折り返し ③
「今夜は酒が美味いよぉ。みんなで飲むとこんなに楽しいだなんていままで知らなかったなぁ」
「GLOヤバいんじゃない? ねえ、GLO、GLO。大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫っス! まだそこまで酔ってないっス!」
「うわぁ、これヤバいよ。もう先に寝たら?」
「もうまたそうやって人をハブろうとするんだから! 大丈夫、ホントに、何も問題ない。心配してくれてありがとう」
「べ、別に心配なんてしてないし!」
「明日には ≪リセット≫ でオレ達は消える運命だからな。最後くらい羽目を外したっていいさ。それに、GLOもここまでがんばってきたんだもんな」
「あ? 僕がいつなにをがんばったってんだよ? 大体酒飲んで賭場に入り浸ってたってのに」
「さっきGLOがトイレに立ったときに、DCOに聞いたんだよ。オレ達がパルムに召喚されたあと、誰よりも早くここまでの道筋を色々と試行錯誤しながら導き出したのがGLOだったってな。あと、酒と博打はみんなに ≪セーブ≫ を使わせないためのブラフだったってのも聞いた。少しムカついたけど、ま、作戦を立案した立場の人間だからこその責任感なのかなって、そう思うと逆にGLOって凄いなって思ったよ」
「うっさ! 別に凄くもなんともねえよ。っつうかDCO~、そんなの喋ってんじゃねえよ~。お前は僕を殺す気か? も~、恥ずかしい! 恥ずかしいよ~」
「ごめんよぉ、でもGLOのためを思って、つい」
「ちょ、GLOそんなにごろごろしてると酔いが回っちゃうよ?」
「やっぱ喋っちゃまずかったかなぁ」
「まずいよ! 酢豚にパイナップル入れるくらいまずいよ!」
「あれはお肉を柔らかくするために入れてるんだよ(※)」
「そんなの知るかよ。僕はあれが大っ嫌いなんだ、あれのせいで全てが台無しだよ」
「ふう、DCO、そんなに気にするなよ。DCOは酒と博打のせいでGLOがみんなから誤解されてるのをなんとかしたくて喋ったんだろ? GLOのために」
「うん、そうだよ」
「これはオレの持論だが、誰かがそいつのことを本当に思って言ってやるなら、それがたとえそいつを一時的に傷付けてしまうことになったとしても、そこに正しいとか間違ってるってのはないんじゃないかなって。だからDCOが本当にGLOのことを思ってオレ達に喋ってくれたんだったら、それが間違ってたってことはないんだよ。実際、オレはGLOのことを少なからず誤解していた部分もあったしな」
「ホントだよ。いままでGLOってあんまりやる気ないのかなって思ってたけど、実際はみんなに内緒で1人で問題を抱えてがんばってただなんて卑怯だよ!」
「そうだよ、私達にももっと話してくれたら良かったのに」
「ね、やり方はともかくGLOはみんなの、私達のことだけじゃなくって、本当にクラスみんなのことを考えて嫌われ役をやってたんだから、偉いと思うよ。なにも恥ずかしがることなんてないよ」
「そうそう」
「そうだよ」
「・・・・・・お、お、ぐすん。お前らが良いヤツら過ぎて泣けてくるな」
「ふふ、ホントだ。泣いてるね」
「泣くよ!」
「GLOがここで泣き出すとは思わなかった」
「泣きたくて泣いてるわけじゃないよ! ただ、ズズ、涙が、溢れてくるのを止められないんだ」
「いいんだよ泣いても。だって・・・・・・ぐすん、だって、今日がもう最後なんだもん」
「HDKまで貰い泣きか!?」
「そら貰い泣くよ! だって、大好きなみんなとこれでお別れなんだよ」
「ああ、そうだな」
「ここまで色々あったけど、ズズ、みんなで一緒に文化祭の準備をしてるみたいで楽しかったなぁ」
「文化祭って、ノリ軽いな!?」
「でもホントそうだね。なんかずっと仲の良い友達同士で合宿とかキャンプしてる感じだった」
「そうさ、これは長い長い合宿だったんだ。それが明後日には帰宅して現実に戻るってだけだよ」
「明後日? 明日じゃなくて?」
「だって今日はしこたま飲んじゃってるからさぁ、明日は働けないよ」
「あ、そうか」
「そうだ! ≪リセット≫ してまた召喚されたときに戻ってもさ、もう1回このメンバーで旅行に行こうよ!」
「それいいね! 絶対そうしよ!?」
「いい? DCOが ≪リセット≫ するんだからね。DCOがちゃんとこのことを私達に伝えてくれないといけないんだよ。ちゃんと覚えててよね」
「魔王を倒したあとってことになるだろうから、きっとここで見てきた世界とはまた違う世界が広がってるんだろね」
「そうだね、いまの魔物だらけの世界と違って、もっとずっと楽しい世界になってるんだ」
「オレもその案には賛成だ。DCO、頼むな?」
「いくらオレだってそのくらい覚えてられるさ。だけど明日もう1回言ってね。いまは酒飲んでるからひょっとすると何も記憶に残らねえかもしれねえや」
「おう、≪リセット≫ する前に言うようにするよ」
「「楽しみー!」」
「はっはっはっ、僕は、パスだ。旅行ならみんなで行ってきてくれ」
「あ?」
「ええ~、なんでよ?」
「みんなで行こうよぉ」
「だって元々僕はみんなと仲良くなかったからな。3年間、同じ釜の飯を食った思い出もなしに、≪リセット≫ した後のキミ達が僕を誘ってくれるとは思っちゃいない。賭けてもいい」
「お前はまたなんでも賭け事にしようとするなって」
「もう、せっかく盛り上がってるのにそんなこと言うんだから」
「でもさ、それってつまり誘ったら一緒に行ってくれるってことだよね?」
「そうだよそもそもGLOはみんなと旅行に行きたいの? 行きたくないの? まずはそこをはっきりしてよ」
「ほらGLO~、こっち向いて~。恥ずかしがらなくていいんだよ~。DCO以外はみんな泣きっ面になってんだから」
「ぐす、そりゃあ、一緒に行けるなら行きたいよ。ぐすん。でも・・・・・・」
「うんうん、いいんだよ。なんでも言ってみ? いままでみんなに内緒にしてさ、裏で色々とがんばってくれてたんだろうけど、もう、何も胸の内にしまっておく必要なんてないんだ」
「うん・・・・・・でも、ダメなんだよ。≪リセット≫ すると、≪リセット≫ したヤツ以外のヤツはあくまで ≪セーブ≫ した時点のそいつとしてスタートするんだ。それ以上でもそれ以下でもなく、単純に、ピンポイントでその時点のそいつってだけで・・・・・・だから、正直な話、僕だけじゃなくて、みんなも同じさ。≪リセット≫ した後にいくらDCOがいまの計画の話をしたところで、それを信じるヤツが1人いるかどうかさえ、分からない」
「うん」
「だから、旅行計画の話を聞いてると、余計に悲しくなった。ぼ、僕も、みんなのことが好きだから・・・・・・」
「おう、明日雨どころか明日で世界が消滅するようなこと言ってんじゃねえよ」
「もう、茶々入れないの!」
「いや、まさかGLOがそんなこと言うとは思わなかったからさ。へへ」
「・・・・・・だから、あえて期待しないで済むように、断りを入れただけさ。ごめんな。本当は、まだまだみんなと一緒にいたい」
「分かるよ」
「でもさ、僕は明後日、DCOが ≪リセット≫ して戻って来たとき、当時の僕がなんて反応するのかも楽しみなんだよ」
「そうだね。それはあとでDCOに報告してもらわなきゃね」
「といってもDCO以外は今日のことを覚えておけないんだろ?」
「・・・・・・・だな。・・・・・・旅行、計画のことも、だ」
「もう! PAOまでデリカシーがないんだから!」
「いいじゃん、男同士なんだし」
「そうだよ、男の子同士は細かいことなんて気にしなくたっていいんだよ」
「ああ、それはつまり女子には気を遣えってことだな? ふん、誰が気ぃなんか遣うかってんだ」
「ふふ、DCOにはそういうの期待してないからいいです~」
「DCOは男とか女とか関係なく付き合ってる感じがいいよな」
「「「「PAOも人のこと言えないでしょ!!」」」」
「お? おう」
「あら、GLO眠ったのかな?」
「ホントだ」
「毛布掛けて寝かせとこう」
「そだね」
「1人だけ飲んでる量が違ったからなぁ」
「たぶん、今日はGLOにとっても特別だったんだよ。いっつもお酒飲んで帰ってきてもこんなに酔っ払ってたことってなかったじゃん」
「・・・・・・それじゃ、私達もそろそろ寝ますか」
「そうだな」
「じゃ、おやすみ~」
「おやすみ~」
「じゃあね~」
次回から一転攻勢です!
(※)酢豚にパイナップルで肉が柔らかくなるは諸説あるうちの1つらしいですね