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一転攻勢 ⑪

 大聖堂の中にHDKの姿を探すと、意外にも彼女はまだ魔王とDCOの割と近くにいた。2人の闘いに巻き込まれない程度には距離を取っているつもりなのかもしれないけど、相手は魔王だよ? もっと離れていないと危ないんじゃない? 呆れながら彼女にそのことを咎めてみると、


「だってDCOが闘ってるのに私だけが物影に隠れてるわけにはいかないでしょ!?」


 と逆に私が彼女に呆れられてしまった。


「その気持ちは分かるけど、HDKにはいざってときに ≪リセット≫ する役目があるでしょ? なのにもしHDKが先に魔王にやられちゃったら話になんないじゃん」

「そうだよ。だから私にはDCOの闘いを見届ける義務があるんだ」

「DCOと魔王の闘いを見てないといけないのは分かるんだけどね、だったらもっと離れて見ててよ」

「そうするといざってときに何もできないじゃない?」

「いやいや、いざってときは ≪リセット≫ するんだよね?」

「いやそういうことじゃなくってさ」


 なんだこの話が噛み合わない感は?


「GLOがさっき言ってたけど、DCOはいまHDKに命を預けてんだよ? つまり、いまのDCOにはもう命がないわけ。もう死んでるとまでは言わないけどさ、DCOははっきり言ってもう死んでもいいの。分かってる?」

「ん? MHKこそなに訳の分からないこと言ってんだよ? 死んでいいわけないじゃん」

「そりゃそうなんだけど、そうじゃないの。ああ、こう言えばいいか。ねえ、DCOはHDKが ≪リセット≫ すると信じてHDKに命をくれてんだよ。だったら、HDKはDCOを信じて万が一のときに ≪リセット≫ することを最優先に考えて動かなきゃダメなんじゃないのかな? DCOもきっと同じように思ってると思うけど」

「そうだよ、私もDCOが聖拳を極めて魔王に勝つって信じてる。だからこそここにいるの。DCOを1人にしたくないし」


 ああこれはダメだな。HDKって結構素直な方だと思ってたけどなんでいまはこんなに意固地なんだ? ああそうだHDKは意外と熱い子だった。


「それはそれとして、DCOが聖拳を極めたらDCOを回復するから、≪カタストロフィ≫ を解除する準備しておいて」


 これ以上HDKと言い合いしても仕方ないから、話題を変えた。


「それ、私もずっと考えてたんだけどさ、≪カタストロフィ≫ は解除できない」

「え? できるでしょ? だって、未来のHDKが ≪カタストロフィ≫ を一時的に解除するからその間にDCOを回復しようって言ったんだよ?」

「もちろん、解除することはできるよ。でも、私が ≪カタストロフィ≫ を解除したとして、MHKはDCOの傍まで行って回復魔法を使えるの? 自信はある? いや、そんなの聞いてもしょうがないか。無理だよ。DCOを回復する隙なんてできっこない」

「回復する時間は私とMHKで作るんだよ! 少なくとも、未来のHDKはそう言ってた! 魔法が使えるようになったら自分が魔王の魔法を抑えるからその隙に回復してって、そう言ってたのに!」

「確か、それ言ってたヤツって魔王と戦った経験もないし最終形態の魔王の動きも見てないんだよね」

「ぐぬぬ・・・・・・HDKが思ってたよりも魔王はデタラメに強かったってこと?」

「うん、いままで出会ってきたどんな魔物よりも怪物よりも飛び抜けてるから、そいつらから魔王の強さを計ろうとしてたのがアホ丸出しだったって感じ。MHKには分かんない?」

「私は元々前で戦う方じゃないし、今回も直に魔王と手を合わせたわけじゃないから、HDKが言う程魔王の強さがデタラメだとは感じないけど」

「DCOのステータスが近接戦闘系でかつ魔王も同じ土俵に立ってるからそう見えるのかもしれないけど、同じ土俵の上でもやや魔王の方が押し気味に闘ってるんだ。これに魔法がプラスされてみ? 一瞬でいまの均衡は崩れるから」

「でもなにかしなくちゃ、このまま指咥えて見てるだけでいいの!?」

「よくないよ! そんなの分かってる! だからいまもどうすればいいか考えてんだ!」

「ごめん。ちょっとHDKのこと誤解してた」

「こっちこそ、怒鳴っちゃってごめん」

「いいんだ。でも、DCOがどこまでいけるか分かんないし、≪カタストロフィ≫ はこのあと解除するってもう決めてほしいんだ」

「え?」

「解除したあと、回復魔法をちゃんとDCOにしてあげられるかどうかは分かんないけどね。でも、トライくらいさせてよ」

「それこそ死ぬかもしれないよ?」

「そのときはHDKが ≪リセット≫ して次の魔王との戦いに繋げてくれるから、ここで死ぬのは別に怖くないよ」

「・・・・・・まったく、分かったよ。じゃ、とりあえず少し退こうか」


 ここまで話してみて、HDKがどれほどこの1戦と真剣に向き合っているかが分かったような気がした。負けても次があるなんてきっと彼女は思ってないんだ。彼女はソフトボール部だから、そんなふうに思ってしまうのかもしれない。でも、それで思い切った行動を取れなくなっているなら、周りが彼女の固くなった気持ちをほぐしてあげなきゃいけないよね。


「あなたは穏健派かと思って見ていたのですが、なかなかどうして、結構過激なことを言いますね」

「ふぇ!?」


 突然背後から聞こえた声にびっくりして変な声が出た。振り返るとキキさんとパルムさんがそこにいた。なんで彼女達までこんな戦いの場の近くまで来たんだ?


「私もこのような凄い闘いを間近で見ることができたので、もういつ死んでも悔いはありません。うるうる」

「私も同感だよ。といっても、勇者様達が勝つ姿を見たいけど」


 よく見ればキキさんもパルムさんも目に涙を浮かべている。よっぽどDCOが闘う姿に感動しているみたい。いやいや、いまはそれどころじゃないんだ。せっかくHDKが退こうと言ってくれたのに、キキさんとパルムさんと話してる時間はない。2人にも私達と一緒に退いてもらって、私達4人は大聖堂の出入り口の外部側に陣取ることに。


「ここだと魔法が使えるんだよね?」

「うん、ここは ≪カタストロフィ≫ の範囲外だから」

「う~ん、例えば ≪カタストロフィ≫ はそのままにしておいてさ、DCOにここまで来てもらって回復するってできないかなぁ?」

「ん~、却下。もうDCOに魔王をかわしてこっちに走ってくる体力なさそう。ってか、そろそろDCOヤバいかも」

「あの、1つお聞きしたいんですが、ここで魔法を練って大聖堂の中へ向けて撃つとどうなるんですか?」


 キキさんが素朴な疑問をぶつけてきた。≪カタストロフィ≫ の範囲内に入った時点で消えるんじゃない? と私は心の中で回答を思い浮かべる。


「≪カタストロフィ≫ の範囲内に到達した時点で霧散すると思うけど」


 HDKも私が思ったのと同じように答える。そりゃそうだよね。


「≪バーン≫」


 直後、HDKが答え合わせをするように大聖堂の中へ向けて小さな火を放つ。ビー玉のような大きさの赤く光る球が大聖堂の床に着弾すると小さな範囲でメラメラと炎を上げて燃え広がる。あれ? これって魔法の効果生きてんじゃない?


「≪カタストロフィ≫ 破れたり!」


 突然HDKがそう力強く言った。


「外から撃った分には効果を発揮しないんだねぇ。初めて知ったわぁ」


 HDKが自分のことなのにまるで他人事のように感心している。


「そうだ! 思い付いたんだけど、こっから回復魔法を撃ってDCOに当てるってどう!?」


≪カタストロフィ≫ の欠陥を逆手に取ったアイデアなんだろうけど、残念ながら私、回復魔法を撃つことができないんだよね。相手の傍にいないと回復させられないんだ。HDKもそれが分かってるから、さっきは回復する隙を作ることができないって言って悩んでたんじゃないのかな?


「せっかく思い付いたのに悪いんだけど、私の回復魔法って遠くにいる人には使えないんだよね」

「まあ言いたいことは分かるよ。私もMHKが回復魔法を撃ってるってのを見たことないし。でもやってみたこともないでしょ?」

「だって撃つ、ぶつけるってのと回復のイメージが結び付かないからさ。撃つっていうとどちらかというと治療とは真逆で病院送りにするって感じじゃん?」

「ぶっつけ本番になるけど試してみてよ。私の ≪カタストロフィ≫ に思いがけない弱点があったように、もしかするとMHKの回復魔法にもまだMHKにさえ分かっていない特性があるかもしれないじゃない」

「それはあるね」

「ダメならダメでしょうがないし、どうせダメ元なんだから」

「分かったやってみる」


 前方に解き放つイメージで回復魔法を使ってみる。すると前にかざした両の手の平の前に回復する相手のいない回復魔法の塊的なモノが球状になって現われた。なんだこの現象は? 試しに空中に留まっているそれを手に持ってみるとゴムボールのような弾力があった。


「お? お? なにそれ?」

「なんかこんなふうになった。たぶんこれ回復魔法の塊だよ」

「それ持ってるの?」

「そう。なんかゴムボールみたい」

「いい! いいじゃんそれ! それをDCOに向けて投げるんだよ!」

「ええ? でも私ボール投げるの下手だし」

「そしたら私の肩の出番かぁ?」

「頼んでいい?」

「任せ」


 そういうわけで、私は自信満々なHDKに回復魔法の塊を差し出した。

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