一転攻勢 ⑨
なんとDCOから最終ラウンド宣言が飛び出した。さっきまでサンドバッグのようにフルボッコにされていたDCOにもついに勝機が見えたってこと? 最後の魔王の反応は明らかにおかしかったしね。
「少し聖なる力の扱いに長けているからといってあんまり粋がるなよ。もうろくに動くことさえできないくせに」
「本気で言ってるならありがたいんだけど。そうやってオレの力をみくびってなよ」
「別にみくびってはいないさ」
魔王の突きのような蹴りがDCOの胸の辺りに繰り出されると、DCOもそれを両腕を交差させてガード。だがガードしてもそのまま尻餅を付いて転げてしまう始末。あらら、さっきの魔王じゃないけれど、言葉で強がってみせても身体は正直だ。せめてもの救いは倒れたDCOに対する魔王の追い討ちがないことか。なにせ魔王の方もいまは腰を下ろして、蹴り出した方の足を押さえ痛がっているのだから。その顔には脂汗がじっとりと滲んでいて、本当に苦しそう。
「へへ、聖拳をなめるなよ?」
「ふふ、だから最初から聖拳のことはみくびってなどいないさ」
「そうかい、残念だ」
「そして、いまのお互いの状態を見ればどちらが純粋な殴り合いに秀でているかも分かっただろう? 貴様は聖拳の力なしには私にたいしたダメージを与えることさえできなかった」
「魔法なしの殴り合いって意味じゃ、まだ勝負は付いてないはずなんだけどな」
「それを言うならお互いに全力を出し切ってこその勝負だろ?」
「ま、一理あるな」
「では、この中にいる邪魔者を消すぞ」
「あ?」
DCOが魔王の言葉を訝しむように聞き返したとき、すでに魔王は動こうとしていた。
魔王の目は私の方を見ていた。
あ、と思ったときには頭に電気が走ったような感覚が・・・・・・
* * * * * *
「DCO! DCOが ≪リセット≫ したな!? なにがあった!?」
GLOが怒ったような口調で尋ねてくる。ここはどこだ?
「ちょっと!? どうしてそんな突然ボロボロになってるの!?」
HDKがびっくりしてるな。ああ、そうだ。いまはHDKが戻って来て ≪セーブ≫ したところだな。そりゃ目の前にいたオレが突然傷だらけになっちまったら驚くわな。GLOはオレが ≪リセット≫ したんだと察したようだけど。
オレはHDKに ≪リセット≫ を託したからこそ自分の命を省みず闘いに集中できていたんだけど、HDKが死んじまったら、オレが ≪リセット≫ するほかなかった。≪リセット≫ をするならHDKでなきゃダメだった。多少は状況を理解しているGLOでもダメ。なにしろ魔王と戦ったヤツでないと、魔王と闘うというのがどういうことかを説明できないからな。
「HDK、これから、来る虎だけど、HDKが仕留めてくれ。できるだけ静かに。ちょっと、GLOに話したいことが、あるんだけど、こんな有様だから、時間がほしいんだ」
「うん、分かった!」
「GLO・・・・・・」
そして、状況を説明する相手としてはGLOが適任だと思った。GLOが情報を吸い上げて、また新たに作戦を練ってくれるのが一番だ。
「なんだ?」
「パンはパンでも、食らうと痛いパンって、な~んだ?」
「は? なんだそれ? フランスパンか? 固いから殴られても痛そうだし、食べても口の中が切れたりするし」
「ブ~、正解はコテンパンでしたぁ」
「お前は何を言ってるんだ?」
「HDKと一緒に魔王と戦ったんだけど、見てのとおりコテンパンにやられちまったから、≪リセット≫ したんだ・・・・・・」
オレはHDKがやろうとしていることや正義の味方の性格、魔王の強さ等々、先程のターンで得た情報を余すことなくGLOに伝えて、それからどうすべきか尋ねてみた。
「いまのままで何度やってもおそらく僕達の満足ゆく結果は得られないだろうと思う。仮に魔王を倒すことができても、DCOとHDKがボロボロになったんじゃ意味がないし」
確かに、魔王を倒したあとの ≪セーブ≫ は絶対必要だ。でないと、誰かが ≪リセット≫ してしまったときに魔王が復活してしまう。
「だからもう一度旅に出よう。いまのDCO、HDKのコンビをサポートする職業が加われば、魔王を完封することもできるんじゃないかな? 問題はそんな都合の良い職業のヤツがいるかどうかってところだが・・・・・・」
「ああ、それなら、いるよ。大丈夫、もう1度旅に出よう」
「もう1度と言っても、僕にとっては初めてだがな。ま、DCOとHDKにとっては2度目ってことになるんだろうが」
「まあ、いいさ。何度旅を繰り返したって、オレにも、HDKにも、3度目はないんだ」
「旅の記憶があるだけマシさ。おそらく僕は、結果としてだが、おそらく1度も旅に出ないんだろうし」
「へへ、魔王を倒したあとに話すけど、GLOには特別なプレゼントがあるんだぜ」
「いいよ気を遣わなくたって。≪リセット≫ しても物は持って帰って来れないんだから」
「土産話だよ」
「ああ、なるほど。ま、楽しみにしとくよ。じゃあ、今度はオレが ≪リセット≫ するぞ」
「うん、頼むよ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「・・・・・・いやあ、ほんの2~3分までは ≪リセット≫ したらすぐ ≪セーブ≫ って思ってたのに、案外すぐ忘れちゃうね」
「HDK、戻って来てすぐのところ悪いが、これからまた旅に出るぞ」
「え? どういうこと?」
「新たな仲間を増やして、魔王を圧倒できるようにするんだ。これは魔王と戦ったDCO、HDKと3人で話して決めたことだ」
「ふ~ん、分かった」
「で、オレとHDKで戦ってどうだったんだ? やっぱ魔王は倒せなかったのか?」
「ああ、はっきり言うぞ。今回は負けだ。だが、勝ち筋が見えないって程じゃない。だから今度の旅では2人のサポート役を仲間にしたいんだ」
「ああ、サポート役か」
「それならもう誰に ≪リセット≫ してもらうか決まってるようなもんじゃんね?」
「2人には心当りがあるようだな」
「そりゃ、大体の人の職業とか知ってるもん」
「な?」
「僕には言わなくていいからな。変に意識すると贔屓することになりかねん」
「さすがGLO。そういう考え方オレは好きだぜ」
「DCOに褒められても嬉しくないがな。とりあえずいま ≪セーブ≫ した。これで次回はここからスタートだ」
「旅に出ようって話してたら、誰かが戻って来たよって名乗りを上げてくれるわけだね!」
「そういうことだ。じゃ、行くか」
というわけで、僕達はまた旅に出た。
~そして3年後~
× × × × × ×
戻ってきました3年振りの大聖堂。召喚されたあとにDCOから ≪リセット≫ と ≪セーブ≫ について説明されたあとくらいのころか。
とりあえず ≪セーブ≫ してっと。
お、確かに事前情報と違わずHDKとDCO、GLOの3人がなにやら話をしている模様。
「旅に出ようって話してたら、誰かが戻って来たよって名乗りを上げてくれるわけだね!」
HDKが楽し気に話している。そうだねふつうなら私も戻って来たよ!って伝えるよね。でもごめんね。みんなと話し合った結果、職業がバレると真っ先に殺されるだろうという理由で、私は戻って来たことをみんなにも黙ってることになったんだ。もちろん理由はそればかりじゃなく、単純にHDKとDCOを驚かせたいっていう悪戯心もあるんだけどね。
私が登場するのはDCOがボロボロになりながらも聖拳を極めた瞬間だ。それまで2人との合流は我慢我慢。
って、あれ?
みんな外へ出て行ってるんですけど・・・・・・。
って、それもそのはず。私がなにも言わなきゃみんな旅に出るんじゃないか!!
未来のみんなで考えた案だったが、みんな肝心なとこが抜けてんだから。
まいったな。
そんなとき、不意に視界に入ったキキさんとパルムさん。懐かしい! だけど2人ともぽかんと口を半開きにして目を丸くしている。ああ、みんなが旅に出るとき2人はこんな顔して見送ってたのか。知らなかった。まあ、召喚してものの数分足らずでその場から集団脱走かませばこんな顔にもなるか。
待ってね。いまみんなを呼び戻すから。
はい、≪リセット≫。