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魔王が存在する異世界に転生したけど、勇者は存在しないようです。  作者: 玄野
第一章 異世界に転生しました。
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第二話 先輩冒険者から情報収集をした。

「おーい、クロトー?朝御飯だぞー。」

「はーい」


部屋の外から父親を俺を朝食に呼ぶ声が聞こえた。

俺はその声に応えながら急いで着替えを済ませて部屋を出た。


「おはよう、お父さん、お母さん」

「おはよう、クロト」

「おはよう。今日は随分お寝坊さんなのね。」


朝御飯が並ぶテーブルに座っていたのは、父親のオスカルトと母親のエルシアだ。二人が俺を五年間育ててくれた現世の両親である。パッと見の外見では、前世の俺よりも若いのではないだろうか・・・。


「今日はちょっと朝の体操をしててね。」


食卓に来るのが遅れたことを適当に誤魔化しながら、食卓に並んだ料理を食べ始めた。料理の内容は黒パンにスープにサラダと質素なメニューだが、うちが農家という事もあり、野菜だけは十分な量があった。個人的嗜好から言えば肉が足りないが。


「そういえば、クロトは明日が恩寵を授かる日だったね」


食事の最中に父がそう切り出した。


「うん。そうだよ。どんな恩寵を授かるのかいまから楽しみで仕方ないよ。」

「クロトはどんな恩寵を授かるか・・・。やっぱり農業に関する恩寵かな。」


うちは農家なので、俺が跡取りになる事を父は期待しているのだろう。農家が悪いとは思わないが、前世は半引きこもりのような生活だったので、できれば村の外に出たい。


「お父さん、僕、冒険者になりたいんだ。」


なので、俺は自分の希望を口にした。記憶が戻るまでの俺は冒険者になりたいなどという素振りは少しも見せていない。両親の反応が気になるところだ。


「冒険者!この村にいる『大地の剣』に憧れたのか?」

「クロト、冒険者は危険な仕事なのよ?いつ命を落とすかわからないんだから。」


母が俺のことを心配してそう言ってくれた。しかし、俺には家業を継ぐ気は今のところない。


「うん。知ってる。でも冒険者になりたいんだ。」


父と母にそう言われたが、俺は自分の希望を押し通した。・・・昨日までと同じ口調になるように喋っているが、若干鳥肌が立ってきた。


「そうか・・。まぁ、それも恩寵次第だな。戦いに向いた恩寵ならいいが、そうでないなら、冒険者になるのは諦めなきゃならない。」

「うん。それもわかってる」

「そうか。わかっているなら俺はもう何も言わん。冒険者に向いた恩寵を授かったら好きに生きるといい。」


意外にも父は俺の希望を認めてくれた。


「お父さんがそう言うのなら、私も認めるしかないわね。心配だけれど。」

「ありがとう。お父さん、お母さん。」


話をする前は少し緊張していたが、冒険者になることを家族に認められて一安心した。理解ある両親の元に転生できたことは幸運だったと思う。これで認められなかったら家出同然で村を出ていかなければならないところだ。




朝食を終えた後、俺は自分が生まれた村を改めて見て周ることにした。といっても、小さな村であるため、全部見て周っても数時間と掛からないのだが。


ただ、畑だけは広大な範囲に広がっている。農耕機械が無いことを考えると、村の人口に対してあまりに広すぎる。そんな広大な畑を少ない人口で管理できているのは、恩寵の力によるものだ。父、オスカルトは農業に関する恩寵を持っている。


詳しいことは知らないが、父は畑を眺めるだけで、苗の状態が大体わかるなど、農業に関する様々な力を持っている。他にも農具作成に関する恩寵を持った人もおり、その恩寵を持った人が作る農具は前世の知識からは考えられないほど効率的に作業出来るようなものらしい。そのような事情があり、前世と違いトラクターなどが無いこの世界でも、少ない人口でこの広大な畑を管理できるらしい。




村を見て周っていると、村の入り口付近で警戒任務に当たっている冒険者達を発見した。たしか、『大地の剣』という名前のD級冒険者パーティーだった。パーティーメンバーは3人でそのうちの一人が地属性魔法を得意とするため、そのようなパーティー名になったと聞いている。


「魔法・・・。やっぱりこの世界には魔法が存在するのか。異世界転生の醍醐味の一つと言えば魔法だよな。俺も使えるようになれるといいな。」


冒険者の先輩となるかもしれない『大地の剣』のメンバーから話を聞いてみたいと思い、俺は『大地の剣』に話し掛けてみることにした。


「こんにちは!」

「おう、どうした坊主?」


応えてくれたのは『大地の剣』のパーティーリーダーっぽい男だった。年の頃はだいたい二十代になっていないくらいだろうか。


「僕はクロトと言います。将来、冒険者になりたいと思ってます。それで、お兄さん達のお話が聴きたくて・・・。」

「お、そうか。見上げた坊主だな。俺はディラン。D級冒険者だ。」

「私はエミリー。そっちのデカいのは、ランバートよ。2人ともE級冒険者なの。」

「・・・・・・」


ディランは剣士、エミリーは杖を持っているから魔法使い、ランバートは身長が2mくらいあって体に隠れているが、斧を持ってるから斧士だろう。エミリーがパーティー名の由来となった土属性魔法使いなのだろう。『大地の()』なのは、リーダーが剣士だからかもしれない。


「で、坊主の恩寵はなんなんだ?」

「僕は明日、恩寵がもらえるんです。」

「それは・・・、恩寵次第で冒険者になるのは難しいかもしれないわよ?」

「わかってます。その時はその時ですけど、今は冒険者になりたいと思ってるんです。」


正直に言って、恩寵が冒険者向きじゃないものだった時のことはあまり考えたくはない。もしも、農業系の恩寵だったら一生この村で過ごすことになるだろう。前世で読んだ異世界転生モノにも農業系が無いではなかったが、この世界の農業系の恩寵はチートレベルだ。ただし、戦闘には向かない。そうなるともう、無双を諦めるしかないだろう。そもそも、農業にはあまり興味がない。


「こりゃ、将来大物になりそうな坊主だな。よっし、俺が冒険者について色々と教えてやるよ!」

「よろしくお願いします。」

「よーし、それじゃあ、そうだな・・・。あれは俺がまだE級冒険者だった頃の話なんだが・・・」


そうして、D級冒険者である『大地の剣』から色んな話を聞いた。ゴブリンの群の討伐やオークの討伐の話、盗賊からお姫様を救ったなんて話もあったが、後ろの2人が苦笑いしていたことから恐らく作り話だろう。昇級に関することも聞いてみたが、適当にはぐらかされてしまった。試験に関わることなので口止めされているのだろうか。


結果、《ルインノールの基礎知識》を超えるような内容のものは無く、知識という意味ではあまり実りがなかった。しかし、実体験に基づく経験者の話はリアリティがあった。おそらく子供向けに多少脚色して話してくれたため、より一層冒険者への憧れを強めることとなった。




『大地の剣』と話をした後は村の広場に来た。普段通りなら、村の子ども達がここに集まりみんなで遊んでいるからだ。


「クロト、おはよう!」

「おはよう、メリーナ。」


声をかけて来たのは幼馴染の女の子、メリーナだった。メリーナとは同い年だが誕生日は俺の方が少し早い。


「今日は遅かったね、クロト。何してたの?」

「『大地の剣』の人達とちょっと話をしてたんだよ。」

「えー、クロトひとりでずるーい。あたしも一緒に行きたかったのにー。」


メリーナはこんな田舎には似つかわしくないほど可愛い女の子だ。この村では年が近い俺の後をいつも付いて周っている。昨日までは特に気にしていなかったが、前世の記憶を取り戻した今となっては中々に気恥ずかしい所がある。


「ごめん、ごめん。急に思いついたことだったからさ。許してよ、メリーナ。」

「うー、じゃあ、今日はずっと一緒に遊んでくれたら許してあげるー。」

「ありがとう。」


その後、夕方になるまでおままごとに付き合わされた。この年でおままごと・・・、と思わなくもなかったが、今の俺は五歳児だ。甘んじて受け入れることにした。


それに、記憶が戻ったといっても、肉体的には子供だ。精神は肉体の状態に引っ張られるとどこかで聞いたことがある。そのためか、おままごとは意外と楽しかった。




夜になり、夕食を済ませ普段なら寝ているはずの時刻になっても俺はベッドの中で眠れずにいた。


「ついに明日、恩寵を得られるのか。今日までの人生とは別物になるかもしれないと考えると、ドキドキして眠れないな・・・。」


どんな恩寵が得られるのか。恩寵を得た後、どうやって自分を鍛えていくのか。そんな想像をしていると全然眠れる気がしなかったが、今の身体は五歳児。すぐに限界が来て徐々に眠気が増していき、いつのまにか眠っていたのだった。


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