ハイライト ④
≪リセット≫ の調子が悪くて本来戻るべき時点とは別の時点に飛ばされただけとか? そんなことってある? あるかもしれないじゃん何事にも失敗は付き物なんだし!
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なんてことはなかったし!
く、やはり ≪リセット≫ で戻るべき正しい時点がGLOと話をしていた最中ってことらしい。大方、誰かが ≪セーブ≫ したに違いない。誰がやったかは知らんが、きっとその誰かにとって凄く良いことがあったんだろうとは思う。別の誰かが不意に ≪リセット≫ を使ってしまってもそのときの記憶が失われないようにって。本当におめでとうだよ。代わりにオレがこの面倒な状況から逃げ出せなくなっちまったが、ま、いいさ。きっとやりようはあるはずだし!
GLOは相変わらず花壇の方に目を向けたまま、沈黙していた。
だから正確にいまがいつのなのかが分からない。次になんて言えば ≪リセット≫ したと気取られずに前回と同じ1歩を踏み出せるのか? 変に不信感を持たれるのも嫌だしな。いまのGLOにとっての地雷が何なのか分かったもんじゃないし。
花壇には赤、青、黄色の花がささやかに咲いていて、その花の間を蝶が鮮やかな色合いの羽をひらひらさせて飛んでいる。花壇の脇の草地では兎の親子がもじもじしている。
は! そんな悠長なことに気を取られている場合じゃない!
オレがいま黙っているのさえGLOにとってはおかしなことなのかもしれないし。
彼は相変わらず花壇の方に目を向けたまま、沈黙していた。
オレは彼の横顔を注視した。そうだ、不意に地下から現われた凶暴なモグラにやられそうになって ≪リセット≫ したことにして、いま何の話をしてたかを素直に聞けばいいんじゃない? おお、我ながら頭の回転が速いぞ。彼が何かしら違和感に気付いたら、そこでこのモグラの話を切り出そう、そうしよう。
「ん? PAO? どうした?」
オレの長い沈黙をおかしく思ったのか、ようやく彼がそう尋ねてきた。ちょっとリアクション遅くない?
「ああ、実は・・・・・・」
「≪リセット≫ を使ったな?」
おお! やっぱり! 彼は ≪リセット≫ 後の違和感を見逃さない! そりゃ幾度となく ≪リセット≫ と ≪セーブ≫ を使ってきたんだろうからなぁ。
「ああ、実は話してる途中でこのベンチの下から凶暴なモグラが出てきて・・・・・・」
「ぷぷ、ふ~ん、モグラ、か。そのモグラは僕よりも・・・・・・いや、何でもない。そのモグラが出てきたのはPAOがこのベンチ前に来て何分後くらいの話?」
「ええっと、大体10分~15分後くらいかな? 大体、だけど」
「そう、じゃ、待とうか」
「え? 待つ?」
「うん、PAOの話が本当ならあと5分~10分くらいで凶暴なモグラが出てくるからな。僕が相手してやるよ」
おおっとそういう話になるのかぁ!?
となるとまずいな。モグラの話は嘘八百なんだ。嘘がばれたあと、たとえその嘘が許されたとしても同じ未来を辿ることになりかねない。ま、1度 ≪リセット≫ してるオレとしてはこの時点であと何回 ≪リセット≫ しても別に構わないわけだし、このターンは捨てて情報収集に専念するか。
「なあ、ちなみにいま何の話してる途中だった? ≪リセット≫ してきたからそのへんが全く分からなくて」
「なんだ? PAOが ≪セーブ≫ したわけじゃないんだ?」
「ああ、オレじゃないよ。たぶんお屋敷にいる誰かが ≪セーブ≫ したんじゃない?」
「だろうな。魔王が倒れたから、その前に戻ってしまわないように念を入れたのかもしれない」
「それならオレが魔王が倒れたあとにもう ≪セーブ≫ してるよ」
「へえ、PAOもなかなか行動が早いじゃん」
「ま、それくらいはね。で、何の話をしてたんだっけ?」
「おお、悪い。PAOが見たクラス転移事件をちょうど話し始めるところだ。で、今朝の家での出来事については割愛してくれ」
「ああ分かった! テヘペロ案件の直後ってわけだな?」
「ん、だが、モグラが出てくるまで話さなくってもいいや」
「え?」
「モグラを倒すまで、そのモグラのこととか話そうか」
「あ、ああ。分かった」
話さないし話せないけどな!
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勝った!
オレの勝ちだGLO~!
なんだオレまだ話してねえんじゃねえか!
つまりGLOもまだキレてないってわけだ!
よっしゃオレはこのままずらかるぜ!
とりあえず始まりの【大聖堂に転移の巻】を話しつつ、少ししたら腹痛を装ってこの場から立ち去ろう、そうしよう。ああ~、安心した。
「じゃあ、まず大聖堂に召喚された件からな?」
「ブフ! プ! プクク、グフン、ゲフン、ゴホゴホ」
!?
オレが話し始めた途端、GLOが突然激しく咳き込み始めた。なんだ? いままでこんなことはなかったぞ? 今回にかぎって未来が変わったとかあるのか? ≪リセット≫ の使い過ぎとか?
「どうした? 大丈夫か?」
「ゴホ、グフ・・・・・・ああ、大丈夫だ」
そして、何でもないと言う彼。何でもないって割には、いままで無表情だったのにいまは少し頬が緩んでいたから、何でもないはずがなかった。彼は咳き込んだんじゃない。笑っていたんだ。なのに、それを隠そうとしている。一体何が吹き出してしまうほど面白かったというんだ?
「じゃ、話すよ?」
「ブフゥ!」
「おいなんなんだよ? もういい! もう帰る!」
人が話すなり再び吹き出した彼に対しオレはそう告げてベンチから腰を上げた。口調では怒っているふうを装いながらも内心ラッキー逃げる口実ができたとか思ってたりするわけで。
「悪い悪い。まあ待てよ」
彼はオレにそう言うが、オレにはオレの都合があるから待てるはずがなかった。
「誰が待つかよ。訳も分からず人のことを笑うようなヤツと話せるかってんだ。じゃあな。オレはみんなのところへ行くから」
オレはそう吐き捨てて彼に背を向けた。ふん、GLOはそこでモグラを待ってるがいいさ。あ、それは前のターンの話か。
そうして歩き出そうとしたときだった。グイっと腕を掴まれ、引かれた。少し掴まれた腕が痛かった。
「あ? 何すんだよ?」
オレは半分本気で怒っていた。
「だから謝ってるじゃないか。そう邪険にせずにPAOの話を聞かせてくれよ」
「ヤダよ。ちょっとムカついたもん」
「ごめん、僕が笑ってしまった理由も話すからさ。きっとそれは、おそらくいまのPAOにとっても笑える話だと思うよ」
「いやいや、だから嫌なんだって。さっさと離せよ。痛えんだよ」
さっきから彼の手を振り払おうとしてるのに、ガッシリと握られていてまるで払える気がしなかった。それどころかオレが力を込めるのに合わせて彼の方でも力を込めるから、骨が軋んでいるんじゃないかと思うほど痛くなっていた。
その力の込めようははっきり言って尋常じゃなかった。彼はこの時点ですでにキレていた? だから執拗にオレと話をすることにこだわっているんじゃないか? だとしたら詰みなんだが・・・・・・。
「まあ聞けよ。オレが笑った理由はな、この場に間抜けが2人いたからだよ」
「あ?」
「厳密に言うと、いまの僕は間抜けじゃない。いや、うっかり笑っちゃったから僕も間抜けか。だから正確には、間抜けは3人いたことになるな」
「何を言ってんのか分かんねえよ。もう少し分かるように言えよ」
「最初はあまりに分かりやす過ぎて笑った。2度目はオレも間抜けだなと気付いて笑った」
「だからどういうことだよ!」
「ふう、やれやれ。結論を言おうか。そうすればPAOも僕が笑ったのを責められなくなるさ」
「早く言え」
「PAO、≪リセット≫ を使ったよな?」
「え!?」
「え? じゃねえよ。答え言ってんのにとぼけんのか? それともよく聴こえなかったか? ≪リセット≫ を使ったよな!? 最低でも2度以上」
「あ・・・・・・」
「ああ? はっきりしねえな。で? なんで ≪リセッ・・・・・・」
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GLOが花壇の方に目を向けたまま、沈黙していた。
彼に掴まれていた左腕がズキズキと痛む。くそ、馬鹿力で握りやがって。とりあえずこのターンは捨てだ。ちょっと考える時間をくれ。さっきの彼の言葉の意味を考えろ。
最初は分かりやす過ぎて笑った・・・・・・というのは、おそらくオレの言葉が突拍子もないものだったからだろう。オレが【セーブポイント】直前の会話に繋がらないちぐはぐな言葉を発したものだから彼は笑い、そして、オレが ≪リセット≫ したことに勘付いたんだ。つまり、前々回のターンのGLOはオレに嘘を教えたってことになる。なぜ?
2度目はオレも間抜けだなと気付いて笑った・・・・・・これはなんだ? オレの間抜けな発言に吹き出してしまったことを言ってるのか? いや、それはそれで間抜けだと彼は言っていたが、そうじゃない。うっかり笑っちゃったから僕も間抜けか。だから正確には、間抜けは3人いたことになるな・・・・・・確かそんな感じに言っていたから、吹き出したGLOは彼の認識では3人目の間抜けってことになる。1人目がオレだとして、3人目がさっきの吹き出したGLOだとするなら、2人目は・・・・・・。
はっとしてGLOの方を見た。
彼は相変わらず花壇の方に目を向けたまま、沈黙していた。
ゴクリと唾を飲む。少なくとも目の前のこいつは間抜けじゃない。2人目の間抜けはおそらく、オレが ≪リセット≫ する前の、オレと話していたGLO自身。前々回のターンの、オレに嘘を教えたGLO。でも、想像が付かない。なぜGLOはそこまで看破できたんだ!?