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一転攻勢 ⑬

「ダメ! 相手は魔王だよ? 近くで観戦してて巻き込まれたらどうするの?」

「大丈夫だよ。聖拳を極めたDCOを相手にしてんだから、魔王にも余所見する暇なんかないでしょ」

「下手すると私達の誰かが人質に取られる可能性だってあるわけじゃん」

「でもここからだと2人の闘ってる姿もよく見えないしさぁ、闘いが終わったあとに結果だけ教えられてはいお疲れさんって、そんなのでいいわけ? 私はやだよ」

「そんなふうに言われると、私だってそんなの嫌だけど」

「でしょ?」


 大聖堂内にはまだ ≪カタストロフィ≫ の効果があるから、中に入れば私とHDKはたちまちただの女の子になってしまう。そんな雑魚2人が最終形態の魔王の傍に近寄るなんて無謀もいいとこだ。けど、これ以上薄情なことを言えば後が大変そうだったから渋々ながら私もHDKと一緒に大聖堂内に入ることにした。


 DCOと魔王から約13~15メートル程の位置にある円柱に身を隠し、顔だけ出して2人の様子を見守る。


 DCOは ≪極聖≫ の構えを取って以降、まだ動いていない。魔王も斜に構えてDCOを睨んだまま動かない。唐突に聖拳を極めてしまったうえに元気まで取り戻したDCOにどう対処するか考えているのかもしれないな。


「解せぬ」


 苦虫を噛み潰したような顔でそう言う魔王。


「あ? 何が解せねえってんだ?」

「ついさっきまで虫の息だったくせに、一瞬で回復したろ? 一体、何をした?」

「そいつぁ企業秘密ってヤツよ」

「黒魔導士の女以外にも味方がいたか?」

「秘密だっつってんだろ?」


 魔王がこちらを振り向くと同時に跳んだ。だけど、私の目は魔王の動きを捉えきれない。頭の中にお盆前によく家に飾ってた走馬灯がほわんほわんと浮かび上がってくる。いやそこは思い出がフラッシュバックするとこでしょ?


 瞬間、目の前で凄い音が鳴ったかと思うと砂埃が舞い上がったから、思わず袖口で目を覆った。そこへ人影が現われたので顔を上げてみると、目の前にDCOが立っていた。


「おめえらなんでこんなとこにいんだよ!? 死にてえのか!?」


 DCOが頬を膨らませて怒った。もとい、彼の頬は元々膨らんでるんだ。そして、彼の足元には地べたに這いつくばった魔王の姿があった。魔王が私達に到達するより先にDCOが魔王に追い付いてやっつけてくれたに違いない。私が目で捉え切れず一切反応できなかったスピードに対し、DCOは後から動き始めたにもかかわらず追い付き、かつ1撃を喰らわせたわけだ。ひょっとすると私が知ってる未来のDCOよりもいまのDCOの方が強いんじゃないだろうか。


「すいません勇者様! ですが、どうしても勇者様のお傍で勇者様の闘いぶりを見守りたいのです! 死ぬ覚悟はできております! どうか、このままここで勇者様と魔王の闘いを見守らせてください」

「おお・・・・・・」


 キキさんの鬼気迫る言葉に私とHDKから感嘆の息が漏れる。


「よく言った! だったら少し離れて見てな」


 数秒前まで凄い剣幕だったのに、いまのDCOったらどことなく良い顔になってる。


「MHK、さっきはありがとな。おかげでまた魔王と闘えたよ」

「元気になったみたいでよかったよ」

「それより魔王にトドメを刺した?」


 そうだ。魔王は倒れてはいるもののまだ死んだと決まったわけじゃない。


 そのとき、魔王の身体から真っ黒なオーラがほとばしり始めた。


「おおっと!?」


 さすがのDCOもその現象に驚いたのか魔王の傍から跳び退いた。


「キキさん、ここは少し離れましょう」


 あまりに魔王に近寄り過ぎていたから、私達もある程度距離を置くことにして後方に退くことに。至近距離から離れることが名残惜しいのかキキさんはジっと魔王の方を見詰めたまま、私とHDKに腕を取られて引き摺られていった。正直、なぜキキさんが死を覚悟してまでDCOと魔王との闘いを観戦したがっているのかが理解できなかった。私達を召喚した側の責任感なのかな? それとも勇者対魔王の世紀の一戦のS席の観戦チケットが自分の命よりお高いとでも考えているのだろうか? うう、人の命が安いのか勇者対魔王の一戦がレアなのか分かんなくなってきたぞ。


「あれは・・・・・・魔神ヤルデオラの闇の闘気!!」


 そんなキキさんが私達に引き摺られながらそう口にした。


「ヤ、ヤルデオラ?」

「はい、ヤルデオラはその昔、神々がまだ地上にいたころに女神に闘いを挑んでいた魔神なんですが、ヤルデオラは闇の闘気を纏うことにより女神と対等に闘うことができたと言われています。その闇の闘気というのが、聖なる力および魔法によるダメージを大幅に減少させる効果と自身の肉体を強化する効果を併せ持つとかなんとか」

「ひええ」

「さすがオーギュスト家の召使い、博識だな」

「それほどでもあるですよ!」

「いよいよ魔王さんも本気ってとこかぁ?」

「おいおいあまり粋がるなよDCO。これは貴様が私とのサシの勝負を拒んだからこそ用いた苦肉の策でしかない。この闇の闘気は肉体を強化する力に優れているが魔力を恐ろしく喰うから魔法との併用には向かなくてな。つまり、闇の闘気を纏うと魔法が使えなくなり、貴様と同じただの武闘家になってしまうというわけなんだが」

「魔法が使えなかったのはさっきからずっとじゃねえか。なにいまさら言ってんだ?」

「D~C~O~。貴様は何も思わんのか? 先程は仲間の黒魔導士の策で私の魔法を使えなくしたんだろうが、いまは私の方からわざわざ貴様と同じ土俵に下りてきてやったんだぞ」

「あ?」

「貴様は、悔しくはないのかね?」

「むむ」

「私と貴様、本来はどちらが強いと思う?」

「ぬ」

「この闇の闘気を私が武闘家相手に纏ったのはこれが初めてだ。貴様に、この言葉の意味が分かるか?」


 もしかして魔王がDCOの心を揺さぶりにきてる?


「DCO! そんなヤツの言うことに聞く耳持つなー!」


 HDKが叫ぶ。


「そうだよ!」


 私もそう思ったから同意をDCOに対して示す。


「さて、お喋りにもいささか飽きた」


 魔王がそうポツリと言ったと思った瞬間、DCOが魔王の蹴りを貰って吹っ飛んでいた。さっきまではDCOの動きの方が明らかに魔王を上回っていたのに、闇の闘気のせいでまた逆転されてしまったの?


「いまのは闇の闘気を纏った魔王との初めての攻防。初見では反応が遅れるのもやむを得ません。問題はここからです」


 キキさんがそう言って固唾を飲む。


「がんばれー! DCO!」


 HDKが声援を送る。


 だけど、それ以後の攻防でもDCOはどこか精彩を欠いているように見えた。決して一方的にやられてるってわけじゃないんだ。実力はいまだに拮抗している。なのに、魔王に対し攻めあぐねているというか、遠慮しているんじゃないかって感じだった。


「ヤバいけど良い。ヤバいけど凄く良いよDCO」


 キキさんが意味不明なことを口走り始めたので、一体何が良いのか尋ねてみたところ、


「いまのDCOは武闘家としてのプライドと人類の未来のために魔王を倒さなくてはという正義感とによる板挟み状態、己の胸の内に葛藤を抱えて闘ってるんです。プライドが闘いへの集中を邪魔していることはおそらく当人も承知しているのでしょうが、それでも一武闘家としてこのまま魔王を倒してしまうことを容認できない自分もいて。そのように煩悶しながら魔王と闘うDCOの姿が私のツボにドストライクで刺さりまくってるんですホントにいまのDCOは最高です私イッちゃいそう」


 ちょっとキキさんが何言ってるのか分かんない。


「魔王の悪魔の囁きによってDCOのプライドは傷付いちゃったからね。その傷付いたプライドを回復させるには魔法を使える魔王と闘って勝つしかないんだけど、ふだん魔法を使わない人間が相手の魔法を考慮しながら闘うのは困難極まりないし。じゃあ、DCOはどうするべきか?」


 パルムさんはまともなことを言ってる感じ。確かに、DCOの一武闘家としてのプライドなんて私達はまったく考えずに作戦を練ったからね。そこを突かれてDCOが弱ってしまうのも頷ける。DCO・・・・・・パンツ一丁で闘ってたからもう恥も外聞も投げ捨てたものと思っていたのに、武闘家としてのプライドは捨ててなかったんだね。ああ、私まで変なとこで感心しちゃってる!?


「どうしよう? このままじゃジリ貧だよ。あんな魔王の言葉でDCOがここまで弱るなんて」


 HDKも困り顔。ホントにどうしたらいいんだろう?


「やれやれ、キミ達は全てを把握していると思っていたのに、いまさらバカなことで悩んでいるんだな」


 そう言ったのは困り果てていた私達の傍にいつのまにか来ていたGLOだった。

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