第六話 実戦形式で訓練を始めた。
それから一年が経ち、俺もメリーナも八歳になった。メリーナは俺の助言を受けた上で試行錯誤した結果、完全燃焼している蒼い炎を作り出す事が可能となっていた。
今までより威力が高く、魔力効率も良い。しかも、《連弾の扱い》の恩寵のおかげか、連射もできる。その上、《魔力制御の妙》があるためか、自由自在に操ることができる。
一方、俺はというと中々レベルが上がらず、《剣の心得》と《剣体の扱い》がレベル5になった途端ほとんど経験値は得られなくなっていた。
「もうこの方法でレベルを上げるのは無理か・・・。やっぱりそろそろ実戦が必要なのかな・・・。」
今まで素振りと枝を手刀で切ることだけで経験値を得てきた。しかし、魔物と対峙して討伐したことはない。そもそもこの村の周囲には魔物が少なく、村に駐留している護衛役の冒険者だけで充分守れる程度だ。村の外に出て魔物を探したところですぐ見つかるものではないだろう。
「実戦・・・、実戦か・・・。メリーナと実戦形式で訓練してみようか。」
俺はメリーナと実戦形式で訓練する事を思いついた。しかし、今のメリーナは数十の蒼い炎弾を自由自在に操る事ができる・・・。確実に負けるので、手加減してもらわないといけないだろう。男としてはかなり格好悪いが背に腹は変えられない。
そう考えた俺は、いつも通りメリーナと二人でレベル上げをしている川辺に来た。
「メリーナ。今日からは実戦形式で訓練しようと思うんだ。」
「実戦形式?あたしとクロトで対戦するって事?」
首を傾げるメリーナ。相変わらず可愛い。・・・違う、そうじゃない。
「そうだ。ルールは最初にある程度、距離を取っておいて、メリーナは魔法を一回でも俺に当てられたら勝ち。俺はメリーナに触れたら勝ちだ。」
「面白そう!でもクロト、危なくない?」
「うん。俺も危ないかどうか分からないから・・・、最初は出来るだけ弱い魔法を一発にしてくれ。問題無ければ徐々に数や威力を増やしても構わない。」
「わかった!やってみたい!」
俺の提案に、メリーナは嬉々として頷いた。それを確認した俺はメリーナから三十メートルほど距離を取った。
「今から石を投げるからそれが地面に落ちたら訓練開始な!」
「うん!わかった!」
俺は手頃な石を拾い俺とメリーナの中間くらいに落ちるように放り投げた。五秒ほどで石は地面に落ち、すかさずメリーナが炎弾を撃ち込んできた。
「げっ!」
メリーナが放った炎弾は大きさこそ拳大の小さなものだったが速さが異常だった。炎弾が現れたと思った次の瞬間には俺のすぐ目の前に来ていた。
俺は咄嗟に炎弾を避けつつ手刀で斬りつけた。すると、炎弾は真っ二つに裂け程なくして掻き消えた。
「はぁ・・・、はぁ・・・、やばかった。直撃したかと思った・・・。」
炎弾を斬った腕は少し熱い程度で火傷などは全く出来ていなかった。反射的に手を出してしまったが、まさか手刀で魔法が切れると思わなかった。《剣体の扱い》のお陰だろうか。この世界の魔法は剣で切れるのか?
「やっぱりクロトはすごーい!これならもっと数を増やしても大丈夫だよね!」
「え、ちょ、ちょっと待ってメリーナ。今のはただの偶然だから。たまたま運が良かっただけだから!」
そう燥ぐメリーナは俺の言うことにまったく聞く耳持たず、炎弾を作りだす。計五発の炎弾を俺に向かって撃ち出してきた。
「ちょっ、ちょまっ、まって・・・!」
俺は慌てて炎弾を迎え撃つ体勢を取った。
一発目の炎弾は顔に向かって飛んできたので、体を右前に押し出しつつ右手で破壊。二発目は左から体の中心に向かってきたので左手の突きで対処。三発目は足を狙って来たので飛んでやり過ごしつつ、頭上から来た四発目を右手で斬った。真正面から来た五発目と戻ってきた三発目が前後から同時に向かってきて挟み撃ちにされたが両手の薙ぎ払いで打ち消した。
「・・・意外となんとかなるな。」
前世では控えめに言っても運動音痴でインドアな俺だったが、恩寵のお陰なのか、スムーズに体が動く。どう体を動かせば良いのかがイメージとしてなんとなく浮かんでくる感覚がある。そのイメージ通りに体を動かせば、対応できるのだ。
「すごい、すごい、すごーい!」
メリーナは大燥ぎだ。そのテンションのまま今度は十数個の炎弾を作り出している。
「さ、さすがにやばくないか・・・?」
俺は引き攣った顔で冷や汗をかいていた。
「行くしかないか!」
覚悟を決めて、俺はメリーナに向かって走り出した。十数個の炎弾が飛来する中を駆けていく。炎弾を躱し、飛び越え、手刀で斬り進んでいく。自分が思っていた以上に体が動くし、スピードも速い。ここまで本気で体を動かしたことは今まで無かったので、自分自身の身体能力を把握していなかった。
「クロト、すごい!すっごーい!」
そう燥ぎながらメリーナは炎弾を追加していく。さっきから「すごい」しか言ってない気がするぞ・・・。燥ぐのは良いが、炎弾が追加されてはこっちがどんどん追い込まれていく。
「だあぁぁぁああ、らあぁぁぁ!」
雄叫びをあげて、自らを鼓舞しながらメリーナに向かって突き進む。次から次へと炎弾が追加され、視界がほとんど蒼に塗り潰されていくが、手刀で一つ一つ斬り裂き炎弾を消したり、回避したりしながら進む。
そしてようやく、メリーナに辿り着き、その肩に手をかけた。大した時間ではないはずだが、体感的には非常に長く感じた。
「よし!」
「すごい!すごかったよ、クロト!」
「あぁ、まぁな!」
メリーナが抱きついて来たが、俺は何とか虚勢を張ることができた。正直ギリギリだった。よくメリーナの下まで辿り着くことが出来たと自分で自分を褒めたいくらいだ。
『《剣の心得》がレベルアップしました。《剣体の扱い》がレベルアップしました。』
『《剣の心得》がレベルアップしました。《剣体の扱い》がレベルアップしました。』
『《剣の心得》がレベルアップしました。《剣体の扱い》がレベルアップしました。』
『《剣の心得》がレベルアップしました。《剣体の扱い》がレベルアップしました。』
『《剣の心得》がレベルアップしました。《剣体の扱い》がレベルアップしました。《剣の心得》が《剣の極意》にランクアップしました。《剣の心得》が《魔断剣の扱い》に派生しました。《剣体の扱い》が《剣体の心得》にランクアップしました。』
「おおう。」
怒涛のレベルアップを告げる声が頭に響く。
「どうしたの?」
「あぁ、恩寵のレベルが上がったんだよ。やっぱりこの方法は間違ってないみたいだ。」
「ほんと?やったぁ!あたしも楽しかったし、もっとやろうよ!」
「そうだな。今度は最初から手加減無しで頼む。」
「うん!」
その日から、メリーナと実戦形式での訓練が始まった。
始めのうちはランクアップした影響もあって身体能力が向上した俺が優勢だったが、メリーナの方も色々工夫して様々な魔法をどんどん作り出していき、勝率はだいたい五分五分で安定していった。