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(^^) (^^) (^^) (^^) (^^) (^^)




 意味不明な胴上げが終わったあとまもなく ≪セーブ≫ した。それからしばらくして ≪リセット≫ してみた。≪リセット≫ した理由は特にないが、ただ単にしてみたかったんだよな。


「ふふ、PAOったら、何のことか分かんないって顔してるね」


 MHKがさっきと同じように悪戯っぽい笑みを浮かべた。


 なるほど、確かにオレが ≪セーブ≫ したところから時間が再スタートしたようだな。周りにはまだ胴上げを終えたばかりのみんながいて、そんな彼等の輪の中心にいるのはHDKで、彼女は彼等の質問攻めに遭っていた。


 胴上げのあと、DCOを中心に勝ちどきを上げてみんなで陽気に吠えたあと、オレはこの状況の意味が分かっていない者同士でなんだこりゃと話していたんだ。オレは一体何をしたんだ? とみんなと冗談を言い合ったりしながら。だが、まもなくオレと話していたみんなの興味もチート持ち3人組の方に移ってしまったから、そこでようやく一息つけるなと思ったところに話しかけてきたのがMHKだった。どうやら彼女はみんなに持て囃されるのを嫌って、みんなの輪から抜け出してきたらしかった。


「そりゃ、実際何も分からないんだから、そんな顔にもなるのもしょうがないさ」


≪リセット≫ を使ったからといって別に未来を変えようとか思っていないから、≪リセット≫ 前と変わらず返事した。このあと、彼女はそうだねと続けるんだ。


「そうだね。ほとんどの人は召喚されてからのこの30分弱の間に何が起きてたか知らないんだ」

「例外がDCOとHDK、そして、MHKってわけか」


 分からないといえば彼女が随分と親し気に話しかけてくるのもよく分からなかった。昨日まではお互いにあまり親しくはなかったはずだ。会話らしい会話を交わすこともなく、話をするにしても事務的なものばかり。なにもそれはオレにかぎったことじゃない。MHKが男子と親し気に話している姿を見たことがなかったからだ。


「うん、この世界のことについて一番よく分かってるのは私を含めたその3人だと思う。だけど、その3人以外にも例外はいるよ」

「オレは残念なことにその例外じゃないみたいだ。なのに胴上げされて、はっきり言って全く意味が分からない」

「それは・・・・・・」

「おいMHK! GLO見てないか!?」


 オレとMHKが話してるのなんてお構いなしにDCOが結構な勢いで割って入ってきた。ま、彼は人の会話のあれこれを気にするようなタイプじゃないからな。


「ううん、見てないけど」

「そうか、サンキュー!」


 そう言うと彼は忙しそうに去っていった。


「なんだあれ?」

「きっとGLOに用があるんだよ」

「GLOにか?」

「うん、きっと、とても大切な用なんだ」

「へ~」


 DCOがGLOを探していることといい、MHKの含みのある発言といい、GLOは少なからず魔王攻略に際してなにかしらの役割を担っていたんじゃないかと思った。思い返してみればDCOの制服が破れたとき、DCOの傍にはGLOがいて、それから2人は何か話していたはずだ。そして、その2人にHDKが加わり、またすぐに今度はMHKが加わった。


 その中にGLOがいたのは偶然? たまたまGLOとDCOと話していたから、HDKとMHKとも接触することになったのか。


 それにいまのMHKの例外がいたという話。その例外というのはGLOのことなのでは? 


「ひょっとして、さっき言ってた例外ってのはGLOのこと?」

「そう、GLOは私達と違って旅には出ていないんだけど、大体状況は把握してたと思う」

「旅?」

「うん、実は私達みんなで旅して・・・・・・」


「あんなヤツって言うなっていま言ったよな!? GLOのことを今度あんなヤツ呼ばわりしてみろ! 次こそただじゃおかねえからな!」


 唐突に大聖堂内に響いたのはDCOの怒鳴り声だった。DCOの前にいるのはCCOとKKKとPPK。大方DCOにGLOのことを尋ねられて、あんなヤツほっとけよとでも言ったんだろうが、なぜDCOが目くじら立てて怒っているのかが分からなかった。GLOは前々からクラスでも少し浮いたヤツだったから、GLOが誰かしらに悪し様に言われるのは日常茶飯事だったはずだが。


「おい何マジになってんだよ。たかがGLOのことじゃねえか」

「そうよ、なにGLOのことでムキになってのんの? おかしいよ」

「せや、誰もDCOのことを悪う言うとるわけちゃうねんで」


 CCOとPPK、KKKもDCOが怒っている理由が分からないといった感じだな。GLOのことをあんなヤツと吐き捨てることが良いとは思わないが、そういうものとしていままでやってきてたのだから、そこに一石投じれば波紋が生じるのもしょうがない。


「DCOを助けなきゃ!」


 MHKが何かに急きたてられるようにDCOの方へ駆け出し、CCOとPPK、KKKに喰ってかかっていた。


 MHKは本当に人が変わったようだった。これまでは真面目でおとなしいって印象で、他人に対する自己主張が弱いというか、できないタイプって感じだと思っていた。それがいまはどうだ? ABC高校1年A組の中でも結構目立つ方のグループであるCCOやPPK、KKKと言い合いしてるじゃないか。それに、さっき話していたときにもずっと感じていたのだが、いまのMHKは圧倒的に格上のオーラを纏っているように思った。


 ん、ついにHDKまでやってきてCCO達に引導を渡そうとしているぞ?


「DCOもMHKもやめなよ。CCO達相手にムキになったってしょうがないんだから」

「なんだ? HDKはGLOがバカにされててもなんとも思わねえのか?」

「まともな人にGLOがバカにされたら腹立つかもしれないけど、バカにバカにされたってなんとも思わない。だって類は友を呼ぶって言うじゃん。バカはバカ同士で集まってたいんだから、そいつらがGLOのことをバカにしたって、それってGLOがちゃんとしたヤツだっていうことの証明でしかないと思うんだよね」

「ああ、マイナス×マイナスはプラスになる理屈と同じことか」

「おお、そうそんな感じ」

「へッ、そういうことならオレももう何も言わないぜ」

「なんやねん自分ら、ウチらのことバカにしとんのか?」

「ねえDCOとMHKは優しいからあんたらには何も言わなかったけどさ、あんたらがこれ以上突っかかってくるなら私は容赦しないよ。あんたらの名誉のために、もうこの話は終わりにしてあげるから」


 何なんだ一体ぃ!?

 あの3人に一体全体何が起こったっていうんだ?

 おかしい!

 さすがにおかしいぞ!


「なんか凄いことになってんな」

「ああHEOか。そうだなオレにはもう何が何やらまるで分からん。世間で言うのとは違う意味で学級が崩壊しそうな気がする」

「そうか、胴上げされたPAOなら何か知ってんのかと思ったんだけどな」

「いや、胴上げされた本人がなんで胴上げされたのか全然分かってないからな。さっきMHKと話してたんだが、肝心のことを聞く前にDCOの方に行ってしまったし」

「ふむ、ま、人のことを悪く言うのは単純に考えて良いことじゃないからな。だから特にあの3人が変になったってわけでもないんだろうけど」

「ああ、その説は万里ある」


「ぴ~んぽ~んぱ~んぽ~ん、あーうー、ただいまマイクのテスト中、マイクのテスト中・・・・・・」


 そのとき、鈴の音のような可愛らしい女の子の声が拡声器を通した感じに聴こえてきた。その声にみんなも話をやめて、オレ達を召喚したと思しき女の子2人の方に注目した。


「皆様、ご歓談のところ失礼致します。大変挨拶が遅れましたが、私、パルム=トゥス=オーギュストと申します。この度は魔王を倒してくださり、誠にありがとうございました。数百年の長きに渡る人類と魔物との戦いもここに終止符が打たれ、全世界の人々が皆様に感謝することと思います」


 小さな女の子が覚束ない感じで話し始めた。よく見ればもう1人の女の子が少女の傍にカンペを持って立っているようだった。それを読んでいるから話し方がたどたどしいのか。


「そこで、今宵、皆様のご活躍をねぎらうために、オーギュスト家で精一杯おもてなしをさせていただこうと考えております。皆様におかれましては、それまでオーギュスト家を我が家だと思ってごゆるりとお過ごしください。なにかしらご用命がございましたら、こちらにおりますキキが伺いますので、ご遠慮なくお申し付けください」


 依然としてよく分からないがDCOが魔王を倒したことでオレ達全員がその恩恵に預かれるってことなんだろうか。クラスのみんなもパルムの言葉にざわめき始めている。


「あ~あ~、え~、私、オーギュスト家に奉公しておりますキキ=ラティス=ぺル二シモと申します。これより皆様方のお世話をさせていただきますので、どうぞよろしくお願い致します。まずは勝手ではございますが、お茶を用意させていただきますので、お屋敷の方に案内させていただきます」


 そういうわけでオレはよく分からないまま大聖堂をあとにした。一体、誰なら状況が分かるのかが判然としない。DCOかHDK、MHKに聞くよりほかないんだろうが。


 大聖堂の外に出ると、まるで古い西洋の街並みを再現した観光地かと錯覚してしまいそうな風景が広がっていた。キキに従ってオレ達がぞろぞろ歩いていると、庭園にいる1人の年寄りにキキが声を掛けた。


「セバスチャン殿、こちらはパルム様が召喚した勇者様達です。今朝方来ていただき、早速魔王を倒してくれたのです。本日は勇者様達の活躍を慰労するため、忙しくなるかと思いますがご協力よろしくお願い致します」

「ああ、魔王を倒した件はさっき大聖堂から出てきた少年から聞いたよ」

「あら、もう外に出た勇者様がおられましたか?」

「うん、いまあそこのベンチに腰掛けて休んでおられるよ。でも、あの少年も不思議な子だな。ワシに魔王討伐のことを教えてくれたばかりか、先程はHP回復薬とMP回復薬をありがとうございましたと礼を言われたよ。そんな物を差し上げた覚えもないんで何かの間違いかと思って話してみると、なんと彼は屋敷にある回復薬の部屋の位置まで知っておったし、確かにワシが彼を案内したと言うんだな。なあキキよ、ワシはワシの記憶力の不確かさに鳥肌が立ったよ。そろそろ隠居する時期かもしらん」

「ふ、なにを。セバスチャン殿はまだまだ大丈夫です。それはきっと勇者様の不思議な力によるものと思って、気を落とされずに」

「ああ、ありがとう。ああ、勇者様達をお屋敷にお連れするなら、あの少年にも声を掛けてこようか」


 やや離れた花壇の前のベンチにGLOは座っていた。いまのキキとセバスチャンの会話から、GLOがHP回復薬とMP回復薬を服用していたということが判明したわけだが、セバスチャンの方はそれを覚えていない。これは ≪リセット≫ が関係してるな? そして、GLOは明らかに召喚から魔王討伐までに何があったかについて知っている。少なくとも、オレよりは。


「ちょっと待ってください。彼ならオレが呼んできますので、キキさんはどうかみんなを連れて先にお屋敷の方へ行っていてください。オレは少し彼と話がありますので」


 この機を利用して、オレはGLOに事の顛末を聞いてみようと思った。


 オレが近づいてゆく気配を察したのか、GLOがオレの方を見た。


「やあ、GLO。こんなところにいたのか」

「なんだMVPのPAOか。どうした? みんなと一緒に屋敷に行かなくていいのか?」

「MVPとか言うなよ。オレ自身がなんのことだか分かってないんだから」

「全く? 見当が付かない?」

「ああ、全然分からないよ」

「そうか」


 魔王を倒したあとのみんなは多少のいざこざこそあれどこか浮かれていたが、彼は違った。何か考えごとをしている最中かのように、ゆっくりと、重たそうに口を開いていた。だからこそオレは彼から語られるであろう真相に期待した。そうした全てのほかの人との違いが、絶対に彼は何かを知っていると思わせた。


「なあ、GLOは何があったか知ってんだろ?」


 だからオレは期待を込めて彼にそう尋ねた。

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