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「何があったか・・・・・・か」


 なのにGLOときたら喋るのが惜しいとでもいうように、丸めた背を伸ばして腰に手を当てて、そうもったいぶるんだ。本当に喋りたくないのか、喋りたくて仕方ないのにその気のない振りをしてるのかが分からない。なにしろいまの彼には、顔にも声にも表情ってヤツがなかった。


「そう、ここに召喚されてからDCO達が魔王をやっつけるまでの間のことなんだが、おそらくオレが見たまま以上のことがあったんだと思うんだよな。DCOが説明してた ≪リセット≫ と≪セーブ≫ ってあるじゃん。たぶん、それを使ったりしながらみんな色々やってたんだろうが・・・・・・」


 当然の推測だったが、それをぶつけてもGLOは眉1つ動かさない。あえて【 DCO達が 】なにかやってた、というのではなくて【 みんな 】と言ったのだが、それも無駄だったようだ。いや、それどころか彼はオレの方じゃなく花壇の方を見ていたから、はっきり言ってオレの話を聞いているのかどうかさえ怪しいレベルだった。


「なあ、オレの話聞いてる?」

「ああ、聴こえてる」

「で、どお?」

「さあ」

「いや、さあってことはないだろぉ?」

「どうだろ。たぶん僕もみんなと同じだよ」

「ないと思うけど」

「なあ、PAOの知りたがってることはDCOとかHDKに聞いた方が早いと思うぜ?」

「ふ、残念だがそんなことで引き下がるわけがない。もちろんDCO達にはあとで聞くよ。だけどDCO達がこの世界で経験してきたこととGLOが経験してきたことはおそらく同じじゃないだろうからな。オレはGLOの話を聞いてみたいんだ」

「ふう、僕の話に意味があるとは思えないね」

「そんなことはない。GLOの話も今回のクラス転移事件の全貌を明らかにするうえで貴重な証言になるはずだ」

「ははは、事件って。僕のイメージじゃ事件ってよりは事故って感じだけどな。ま、それも終わったことだし、嫌な事件だったと思って早く忘れた方がいいんじゃない?」

「どうにも話したくないみたいだな」

「意味がないんだよ」

「だから意味はあるんだって言ってんだろ?」

「そこまで言うんだったら、そうだな。高校の卒業式の日にPAOがまたこの件について聞いてきたら教えてやるよ」

「なんで卒業式?」

「3年後までPAOがこのクラス転移事件の真相解明に意欲的であるなら、僕の話もPAOにとっては意味があるんだと、そう考えを改めようかなってだけさ」

「いまは?」

「ダメ」


 GLOは頑なだった。頑固親父かと思うほどに。なにか話すとまずい内容でもあるのか・・・・・・にしても結果的に魔王を倒したうえにみんな無事なのだから、話せないような事実はないはずだが。意味がない意味がないと彼は言っているが、事の真相を知りたいと思うのはみんなに共通の願望じゃないか。


 一事が万事そんな調子だから嫌われんじゃねえの?


 とか思ったが即座に首を横に振って否定する。大聖堂内でDCO達がGLOを擁護していた場面を目にしていたから、これまでのクラス内におけるGLOに対する評価を真に受けるわけにはいかなかった。むしろ、彼は友達から擁護してもらえるだけの人物だと考えた方がいいくらいかもしれない。


「じゃ、この話は終わりでいいかい?」


 オレが次の言葉を言いあぐねていると、彼がそう言った。


「いやいや終わらないだってまだ始まってもいないんだもん」

「僕の思い違いでなければ結構前からこの話題始まってたよな? で、僕がダメって結論出して終わった気がしたんだが。結論。結論が出たんだ。結論、ダメ、絶対。絶対だから、覆らない」

「違うよ結論は2人で出すんだよ。オレまだGLOの提案を承認してないから」

「なんだよそれ。僕の思い出を話すか話さないかで、いちいちPAOの承認なんているかよ」

「それはそうなんだが、だって卒業するころに聞いてもたぶんGLO自身忘れてそうなんだよなぁ。え? なにそれ? 異世界? そんなところに行った覚えないんだけどとか言いそうじゃね?」

「はは、おう、言う言う。100パーそう言うだろうな」

「だろぉ? だから聞くならいましかないじゃん」

「だな」

「あと笑うときに目が笑ってないから怖いんだが。もっと表情に出してくれないとこっちがビビるからさ」

「ああ、悪い。ま、それもいまだけだから、気にしないでくれ」


 ここでオレが粘らなければ、彼はおそらく誰にも彼自身が見たクラス転移事件について話すことはないだろう。彼は目立ちたがり屋でもないし、自分の功績を吹聴するような性格でもないように思われたから。他人の評価を気にしないタイプの男。それはそれで彼自身困ることはないのだろうが、彼自身のためにももっと周りを気にした方がいいと言ってやりたい。根が良いヤツだってんならなおさらだ。


「じゃあ、お願いします」


 オレは姿勢を正して軽く頭を下げた。さっさと話せGLO!


「う~ん、じゃあ、始めにPAOの見たクラス転移事件を聞かせてもらおうかな。僕はそのあとで、PAOの話を捕捉しながら話すよ」


 んん、ここにきてまだもったいぶるか。


「おう、それでいいよ。じゃあ、オレの見たクラス転移事件の話からな」

「おう」

「まあ、今朝は清々しい朝だったよ。バタートーストに母さんが作ってくれた野菜スープもいつもどおり最高だったし、占いだと今日のオレは1番だった。山羊座だからな」

「ABCモーニングの占いだな。あれなら今日の僕も1番だった」

「あれ? GLOも山羊座?」

「いや僕は8月生まれの乙女座だ。だから1番って言っても、僕の場合、下から数えてだけどな」

「GLOも占いとか見てんだな」

「ただ目に入るだけで気にしちゃいないさ。占いを信じてたら今日は家に引き籠ってるよ」

「また極端な」

「ちなみに家での話も学校での話も必要ないからな。召喚されてからの話に絞って話してくれ」

「お、ああ、そうだな。うっかり今日のオレの1日の話をしようとしてたよ」

「うっかりしすぎだろ」

「てへペロ案件だな」

「殴っていい?」

「じょ、冗談だよホントにもう無表情でそんなこと言われると本気だと思うからやめろよな」

「ふん、いまの殴っていい? ってのも冗談だよ」

「ああ、分かってる」


 オレの見たクラス転移事件の全貌は謎に包まれたものだった。展開も至極早く、話すことなんてほとんどないという感じ。


 まず、学校の教室にいたはずが気付けば大聖堂内に、というところからスタート。そう、スタート地点はここな。


 そのすぐあと、まだオレが何も把握していないってのに、DCOが唐突に状況を説明し始める。そこで ≪リセット≫ と ≪セーブ≫ の話を聞き、ステータスのことも聞いて、実際に自分でステータスをオープンウインドウしてみて初めてここが異世界なのだと認識するに至る。


 その説明の直後、DCOの制服が破れたので笑う。


 そのすぐあと、DCOとHDKが魔物達がいる方へと歩き出したから、2人はチートを持ってたんだと思った。


 虎型の魔物が2人の方に襲い掛かるも、なにやら2人があっさりと撃退。


 それからHDKが宙に浮いて、爆破系の魔法を使って下りてきた。周りはHDKのスカートの中が見えたとかで騒いでたな。


 ちょうどそのころパルムが正義の味方を召喚した。体育の服を着てる小学生っぽい女の子な。


 それからまたHDKが宙に浮いて、今度は赤々と燃え上がる岩石がオレ達と魔物達がいた方を隔てるように降ってきた。


 気が付けば魔王と一緒にいた魔物達が全滅させられてて、


 ・・・・・・(中略)・・・・・・


 んで、DCOがダストシュートにゴ~ル! とか叫びながらオレ達の方にやってきたかと思うと、唐突にオレがMVPだとか言って胴上げを始めたんだ。これにはオレも参ったね。ここまでの話からも分かるように、オレには胴上げされるようなことをした覚えがまったくないんだから。


「というのがオレの知ってるクラス転移事件の顛末だ。聞いてて分かったと思うが、オレにとってこの事件には不可解な部分が多いんだよ」


 GLOはオレの話を聞いているとき、ずっと花壇の方を見詰めていた。うんともすんとも言わず、首を縦に振る素振りさえ見せず、ずっと黙っていた。ま、聞いていないならいないでいいさ。オレは間違いなく約束を果たしたんだから。


「さ、次はGLOの話を聞かせてくれ」


 オレが話を終えたことにも気付かない様子のGLOに声を掛けた。まさかいまになって話すのやめたとか言い出さないよな?


「それだけ?」


 まもなく、GLOがやはり花壇の方を見たままそう聞いてきた。


「ああ、そうだよ。たったこれだけさ。GLOと比べるとたいしたことないだろ?」

「ぷ、はっはっは」

「え? 何か面白かった?」

「いや、ちょっとな」

「何がそんなにウケたんだ?」

「それより、やっぱ僕が話すことなんてないや。ある程度予想はしていたが、僕の話もいまPAOが話した内容と同じだった」

「は? なんだよそれ? 絶対ねえだろ? いま、それだけ? とか聞いてきたし、オレの話とGLOの話が同じってことはありえねえ」

「ああそうだよ。僕はPAOより少し詳しく今回のクラス転移事件について知ってるかもしれない。でも、だからって僕だけが知ってることになんの意味もないし価値もない。分かるだろ? 理由は僕だから」

「GLOがそういうヤツだからみんなの前でこの話はしないだろうってのは分かってたよ。だから2人で話したかったんだ」

「なるほど。なかなか分かってるな」

「オレにはGLOに対する偏見もないし、GLOを嫌う理由もないしな」

「つってもPAOも結局みんなと一緒だぜ?」

「一緒? つッ!!」


 そのとき、何かが頬を掠めたのかチクリと痛みが走った。反射的に手を頬に当てると、わずかだが出血している感触があった。怪我とも言えないような、擦り傷。だが、なぜ? 身辺を見回してみても、何か特別なモノが風で飛ばされてきたとかそういう痕跡は認められない。


 オレが話を中断して辺りを見回していると、オレの腿の上にトランプのカードが1枚置かれた。何かと思いGLOを見ると、


「そのカードを見てみろよ」


 と彼は言った。


 言われるままにカードを見てみると、カードの角に血が付着しているのが分かった。


「まさか、このトランプが飛んできたのか?」


 彼はオレの問い掛けにまるで関心を示さない。とても冷たい感じ。


「僕にはPAOがMVPを取った理由がなんとなく分かる」


 何の脈絡もなく、彼がそう切り出した。

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