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一転攻勢 ⑫

「あん!」


 だけど彼女が回復魔法の塊に触れると、その塊は消えてしまった。


「何変な声出してんのよ?」

「なんか私が回復したげな」

「元気もりもり?」

「とっくもりぃ・・・・・・って、ふざけてる場合じゃないよ! MHKが投げなきゃダメみたいだね」

「そっかぁ。でもHDKの旅の中でも私ってみんなに同じこと言わせてたんだね。なんか不思議っていうか変わらないんだなぁっていうか」

「それはとてもいいことだよ」

「そう?」

「少なくとも私には、ね」

「実はHDKこの合い言葉好きでしょ?」

「ん~、ま、少しは」

「友達っていうあかしだからね」

「それより早く次を作って投げる準備しなよ」

「うん、するする。≪元気もりもり≫」


 改めて回復魔法のボールを作り出す。ちょうど野球の硬球くらいの大きさかな。球の色は白いけど、縁が青く光っている感じ。これが回復魔法の色なのかな?


「見て! 魔王の様子が変だよ!」


 私が第2の回復魔法の球を作り出してまもなく、HDKが大聖堂内の戦いを見ながらそう言った。


「確かに、なんか魔王がDCOにビビってる感じだね」

「きっと聖拳を極めたんだよ! さっきまで余裕のよっちゃんで戦ってた魔王が明らかに怯んでんだもん。間違いないよ!」

「どど、どうしよう!?」

「決まってんじゃん! 投げるんだよ! その元気の球をDCOにぶつけるんだ!」

「そ、そうだね」

「焦らないで、正確にDCOの胸の辺りを狙うんだよ」

「そんなことが果たしてできるのか分かんないけど、やってみるよ」

「さあMHKマウンドに上がりました。果たして初球はどのような球を投げるのでしょうか?」

「ちょっと緊張してるんでしょうか動きが固いですねぇ。身体は温まってるんでしょうか?」

「あのぉ、キキさんにパルムさん? ちょっと黙っててもらえませんか」

「ええ? 何言ってんのキキちゃんとパルムちゃんはMHKの緊張をほぐそうとしてくれてるんじゃん雰囲気って大事じゃん。みんなMHKのことを応援してるんだよ」

「そ、そう思うとありがたく感じるね。分かったよ。私、がんばる!」


 大聖堂内での緊迫した闘いとは裏腹にちぐはぐした空気だけど、やってることは大真面目だからね。みんなの気持ちをこの1球に乗せて、いま、投げる!


「喰らえ! 大リーグボール・・・・・・」


 あう!!


「おおっとこれはすっぽ抜けたかぁ!! ボールは思わぬ方向に飛んでいってしまったぁ! これはさすがに全盛期のイチローでも捕れないでしょう。ファール、完全にファールボールですファー!!」

「キキさんゴルフのOBじゃないんですから。それにしてもこれは野球史に残る大暴投ですねぇ。アイドルの始球式の方がまだマシと言えるのではないでしょうか」

「ドンマイドンマイMHK。まだワンボールだよ。それにちゃんと球がぶっ飛んでる分アイドルの始球式よりゃマシだよ! 自信を持って! あとは真っすぐ投げるだけだ!」

「ん、レベルだけは高いからね」


 ありがとうHDK。でももう泣きたいよ。


「マウンド上のMHK。一体どうしてしまったのでしょうか、一向に次を投げる気配を見せません」

「これはかなり参ってますねぇ。本来ならもう交代すべきなのでしょうが、あいにく元気球を投げられるのはMHKだけですから、彼女にはどうにか早く立ち直ってもらいたいですね」

「ちょっとMHK、投げるフリだけしてみて」


 HDKの要望に応えて、おそるおそる投げるフリだけしてみせた。それを何度か繰り返すと、


「分かった!」


 とHDKなにやら気付いた模様。私の傍にやってきて、彼女が手取り足取り投球フォームを教えてくれた。


「いい? MHKの場合肘が肩より下がってるんだよ。それであれだけ投げられるんだからポテンシャルは相当なもんだと思うよ。で、こう、こんな感じで投げてみて」


 HDKのお薦めする正しい投球フォームもなんだかしっくりこないけど、元々ダメだったんだからここは素直に彼女の言うとおりに投げてみよっか。


「≪元気もりもり≫」


 キイイィィィ・・・・・・ィン。


 甲高い音を発しながら生成された第2球が私の手の中に納まる。一球入魂!


「喰らえ! 大リーグボール! 絶対デッドボール狙うマン!!」


 自然とボールにスピンが加わり、前方へ伸びてゆく力が伝わったのが分かった。


「速い!?」

「時速160キロ台以上出てんじゃない?」

「やっぱレベルの高いヤツは違うな」


 ボールが真っすぐに中空を突き抜けてゆく。自分が投げた球だっていうのがまだ信じられない。


「当った!」

「どうだ!?」


 凄まじい速度で回復魔法の球がDCOの背にぶつかり消えてゆくのが見えた。DCOがちゃんと回復したのかどうか固唾を飲んで見守る私達。元気になったのか? それともトドメを刺しちゃったか? ふつうは剛速球をぶっつけられたらタンカで運ばれちゃうからね。


「たあ!」


 そのとき、DCOがバク転した。ダン! ダン! ダン! と三回転。魔王との距離を取った。さっきまでは満足に動くことさえままならない様子だったのに。


「回復してる、回復してるよ!」


 隣に立つHDKが私の肩を揺すりながら興奮気味にそう教えてくれた。


「むむ、あの構えは・・・・・・。そして勇者様から発せられる莫大な聖なる力、間違いない。あの構えは聖拳をマスターした者のみが会得するとされる聖拳究極の型 ≪極聖≫ ですね。あれは師から弟子へは伝えられることのない型ということで有名でして、なんでも聖拳を極めしとき、自ずからどのような構えが聖なる力を最大限に生かすことができるかを知り、そうして辿り着く型であるようです」


 物知りなキキさんがDCOの様子を解説してくれてる。ここに至ってようやくDCOが聖拳を本当に極めたんだと実感。


「DCO! 元気もりもりー!?」


 突然、HDKが叫んだ。それ知らない人にとっては完全に意味不明な言葉だと思うんだけど。なのに、


「とっくもりだぁ!」


 DCOからもHDKと同じく正答が返ってきた。いまDCOは私達に背を向けてるから、表情までは見えないけれど、その威勢の良い声からも彼が本当に元気になったんだと分かった。


「ね、DCO、元気もりもりになったってさ」

「うん、うん」

「バッカ、中継ぎが仕事を全うしたからって泣いてんじゃねえよ。これから9回の攻防が始まるんだから。泣くのは抑えのDCOがきっちり魔王を完封してからにしようね」

「大丈夫、DCOは負けないよ。HDKも知ってると思うけど、聖拳を極めたDCOは魔物には滅法強いんだ。そりゃもうアホかっていうくらい」

「うん、知ってる。魔物にとってはDCOの方が完全に化物だったからね。多彩な魔法を使う相手に1対1だと手こずることもあったけど」

「そこは HDKの≪カタストロフィ≫ があるから大丈夫だね!」

「そういうことイエーイ!」

「イエーイ」

 

 なんだかよく分かんないけどHDKのノリに釣られてハイタッチを交わす私達。


「あのぉ、そういう感じでしたらもっと近くで勇者様と魔王の闘いを見ても大丈夫でしょうか?」

「ええ?」

「そうだね外野席から見るよりやっぱ内野席から観戦したいよね!」


 キキさんの思いがけない提案に意外にも乗り気なHDK。


 あのぉ、そういう油断が敗北に繋がるんじゃないでしょうか? 

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