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1. 四天王最弱の男、勇者に殺される


「勇者とその仲間達がガドゼフ城に接近中との報せが!」

「やっと来たか。 待ちくたびれたぞ」

 頭部に雄々しい2本の角が生えた、筋骨隆々とした巨体の魔族が、配下の報せを受けて玉座から立ち上がった。

 この魔族の名はガドゼフ、魔王軍四天王の一角にして、魔王軍最強の剣士と呼ばれている。


 勇者アデルと呼ばれる人間に敗れ、多くの魔族達が命を落としていることは、随分前から魔王軍で噂になっている。ガドゼフは亡き同胞の敵を討ちたかったが、勇者が自分の城にたどり着くのを何年も待ち続けた。玉座の間で戦う自分の姿を配下に見せたかったからだ。そして、配下達もまた彼の戦いを心待ちにしていた。



 ガドゼフは勇者との戦いを前に、城内の配下を玉座の間に集めた。


「いよいよ待ちに待った勇者との決戦だ! 我はこれから戦いの準備をする! しばらく勇者の足止めをするのだ! 我が倒すから殺してはならんぞ!」

「「はっ! お任せください!」」

 配下たちは一斉に答え、勇者のもとへ向かった。


(勇者め……なんというタイミングの悪さなのだ。まだ掃除が済んでいないぞ)

 運悪く昨日、ガドゼフ四天王就任50周年記念で盛大な宴を開催したため、玉座の間には酒瓶や残飯が散乱していた。散らかった部屋で戦いたくないので、配下達に時間稼ぎを命じ、ガドゼフは一人で部屋の掃除を始めた。



 3分後、箒で床を掃くガドゼフのもとへ、配下の一人が足を引きずらせながら戻ってきた。

「ガドゼフ様……申し訳、ございません…… 足止め、できませんでした…… じきに、勇者が来ます……」

「もう勇者が来るのか!? 何体かは掃除させるべきだったか……! 他の者達はどうしたのだ!?」

「皆殺されました…… 恐ろしい強さです……」

「馬鹿な……!? この短時間で……?」


 ガドゼフは思わず箒を手放した。片付いていない部屋で勇者と戦うのは避けたかったが、配下たちが殺されてはそれどころでない。

(勇者はそれほどまでに強いのか!? だが、魔王軍四天王である我が敗けるはずがない!)


「安心しろ、この我がいる。ギズロは後ろで見ているのだ」

「ガドゼフ様……!」


 生き残った配下のギズロは涙を流し、ガドゼフの逞しい背中を見つめていた。



 間もなくして、光り輝く剣を持つ黒髪の男を先頭に、4人の者たちが玉座の間に足を踏み入れた。

「よく来たな、勇者とその仲間達よ……我が名はガドゼフ! 魔王軍して――」

「お前が魔王か」

「え?」

 ガドゼフは突然の出来事に唖然とする。軽く瞬きをした瞬間に、玉座の間の入口にいたはずの勇者が目の前に立っていたのだ。

(いつの間に!? なんという速さ!)


 勇者は長身のガドゼフを見上げながら睨みつけた後、持っていた剣で勢いよく薙ぎ払った。

 ガドゼフは慌てて大剣を構え、勇者の剣を受け止める。だが、防ぎ切れず吹き飛んで、玉座の間の巨大な柱に叩きつけられた。

(こ、この人間、魔王軍一の怪力である我を相手になんというパワー……!)


 柱にめり込んだガドゼフは抜け出す間もなく、距離を詰めた勇者に剣で胸を貫かれ、直後に腹部に膝蹴りを受ける。

「ごふっ!!」

 勇者の攻撃によりガドゼフの体から血が吹き出し、めり込んでいた柱は粉砕された。 魔王軍一の強靭な肉体をもつ彼が、血を流すのは初めての経験だった。あまりの痛みに、瓦礫の中でうずくまる。


「ガドゼフ様…… 今お助けします……」

 ギズロはガドゼフの盾となるため勇者に立ち向かうが、勇者の放った雷魔法を受けてピクリとも動かなくなった。



「ギズロォ! 許さん……! 魔王軍最強の剣士であるこの我が、配下達の無念を――」

ズバッ!

「がぁあああああああ!!」

 ガドゼフは決死の覚悟で立ち上がるが、勇者に一矢報いることも叶わず、体を大きく切り裂かれて膝から崩れ落ちた。


「ま、待て…… せめて最後まで言わせ――ぐぁあああああああ!!」

「黙れ。 魔王の話など聞く必要はない」

「いや、我は魔王様では――ぎゃああああああああ!!」



 その後、玉座の間で横たわるガドゼフに、勇者は容赦ない剣撃を浴びせ続けた。そして、ガドゼフは動くことも、声を出すこともできなくなった。


(こんなことなら、掃除などせず逃げておけばよかった…… いや、勇者が弱いうちに倒しにいくべきだった……)


ズバッ!バシュ!グシャ!

(我ですら敵わない勇者を、一体誰が倒せるというのだ……)


ズバッ!バシュ!グシャ!


(配下達に申し訳ないことをした…… あの世で謝らねばならんな……)


ズバッ!バシュ!グシャ!


(…………………)


ズバッ!バシュ!グシャ!


(我はいつまで斬られているのだ? そろそろ死にたいのだが? もう斬られるのは嫌なのだが?)


ズバッ!バシュ!グシャ!


「うーん、魔王と言っても大したことなかったね」

「だが、アデルの攻撃を受けてまだ生きている。なんという生命力」

「魔族の王なんて存在、許せるわけがない。確実に息の根を止めて」


ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!ズバッ!バシュ!グシャ!









 その頃、3体の魔族が、はるか遠い地からガドゼフが勇者アデルに斬り刻まれる様子を眺めていた。


「ガドゼフがやられたようですねぇ…… 人間に殺されるなんて可哀想に……」

「あやつは魔王軍四天王の中で最弱。仕方あるまい」

「でも、勇者強くない? お前ら勝てんの?」

「「…………」」


「勇者が死ぬまで世界征服は諦めませんか?」

「「賛成」」



 こうして、勇者アデルの功績により、世界に平穏が訪れた。


以前投稿していたのを書き直すことにしました。

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