表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/39

一転攻勢 ⑩

× × × × × ×




「旅に出ようって話してたら、誰かが戻って来たよって名乗りを上げてくれるわけだね!」

「そういうことだ。じゃ、行くか」


「待って!」


 HDKとGLOの会話に割り込む形で待ったを掛けた。


「旅に出る必要はないよ!」

「ん? MHK?」

「そうおっしゃられるということは!?」

「まさか!?」

「ふふ、キミ達がお探しの人物はすでにキミ達の目の前にいるんだよ」

「ということは!?」

「そういうことでしょ!?」

「そう、もうみんなは旅に出たんだ。そして戻って来たのが私ってわけ」

「おお! 噂をすればってヤツじゃん!?」

「すごいすごい! 奇跡的なことが起きてる感じ!」


 HDKとDCOが無邪気にはしゃいでいる一方で、GLOだけはうん分かってたって感じに無感動だ。この温度差をGLOの性格のせいだけとは思わない。HDKとDCOはすでに1度旅した記憶を持っているから、きっと3年後の私が戻って来たことを旧友の再来のように喜んでくれているのだろうけれど、GLOにとっては強くなった駒が増えたくらいの感覚なのかもしれないね。


 まずはきちんと私の役割を伝えなくてはと思い、手を翳して2人がはしゃいでいるのを制した。


「私回復役だから基本的に戦闘には参加できないよ。回復もできるだけ最小限に留めるつもり。というのも、私が仲間を回復させてるのがばれた時点で魔王は私を狙うだろうから。私、回復以外は雑魚だし」

「そうだな、回復役から倒すのは剣と魔法のRPGだと基本だからな。魔王がバカでなければそうするだろう」

「うん、だから、回復するタイミングも私に任せてほしいんだ。もちろん、私は2人がどうやって魔王と戦おうとしてるかも知ってる。だからDCOとHDKには悪いけど、私がいることは忘れて、2人だけのつもりで戦ってみて」

「ふ~ん、それってたぶんみんなと話し合って決めたことなんだろ?」

「うん」

「だったら、何も言わずにそうさせてもらうよ」

「あ、DCO、私もDCOに伝えておきたいことがあるんだけど」

「ええ? だってもうそろそろ虎が来るぜ?」

「虎を倒しながらでいいから、話せる?」

「まあ、大丈夫だ」

「DCO、実は僕にもDCOに伝えたいことがある」

「なんだGLOもかよ?」

「あらあら、みんなが ≪セーブ≫ したポイントの間隔が狭過ぎたんだろうけど、それぞれの用事が消化しきれていなかったみたいだね」

「HDK、僕はDCOと一緒に戦えないから先に言わせてもらうぞ」

「いいよ」

「DCO、聖拳を極めたいなら、さっさとHDKに命を預けてしまえ。いくら強力な仲間が増えようと、結局魔王にとどめを刺すのはDCOなんだ。DCOが死んでもHDKが ≪リセット≫ してくれるからな。DCOは余計なことは心配せずに魔王を倒すことに専念すればいい」

「聖拳を極めたいなら?」

「DCOとHDKのコンビが魔王と戦って得た情報を、オレは教えてもらってるんだ。なあ、これを誰が言ったかってのはこの際関係ない。これはオレ達の仲間の言葉だ」

「おう、分かったよ。ってわけだから、HDK。オレがやばくなったら頼むぜ?」

「うん、任せて」

「なにか勘違いしているようだな。僕が言ったのはそういう意味じゃないぞDCO。僕はキミに、HDKがいるから安心して死んでくれって言ったんだ」

「おいおい、そいつは酷くないか?」

「酷いかもしれないが、これが聖拳を極めるための心構えらしいぞ」

「やれやれ、聖拳を極めるのも楽じゃなさそうだな」

「とはいえ1度は極めてるんだ。自信を持って臨めばいいさ」

「ああ、それもそうだな」

「じゃ、GLO、次は私が話してもいい?」

「ああ、もう僕の方はいいよ」

「ありがと」


 HDKとDCOは虎を迎え撃つためにクラスのみんながいる場所から離れていった。


「なんだなんだ? HDKとDCOが魔物達の方に向かってるけど、もしかしてあの2人ってチート持ち?」

「まあこれだけ人数がいれば何人かチート持ちがいてもおかしくないだろ? だって異世界転移にチートは付き物だからな」

「チートイエーィ! HDKイエーィ! DCOイエーィ!」

「ほかにチート持ってるヤツいねえのかよ?」


 事情を知らないみんながHDKとDCOが動いたことをきっかけに騒ぎ始めた。あの2人が努力して手に入れた力でみんなを守ろうとしているってのに、それをチートだなんだと決めつけられるのはなんだか面白くなかった。


「やれやれ、虎がもう出てきたな。ちょっと遅いけど僕はパルムさんに召喚をお願いしてくるよ」


 GLOがみんなの様子に肩を竦めて、それからパルムさんの方へ向かった。


 きちんと前回と同じ筋書きをなぞれているのかどうかが気になった。もしかして私が戻ってきたことで早くも未来が変わってしまったとか? まだ何も大きな影響は与えていないつもりなのだけれど。私が未来に影響を及ぼすとすれば、それは私が回復魔法を使った段階でのはずだった。


 まもなくパルムさんがウルトラにゃんという正義の味方を召喚し、ウルトラにゃんが魔物の群れに突っ込んでいった。そのころHDKとDCOはまだ話をしていたようだけれど、そのうちHDKが飛び上がり、≪メテオレイン≫ を撃った。強力な魔法をHDKが放ったことでみんなから歓声が上がった。中には別の意味で歓声を上げている男子もいた。HDKのパンツが見えていることに興奮しているみたい。最低だ。


 みんなが会話を楽しみながら観戦しているっていうのに、そんな中、GLOは眉1つ動かさずに2人の闘いの様子を1人で見詰めている。さすがにGLOだけはほかのみんなとは佇まいが違うね。あ、もしかするとこの時点のGLOには適当な話し相手がいないってだけなのかもしれないけど。


 魔王との戦いはいまのところ正義の味方達が優勢のようだった。魔王が第3形態に変わろうとするころ、HDKが正義の味方達に合流。そして、第3形態の魔王はすぐに最終形態へと移行を始める。その間にウルトラにゃんが星に帰っていった。ラーメンライダーは最終形態の魔王にすぐに殴り飛ばされるとそのままラーメンになって飛んでいった。


 遠目に見ていても分かる最終形態の魔王の圧倒的なスピード。


 その後、HDKがピンチになったけどDCOのファインプレイによりHDKセーフ! 直後、HDKが魔法を封じる魔法を発動させる。これで私の魔法も使えなくなったはずだと思い、試しにGLOに魔法を掛けてみることに。


「≪元気もりもり≫」

「・・・・・・」


 GLOがこちらを見た。無言。いつもなら私が ≪元気もりもり≫ と唱えれば「とっくもりー!」と相手が威勢良く返してくれるはずなのだけど、それも未来の話だからいまのGLOにそれを期待したって仕方のないことだとは分かってた。でもなんで無言なの? そこは「え?」でも「は?」でも「元気そうでなによりです」でもなんでもいいから何か言ってくれないと恥ずかしいんだけど。


 あ、結局何も言わずに魔王とDCOの方に視線を戻した。


 ここではたと思い出す。≪リセット≫ 前の心を開いたGLOは極端な例だから比較対象にならないけど、心を開く以前のGLOにしたって、実のところいまの時点のGLOと私達の関係よりもずっと仲良くなってたんだと、いまさらながら気付いた。なにしろ未来のGLOは私が ≪元気もりもり≫ の回復魔法を唱えれば渋々ながらも「とっくもり」と返してくれてたんだ。翻っていまのGLOと私の関係といえばいわゆるただの同級生ってだけ。異世界に召喚される前は会話すらしたことがなかった気もする。いわば乗合バスに乗り合わせただけの乗客同士くらい縁のない存在。こんな状況でなければ、お互いに意識することすらなく高校を卒業していたかもしれないんだ。


 はあ・・・・・・と、小さな溜め息が1つ漏れた。


 ほかのみんなより事情を把握しているといっても、GLOに未来の私達の生活のことまで分かるはずがないんだし、こんなことでヤキモキしてる場合じゃない。


 GLOが無反応だったから、私も ≪元気もりもり≫ の意味を彼に伝えることなくその場をあとにした。回復魔法を使うためにもHDKと相談しないとだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ