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産まれたクローンは数日間保育器で過ごすことになる。保育器とはいってもゆっくりと円を描きながら傾斜の角度を変える籠でしかない。そこで過ごす――閉じ込めると説明すべきか――事で筋肉が重力の変化に自動的に反応して最適な体勢を取ろうとする為、籠を動かせば強制的に基礎筋肉を付ける事に繋がる。デメリットとして三半規管が狂い嘔吐を繰り返す事になるがこれが最も早いのでその点は割り切る事にした。
「飯の時間だ」
「お腹、へりましたけどのど、いたいです」
嘔吐を繰り返したことで胃液に焼かれた喉の不調を訴えてきたが無視した。
今回のクローンはナタと仮の名前を付けた。日本では物語の影響も有りナタクと呼ばれることのある中国の物語に登場する人造仙人の名前……でもあるが、本当は特に考えも無く適当に音で名付けた。俺自身も理由は理解していないが名付けようと思った時期に丁度小野の意外な面を目にした後でもあったので無意識に小野から斧、刃物、鉈とインスピレーションが繋がった可能性を自分で疑っている。今まで金にしか興味が無いと思っていた小野が最初に交わした約束を守ろうとしていたことが俺としてはかなり意外だったので、その意外性が回り回ってこのクローンにナタと名付けさせたというのはだじゃれのようだがありえない話でも無かった。
「自分で動けるようになればその籠から出してやる。そこが嫌なら早く動けるようになれ。とにかく飯だ」
「はい……」
ナタは吐瀉物のつんとしたにおいのする籠の中で悲しそうにそう答えた。目隠しをされて髪の毛も伸び放題のその姿は何らかの稀少生物のような異質さを携えている。
一旦籠を止めて格子の隙間からホースを伸ばしていきナタの胸に当てる。ふるふると震えながらも身体を起こしゆっくりと両の腕でその先端にかぶりついた。燃料、つまりは飯用のホースからひねり出されるレーション混じりの流動食をナタは必死で舐めだした。
筋肉の付き方も悪くなく、食欲も旺盛。このままであれば数日中には籠から出せそうだなと思いながらナタをじっと見つめていた。




