婚約とコンプレックスについて、泣きながら愚痴った。あぁ、最悪……。
「思い出しました。シャノン副団長、ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。でも、酔っている女性に手を出すのはどうかと思います。さぁ、早くどいて、着替えて」
たいして動かないと分かってはいるが、目の前の身体を押す。アルバートは素直にどいてくれた。
手早く着替えて、腰まである白銀の髪を後ろにまとめ、時間を確認する。今日は朝早くから出勤なのだ。寮の私の部屋に戻って、支度する時間はまだある。
後ろを振り返ると私の目の前にアルバートがいた。美形は心臓に悪い。驚かさないでほしい。
アルバートは私をなぜか真面目な表情で見下ろす。
「ルーナ、俺と結婚してくれ!!」
「……は?」
意味がわからない。聞き間違いだろうか。いや、そうに違いない。
「よく聞こえませんでした。時間がないので失礼します」
「えっちょっ、待って!」
後ろから制止の声は聞こえるが無視してドアを閉める。ふぅ、と息を吐いて、足早に寮へ向かう。
泊まった居酒屋は都の表通りにあり、王宮から遠くない。王宮勤めの者は、部屋もお酒も多いこの店に足繁く通う。
表通りは早朝だから静かというわけではなく、開店準備や散歩をする人々もいる。
さっきのことを思い出す。よくあんな冗談を言えるものだ。
そういえば、副団長に失恋したことは喋ってしまったのだろうか。第三騎士団団長が新婚だと最近知ったのだ。
言っていないといいけど……。