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第一章 目覚め
無節操に伸びる蔓草、無数にある白い花の蕾。
ひとつの蕾が大きく膨らんで花開くと、中に人間に似た生物が静かに寝息をたてている。
ゆるくウェーブのかかった純白の髪がふるりと揺れると、ばら色の頬の上にある大きな目がゆっくりと開く。瞳は鮮やかな新緑の色だった。
人間でいうのなら十代のなかば程に見える生物は、小指の先ほどの大きさもない。
服を着替える子供のように幼い動作で蕾から足を抜くと、ごろりと蔦の上に転がった。
「急がなきゃ、急がなきゃ……」
小さな声で呟いて、起きあがる。
猿のように蔓草に足をかけて、自分が行ける一番高い場所までよじのぼると、小さな生物はキョロキョロと慌てて周囲を見まわした。
周囲には背の高い草が少なく、天辺に上れば視界は開けている。
遠くを見つめて探し物を見つけたのか、小さな生物はすぐに安心したような笑みを浮かべた。視線の先には、他の植物よりも背が高く、赤紫色の花穂をつけた植物が風に揺れている。
「まだ、目覚めてない」
小さな生物『花迎え』は、遠くを見つめたまま、大粒の涙を落とした。