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とびらの少年~「扉の少女」外伝~  作者: K・t
第二章 森の奥でのであい
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第七話 門番と木ふだ

 始めは確かに怖かったけれど、いつしか疲れはそのまま眠りへとネオルクを誘い、再び目を覚ました時にはすでに向こうの方に朝日が見えていました。


 柔らかい感触が頭にあり、気になって起きてみると、それはクェイル自身でした。木に寄り掛かった天使をベッド代わりにしていたようです。


「わっ、ご、ごめん」


 重かったでしょと言い終わる前に天使が寝ていることにも気づきます。しかしすぐに目を覚ましました。


「おはよう」


 まだ夢うつつなのか表情は柔らかです。天使の微笑みにどきりとしながら、ネオルクも「おはよう」と答えました。


 寝ていた時についた服のしわや髪の毛の癖を整えながら立ち上がり、昇る朝日を前に伸びをします。


「あれからどれくらい飛んでいたの?」


 向こうの方まで、切りが見えないくらい木の波が続いていたのに、今はその木々もまばらです。


 森の上をずっと飛んで、途切れた先まで運んできてくれたのですから、相当飛んだに違いありません。


「3時間くらいか。この先にある町は夜間は入れないから朝まで待つことにしたんだ」

「さ、3時間も!? 僕のせいだよね、もっと急いでいたら――」


 驚いて謝ろうとしたら首を横に振られました。


「いいや、ネオルクが高い所が苦手だと気付かなかった私が悪かったんだ。もっと違う方法を考えられたはずなのに」


 心の底から悔やんでいるのが分かります。だから、どうして責めてくれないのだろうと、ネオルクにはそれが辛く思えました。


 決して主に逆らわず命をして守る? そんな価値、自分にあるようには感じられません。


 そこまで考えて、押し問答をしても意味がないと思い直しました。この言い争いはずっと平行線を描いて終結しないような気がしたのです。


「それで、次の町って近いの?」

「あそこに見えるだろう?」


 クェイルが指さした方向は、ここから伸びた道の先でした。森の切れ目が連なって見えます。

 朝日が眩しくて良く分かりませんが、ぼんやりと小さな点のような何かがありました。


「……壁?」


 天使がうなづきます。立って歩くように示されると体力も割と回復していて、歩いていけそうです。


「あれはキリアの町。森が近いから野生動物が悪さをしないように町の周り全体に壁を築いているんだ」

「ふぅん、変わってるんだね」


 ネオルクの住んでいた町にも、森の前に寄った町にも壁などはありませんでした。


 あんなものがあると、住む人たちまで閉鎖的に思えます。ただのイメージだけれども、暗い何かが待ちかまえているような気配が町を包んでいるみたいでした。


 天使の眼差しには影が射しています。目前には次第に大きくなる灰色の壁がそびえ立っていました。



 キリアの町の門は、近くに寄ってみると更にその大きさが肌で感じられました。勢いに圧倒されるとはこのことでしょう。


 ちょうど道の先に門があり、門番が二人、どちらも屈強そうな男が立派な甲冑かっちゅうを身につけ槍を手に立っています。


「通してもらえるかな?」


 武器を見て怖くなり、ネオルクは小声で話しかけました。

 斜め上にある顔は焦りなど全くなしといった風ですが、この天使の場合滅多に表情を崩さないので本当のところは分かりません。


「大丈夫。さぁ」

「うん」


 差し出された手を取り、門の前に向かいます。それは鉄製の重そうな扉でした。


「待て」


 通ろうとするとやはり呼び止められ、二人は質問されることになりました。いえ、これは詰問や尋問でしょうか。


 しかし、門番の仕事は門を守ることなのですから仕方ありません。


 特にこちらは森から来る者達の通る門です。他の出入り口以上に見張りを厳しくする必要があるのでしょう。


「町に入りたいのですが」


 淡々と口上のようにクェイルが述べます。その尊大とも取れる態度にネオルクの方は内心ハラハラです。


 二人の門番の内一人だけが近寄って来て、じろじろと眺められました。


 手に持つ槍はすばらしい装飾が施されていたものの、少年にはきらりと光る切っ先の恐ろしさしか目に入りません。


 尖った刃がまるで自分という獲物を欲しているようで、そう考えてぞっとしました。


「身分を保障する物はあるか」


 そんな物はありません。当たり前です、彼は家を捨ててきたようなものなのですから。クェイルも似たような状況であるはずです。


「これでいいでしょうか」


 えっ?


 どうしようと戸惑っているネオルクをしり目に、天使は至極しごくあっさりと頷き、袖口から木で出来た札のようなものを差し出しました。


 門番に対して効果があったことは明白でした。顔色というか目の色というか、とにかく何かが変わったからです。


 男は急いで持ち場に戻り、門に前に残ったもう一人に耳打ちしました。するとそちらも同じ反応を見せます。


 さっと脇に避け、中にいるらしい仲間に向かって呼びかけます。すぐに門が重く引きずる音をたてて左右に開きました。


「お通り下さい」

「え、いいの?」

「はい、どうぞご自由に」


 ネオルクには何が起こったのか全く見当がつかず、出来たことと言えばひたすら連れの顔を伺うくらいです。握った手を離さないようにそそくさと門を抜けました。



「どうやって通してもらったの? 何を見せたの?」


 町は外からは想像もしないほど活気に満ちているようでした。しばらく歩き、にぎやかな人混みに入ったあたりで思い切って聞いてみます。


「これのこと?」


 カラン、乾いた音を立てたのはひもで繋がれた、木の札が何枚か連なった物でした。


 手のひらからはみ出す程度のそれには、木目に消されない鮮やかな赤で文字が書かれています。さらさらとした文体からして、誰かのサインでしょうか?


「これ、誰かがくれたの? クェイルの知り合い?」

「そう」

「なら、とってもえらい人なんだね、すぐ通してもらえたから驚いちゃったよ」


 ざわざわとした人の行き交う中に漂う空気は、二人きりで心細かった森にいたときより落ち着きます。


 と同時に、旅の疲れが一気に戻ってきたのか体に重みを感じました。やはりきちんとした場所で寝るのと、そうでないのとでは差が出るようです。


 ふらついた体をクェイルがさっと支え、気遣わしげに人通りの少ない通りへと彼を導きました。


 商店が建ち並び露天も多い大通りとうって変わって、民家の家並みはひっそりと静寂の中にたたずんでいます。


「今日はもう休もう」

「え、けど」

「そんなに急ぐ必要はない。……まだ」


 言い方には引っかかりを覚えましたが、二人はこの町の宿屋を目指すことにしました。


 土地勘がないので迷うかと思ったネオルクの予想に反し、クェイルはこの町に来たことがあったようです。


 狭い路地をうように歩き、すぐに目的地へと辿り着くことが出来ました。


 来たことがあるのかな? ……不思議だな。


 多くを語らない天使。それに不満を感じても不信感はわいてきません。「人」でない彼らの成せる力なのでしょう。

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