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ハイライト ⑤

 少し考えて、1つの仮説に辿り着いた。


新しい【セーブポイント】を作ったのはGLOだ。彼は《セーブ》した時点ですでにオレに対しキレていた。だから、彼は自分でこれからどう動くのかをある程度予測できてるし、その結果としてオレが 《リセット》 することも織り込み済みなわけだ。 《リセット》 した理由がオレの過去に遡っての逃亡を阻止するためなのか、彼自身がオレに対し抱いた怒りの感情を忘れてしまわないようにするためなのか、は分からないが。


 ぞくりと総毛立つのが分かった。まるで電気が爪先から頭のてっぺんまで駆け抜けたように感じた。


 特に面白くもなさそうに花壇の方を向いているこいつの目に、花なんて映っていやしない。何も見てやしないんだ。いまのこいつは全神経をオレの方に向けて、≪リセット≫ 後のオレの挙動を探っている。呼吸音、微かな衣擦れ、果ては心音までこいつの耳に拾われていそうだと思った。


「ん? PAO? どうした?」


 彼が尋ねてきた。質問口調だがこいつはオレがどうしたかを知っている。さすがに ≪リセット≫ を繰り返してきた中での出来事までは知る由もないだろうが、少なくともオレが彼に殺されそうになったから ≪リセット≫ を使った、ということは確信しているはずだ。なのにこれまでのこいつの様子ときたら、まるで先のことなんて全く知らないって振りをして、オレの言動をいちいち面白がっていやがったんだからな。


「なあ、GLOってさぁ、もう怒ってんだろ?」


 沸々と湧き上がってきた怒りに蓋をして、オレはそう尋ねた。この問いにも彼の表情はピクリとも動かない。さっきのオレのちぐはぐな言葉の方が彼にとっては予想外であり興をそそるものだったのだろうことが伺われる。


「ふ~ん、分かった? ちなみにいま何回目の ≪リセット≫ なんだ?」


彼はオレが看破してみせたことにも驚くことなく、つまらなそうにそう尋ねてきた。


「一々数えてねえけど3、4回目くらいかな」

「で、まだ何かしてみる?」

「そうだな・・・・・・話をしようか」


 彼から逃げるのではなく、彼の怒りを鎮めるための話をしようと思った。だがそれは余計に彼を怒らせる結果になった。どうやら彼はこの手の話には全く関心がなかったらしい。オレが何を言ったって彼にとってはオレの言い訳、助かりたいがための口上でしかないようだった。


 だからオレは ≪リセット≫ して彼と殴り合うことにした。彼を一時的にでも足腰立たなくしておいて、お屋敷の中のDCO、HDK、MHKの内の誰かにこの窮状を伝えようと思ったんだ。そうしてその3人の誰かに ≪リセット≫ をしてもらえば、ひとまずGLOとオレの傷は回復するし、どのくらいの猶予があるかは分からないものの、オレが1回目の ≪リセット≫ をするまでにだって多少の時間はあるんだ。その間に ≪リセット≫ をした人に助けに来てもらえば、この窮地を脱することができると考えたんだ。


 ま、結局、これも上手くいかなかったがな。


 正々堂々とやってダメなら不意を突いてやろうと試してみたが、オレの渾身のパンチも蹴りも彼にとっては子供がじゃれてる程度らしいんだな。レベルが違うんだと痛感させられたよ。彼は姿形は人の真似をしてるが、中身はすでに人じゃなくなっていた。トランプを自在に出してみせられたときには、異世界だからってのもあってそこまで人外という印象は受けなかったんだが。とはいえ、彼より上にDCOがいて、HDKもMHKも彼より上なのだと思うと内心笑うよりほかなかった。さっさと日常に帰りたくなった。この窮地を脱しても、この異世界って場所にいるかぎり安心は得られないような気がした。


 GLOに打ち勝つのが不可能だと悟ったとき、≪リセット≫ 直後にオレは即座にベンチから跳び上がり逃げ出した。そのときはすでに頭の中は真っ白だった。ただ死にたくない一心だった。まさかこんなところで、と、ある時点からずっと考えていた。魔王が倒れてみんなは喜び勇んで召喚師達による祝福と感謝を享受しているというのに、オレときたら、誰も予想し得ない場所とタイミングで死と直面してるんだからな。


 走ってると背中を押されたような感覚があって、オレは前方に激しく転倒することになった。無様に手を付いたから、手の平がやや擦り切れた。そして、しばらくの間、オレは自分の息をする音を聴きながら、手を付いたまま地面を見詰めていた。GLOがオレの背後から前へと歩いてきた。


「おい、まさかこれが1回目の ≪リセット≫ じゃないよな?」


 彼がしゃがみもせずに立ったままそう言った。そう、こいつにとってオレの ≪リセット≫ 後の行動はいつも初めての出来事ってことになってるんだ。あるときは2回以上 ≪リセット≫ したことを見抜いてみせるが、あるときは何度目の ≪リセット≫ なのか全く予測できていなかったり。だから彼は気楽なもんさ。この最新の【セーブポイント】とその後5~10分あたりを何度も往復して疲労させられているのはオレだけだ。


「知らねえよ」


 オレは地面に向かってそう呟いた。まともに受け答えするのもバカらしかった。【セーブポイント】と ≪リセット≫ 間の無限ループ。ループからの出口は1つ。彼に殺されることだけ。よくもこんな意地の悪いやり方を考えたもんだ。出会い頭にドスっとやるよりも胸糞悪いやり方だと歯痒く思ったこともあったが、いまはそれさえどうでもよかった。死にたくはなかったが、腹は立つが、もう彼の好きにさせるよりほかに何もなくなっていた。


「もういいよ」


 彼の方は見ずに言った。彼の顔はいささか見飽きた。オレのこの姿を彼がどんな顔で見ているのか、なんて知りたくもなかった。


「あ?」


 彼が短く、不満も露わに聞き返してきた。


「もう ≪リセット≫ はしない。あとは好きにしろや」

「ふん、ああ、好きにさせてもらうよ」




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「・・・・・・Oの制服がなんだかよく分からんが突然破れて」


 ふう、なんか釈然としないな。


「かと思ったらDCOのヤツが制服を脱ぎ始めてトランクスだけになってさ」


 僕の横ではPAOが違和感なく話を続けている。ムカついたからちょっと遊んでみてやろうと思ったんだが、こうしてみるとこれって僕に対する罰ゲームにしかなってないんじゃないか? う~ん、とりあえず ≪セーブ≫っと。なんか ≪セーブ≫ する度に心を病んでいってる気がすんな。


「あ~、PAO。悪いがもうその話はいいや」

「え? なんで?」

「大体僕が予想していたとおりの話だったからさ」

「そうなんだ? でも、だからってGLOの方の話をしないってのはナシだぜ?」

「ふ、ああ、分かってるよ」

「ん? なんか良いことあった?」

「は? なんでそう思うんだ?」

「いや、だってさっきまで死んだような顔してたのに、いま少しだけど笑ったからさ」

「ふん、そりゃあ、気分の問題だよ。特に良いことがあったわけじゃない」

「へえ、そう」


 それから僕は約束どおりPAOに最序盤の僕の活躍を触り程度に教えてやった。HDKが考えなしに ≪セーブ≫ しようとしていたのを防いだ話とか、な。それからあとは全てDCOに任せたから僕も何も知らんと言うと、HP回復薬とMP回復薬のことを指摘されたんでやや驚いたが、そんなこともあったなぁと言い繕っておいた。PAOにあれこれ言って聞かせるのは面倒だった。始めに彼に言ったように、僕だけが知っている僕がやってきたことを話すことに、何の意味もなかったからだ。


 PAOはみんなから持ち上げられる、僕はなんとなくクラスで浮いている。


 この結果が全て。

 日常のクラスの中の立ち位置とさほど変わらない。

 そう、何も変わらない。


 それが平和ってヤツじゃないか、僕と立ち位置が正反対のヤツが上から口を挟むなよ。




 僕の話が終わるとまもなくPAOは屋敷の方へ向かった。一緒に行こうと手を引かれたが、みんなと一緒に退屈な時間を潰すのが面倒だったからその誘いは遠慮させてもらった。屋敷に戻るよりも、ここで日向ぼっこしながらそよ風に吹かれていた方がマシだと思った。


「ああ! GLO! こんなとこにいたのかぁ!?」


 1人になってしばらくすると、今度はDCOが僕の傍にやってきた。


「ん? DCOは屋敷には行かなかったのか?」

「屋敷?」

「なんだ知らないのか。いまみんなパルムさんとキキさんに案内されて屋敷の方へ行ってるぞ」

「そうなんだ? 知らなかった。なにせオレはずっと外でお前を探してたからな」

「なんだ? 僕はDCOに何か恨まれるようなことでもしたか?」

「アホかなんでそういう話になるんだ? 違えよ」

「ああ、悪い。じゃあ、何の用?」

「ふふ~ん、ちょっとな。GLOの職業ってギャンブラーだろ?」

「ん、ああ。そうだな」

「実は未来のお前が賭け事が大好きなヤツでさぁ、オレ、未来のGLOと賭けをしてここに戻ってきたんだ」

「あ? 未来の僕と?」

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