一転攻勢 ②
オレがその去りゆく球体に気を取られている間、どうやら魔物達もオレと同じように呆然としていたようだ。
「ガルル」
獣の唸り声が漏れたかと思うと、オレを取り囲んでいた魔物達がじりじりとにじり寄ってくる。
「おいおいちょっとタイム! 選手交代だ! っと!!」
第2のゴリラ野郎が空気も読まずに手を出してきやがったが、間一髪でその鋭いパンチを避けるとほぼ同時にゴリラ野郎の分厚い腹を拳で抉る。
「ふふ、なかなか良いパンチ持ってるな」
「喋ったぁ!?」
「これでも霊長類だからな・・・・・・ガク」
ゴリラが喋ったことに驚いている暇もなく次々と飛んでくる拳や蹴りを腕でガードしたり足でガードしたり躱したり、殴り返したりと大忙し。もちろん全てを防ぎ切れるわけでもなく時折りパンチやキックを貰ってしまう。1対複数とあって手数に圧倒的な差があった。このままじゃ遅かれ早かれ袋叩きに遭っちまう。そこでオレは手近にいたオレと似た体形のオークを集中的に殴打して気を失わせたところで、そいつが着ていた皮の鎧を剥ぎ取り、早業でオレの身に着けた。これぞ身代わりの術だ。目の前の魔物達もオレとオークが顔を並べて立っているとどっちを殴っていいのか見当が付かないようだった。アホ面提げてジロジロとオレとオークを見比べてやがるんだ。
「おい、てめえら。どっちが味方か分からねえのか? 恰好見りゃすぐ分かるじゃねえか。こっちが正義の味方だろ!?」
オレは気絶したオークの頭をバシバシと叩きながら魔物達にそう言って聞かせた。すると魔物達も得心したようで一斉にオークに殴りかかる。ふっふっふっ、所詮、魔物といえでも獣は獣。あっさりと騙されてくれてオレは安心したよ。オレの代わりにオークが殴られてくれてる隙を付いて、オレは魔物達の足元を這いずり、ようやく魔物の輪の中から脱出することに成功した、かと思ったときだった。芋虫のように這いずるオレの目の前に人の子供のようなヤツがいた。見た目だけなら完全に人の子供。パルムより幼いくらいだ。そいつはまるでオレがそこから這い出してくるのが分かっていたかのように、オレの目の前にしゃがみ込んで這いつくばったオレの姿をジッと見ていた。変な形に被った赤白帽に体操着、胸に付けたゼッケンには【にゃんこ】の文字。一体この子は何者なんだ? 敵か、味方か。もしかするとパルムが召喚に失敗したのかもしれないな。
「なあ、お姉ちゃん。ここは危ねえよ? 悪いこと言わねえから後ろにいるみんなのところにいなよ」
「にゃん(黙れオークめ)」
ズブゥ・・・・・・。
あ、目潰し。
「目がああぁ、目が引っ込んだよおおぉ!! うおおおおん!」
突然の出来事に前後不覚になり、とにかく戦線離脱しなきゃってんで、一度みんながいる後方へ退避しようと床をごろごろ転がってゆく。目を、目を復活させないと!
「ウルトラにゃん! 少し下がってろ!」
目は見えないながらも、ラーメンライダーの声が耳朶を打った。
「いくぜ! ≪地獄のナルト・ターン≫!」
オレが後方へと転がっている最中、どうやらラーメンライダーが大技を使ったらしく、魔物達が群れをなしていた辺りからバイクの爆音と魔物達の悲鳴、それからバイクと魔物との衝突する音が響いてくる。同時に大聖堂が崩壊するのじゃないかと思われるほどの凄まじい地響きがあり、オレはそれはもう無我夢中で転がり逃げた。
「うえええ!? バイクが氷上のフィギュアスケーターのようにクルクル回ってるぅ!!」
「ラーメンライダーこそレジェンド・オブ・ライダーやでぇ!」
「待って! それよりDCOは!? DCOがいなくなってない!?」
「ホントだ! DCOは? は! まさか!?」
「まさか・・・・・・いまの ≪地獄のナルト・ターン≫ に巻き込まれて」
「ええ!? そんなアホな、やでぇ」
みんなとの距離が詰まってくるにつれて話し声も聴こえてくるようになった。オレの心配をしているようだけど、実際、いまはあまり無事とは言い難い。それでも現状を報告しようと思って立ち上がった。
「キャー、魔物だ」
「豚の化物よ!」
「オークだ!」
目が見えないからはっきりとは言えないけど、もしかしてみんなオレのこと見て騒いでんのか?
「違えよ! DCOだよ!」
「キャー、オークが喋ったぁ!」
「あ、ああ! 皮の鎧を着てるから間違うんだな!?」
「みんな落ち着け! そいつのトランクスを見てみろ! そいつは間違いなくDCOだ!」
GLOの言葉でみんなが平静を取り戻したので、ようやくオレも引っ込んだ目ん玉を元の位置に戻すことに専念することが可能になり、まもなく目ん玉も復活。うむ、視界も良好! これでまた戦えるな。
と、その前に・・・・・・。
「お前ら、その出来の悪い目を皿にしてよ~く見ておけよ!」
オレはそう啖呵を切って、オークから剥ぎ取った鎧を脱ぎ捨てた。
「あ、DCOだ」
「なんだ、ホントにDCOじゃん」
「おっかしいな、さっきまではオークにしか見えなかったんだけどなぁ」
「ようやく分かったか、このスットコドッコイ共! 今度間違えたら承知しねえからなぁ!?」
間抜け共にそう言い置いてから、改めて魔王の方に目を向けると、オレがさっき魔物に囲まれていたときとは戦局が一変していた。