ハイライト ③
やっぱり主人公はPAOで決まり!
「魔王達と正義の味方達が戦ってる隙を突いて、みんなで大聖堂を抜け出したんだよ」
オレがMVPに選ばれた理由が分かると言ったあとに、彼はそう続けた。
「みんなで?」
「そう、みんなで。といっても、無事に全員が大聖堂の外に逃げ出せたかは知らないがな」
「知らない?」
「みんなで旅に出たのは間違いないんだが、僕には旅に出た覚えがないんだ」
「じゃあ、どうして旅に出たって言えるんだよ?」
「まず、旅に出ようと言い出したのが僕なんだ。それに、≪リセット≫ を使って戻って来たDCOやHDK、MHKから聞いた。旅に出て、強くなって戻って来たんだってな」
「なるほど。それなら分かるかな。だが、旅に出ようという結論に至るまでに色々あったんだろ?」
「色々・・・・・・そうだな、色々あった」
「どんなことがあったんだよ?」
「僕はさ、大聖堂にみんな揃って召喚されて、ステータスとか召喚とか、そういうゲームみたいな言葉が飛び出したときに、この場は僕の領分だと思ったんだよ。僕が仕切る、僕が活躍するステージだってね」
「ああ、で、実際にみんなに旅に出るように提案したんだろ? 魔王を倒せる力を得るために。まさに大活躍してるじゃないか」
「DCOが魔王を倒す前にステータス画面のある数値を見て僕は確信したんだ。召喚されてから魔王を倒すまでの短い時間だが、確かに物事は僕の思惑どおりに進んでたんだって。みんながみんなってわけじゃないんだろうが、必要なメンバーは僕の意図したとおりに動いてた。信じられるか?」
「信じるよ」
「おい適当な返事してんなよ。いまの1年A組に僕の言うことを少しでも聞いてやろうってヤツがいると思ってるのか? ええ? いると思ってんなら名前を言ってみろよ」
「少なくとも、DCOとHDK、MHKは聞くと思うよ」
「DCOは分かる。MHKとはまともに話したことがないからなんとも言えんが、HDKはない。あいつはみんなと同じく僕を嫌っているからな」
「ああ、そうだったな」
「本当のところはPAOがさっき言ったとおりで、DCOだよ。DCOがみんなに働きかけて旅に出たんだ」
「ああそういうこと?」
「納得してんじゃねえよ」
「おいおいどっちなんだよ?」
「お前らが全然人の話を聞かないから、DCOに頼んで僕の考えを僕の代わりにみんなに伝えてもらったってのが本当のところさ」
「じゃあ、もしかしてGLOもDCOのようにオレ達に何かを伝えようとしてたってことか?」
「そうだ。だが、その都度みんなに罵られてその都度 ≪リセット≫ して、僕じゃダメなんだと痛感したから、DCOに頼むことにしたんだ」
「そうだったのか。そのことをDCOは?」
「DCOもそのことは知らない。DCOにとっては、僕がみんなに罵られた経緯はなくて、僕が唐突にお願いしてきたことになってるはずだ」
「じゃあ、誰もGLOが苦心してきたことを知らないわけか」
「いや、全てではないが多少はDCOと、あと、MJKも知ってるかもしれない」
「オレの推測ではHDKとMHKもGLOががんばってたことを知ってると思うぞ」
「何も知らなかったくせに適当抜かすなよ。そうそう、これも誰も知らないことだが、MHKが僕に告白してきたんだぜ?」
「え? 好きだってか?」
「ああ。だがそれも僕が ≪リセット≫ したことでお釈迦になった」
「≪リセット≫ したあと、MHKはもうGLOのことを好きにならなかったのか?」
「ならない。僕が ≪リセット≫ したあと、未来はまた別の方へ進み始めたから。でも、僕だけはMHKに告白されたことを覚えてて、なんだか知らないがMHKのことを好きになっちまった。」
「はは、いいじゃんいいじゃん。で、どうすんだ? 告白すれば?」
「どうしてMHKが僕のことを好きになったのか、告白されたときは全く分からなかったんだが、しばらく考えてて、なんとなくだけど分かったんだ。さっきのPAOの話にも登場した虎がいたろ?」
「ああ、虎の化物な」
「たぶん、MHKが見てる前で僕は勇敢にその虎に立ち向かっていったんだ。そんな僕の姿を見て、MHKは僕のことを好きになったんだと思う。MHKは僕のことを見直したって言ってたんだ。勇敢で素敵な人だって」
「GLOがあの虎に・・・・・・そんなことまでしてたんだな」
「そういうことまで考えてると、最初は好きって言われたから意識し始めたんだが、みんなを守るために命を賭けて化物に立ち向かえる人を好きになるようなMHKのことが、本当に好きになってきたんだ」
「おお、いいじゃんいいじゃん。じゃ、告白する?」
「いや・・・・・・」
「ん?」
突然、GLOの手にトランプのカードが出現した。まるで手品のように、何も持っていなかったはずの手に1枚のカードが現われたんだ。それも何の動作もなく。
「このカードで虎に攻撃したんだけどな」
「は? トランプでか?」
「魔力を込めると、これが結構切れるんだよ」
そう言ってGLOがオレ達がいま腰掛けているベンチにカードを突き立てた。ベンチは切り出した石で造られていた。石に簡単に刺さるカード。石を砕くこともなく真っすぐに刺さったそれを見て、その切れ味に度肝を抜かれた。下手すると鉄製の包丁とかよりも鋭利かつ頑丈なんじゃないか?
「ここで話を戻すんだが、みんなで旅に出て、きっとPAOはそこで活躍したんだよ」
GLOの手から新たにトランプが出現したかと思うと、彼は先程と同じようにベンチに突き立てた。
「だから、DCOはPAOがMVPだと言ったし、きっとMHKも、旅の中でPAOのことを好きになったんだ」
彼は話しながら、次々とトランプを出現させては、それをベンチに突き立てていった。しかも、途中で気付いたんだが、それらはオレの制服とベンチを縫うように突き立てられていた。
「おい、GLO。一体これは何の真似だ?」
いつの間にかオレは身動きが取れなくなっていた。トランプは斜めに深く刺さっていて、ちょっとやそっとじゃ抜けやしなかった。
「これが僕の ≪特技≫ でね、≪カード≫ って名前なんだ。ふつうだろ?」
と、特技!? ステータス画面にあったヤツか? っていうか最初のカード!! GLOがオレの方に寄越した血糊の付いたカードもひょっとしてGLOが ≪特技≫ で出現させたカードなのか!? いや、むしろそうとしか考えられない。じゃあ、オレの頬を切ったのはGLO? でもなぜそんなことを? それに、いまは何をしようとしているんだ?
オレが慄いている間にGLOはベンチから腰を上げて、オレの正面に立った。
「おい、なんなんだ? どうしたんだよ?」
相変わらず無表情のGLO。その奥にあるのは憎しみ? もしかしてオレへの嫉妬とか? それなら誤解も甚だしいわけだが、なんにしてもやばいと思った。いまのGLOはふつうじゃない!
「さっきのPAOの話を聞いてて、まあ予想していたとおりの内容だったわけだが、やっぱりちょっとムカついてね」
「ムカついたって・・・・・・いや、むしろGLOが特別なだけで、大抵のヤツはオレと同じようにしか見えてないと思うぜ」
ガン! と肩に衝撃が走った。GLO、本気か?
「ほかのヤツなんてどうでもいい。僕はPAOにムカついたんだ。DCOにMVPだと言われ、MHKに目から好き好き光線を出させておきながら、当人は何も知らず、肝心なときに何もせず、召喚されてから魔王を倒すまでボケ~っとしてただけなんだぜ?」
GLOがオレの両方の襟首に手を掛けた。
「お、おいマジか。洒落になんねえって」
GLOはオレの首を絞めるつもりだと直感した。首を絞めて落とすだけならまだしも、いまのGLOなら本気でオレを殺してしまうことも考えられた。
「ちょっと僕にしては大胆にペラペラ喋り過ぎてしまったが、どうせこの出来事も僕の記憶からは消え失せるからな」
そ、そうか! こんなときこそ ≪リセット≫ を使うんだ!
「そして、PAOの記憶からも消え失せる。つまり、この出来事はなかったことになる」
GLOの手が交差して、軽く首に圧迫感を覚えた。ゆっくり、じわじわと力が加わってゆくのが分かる。
彼がなぜ彼自身からだけでなくオレの記憶からもいまの出来事の記憶がなくなると言ったのかは分からない。≪リセット≫ をした本人には記憶が残るはずなのだから。と、とにかくここは ≪リセット≫ だ! オレが ≪セーブ≫ した胴上げ後の時点に戻って、今度はみんなと一緒におとなしくお屋敷の方へ向かうとしよう、そうしよう。
(^^) (^^) (^^) (^^) (^^) (^^)
も、戻ったか!?
と、思ったのも束の間、一瞬でオレの期待は裏切られた。
なんでお前が隣にいるんだGLO~!!
そう、GLOがさっきまでと同じようにオレの隣に座っているのだ。
シチュエーションもさっきと同じ。オーギュスト家の庭園の花壇の前のベンチ。
そこで彼は花壇の方に目を向けたまま、沈黙している。
なんで?
なんで!?
なんで【セーブポイント】がずれてしまっているんだ?